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『どうすれば日本経済は復活できるのか』 全文公開:第1章の2

『どうすれば日本経済は復活できるのか』 (SB新書)が11月7日に刊行されました。
これは、第1章の2全文公開です。

2.日本病の原因は、人口高齢化か?

なぜ日本病に陥ったのか?
 1で述べたように、2000年のG8サミットでは、日本は1人当たりGDPがG8で最も豊かな国であった。しかし、2023年のサミットでは、最も貧しい国になってしまった。この二十数年間に、世界経済での日本の位置は、大きく低下した。
 経済の不調はすべての国が同じような経験をしているわけではない。日本がとりわけ大きな問題を抱えているのだ。しばしば「日本病」と言われるが、これは決して間違った表現とは言えない。
 日本経済を考える際には、なぜこうなってしまったのかを明らかにする必要がある。それを解明して政策に反映させることが、将来を考える上で最も重要だ。

人口高齢化による労働力不足が原因か?
 日本病の大きな原因として考えられるのは、少子高齢化の結果、労働力が不足していることだ。そうであれば、それに対処するための適切な政策が取られたかを検証する必要がある。
 多くの先進国が積極的に外国人労働力を取り入れているのに対して、日本は不十分な政策しか取らなかった。そのことに対する反省が必要であり、政策を変える必要がある。また、女性や高齢者の就業に対して適切な措置が取られていたかも問題だ。
 このような検証と政策の転換は、十分に行われているとは言えない。実際に行われたのは、日本銀行による金融緩和政策であった。そして、物価を引き上げることが政策目標とされた。

日本銀行は、金融緩和政策の総括で日本衰退の原因をどう説明するか?
 日本銀行は、植田和男新体制の下で、これまでの金融政策の評価を行うとしている。その中で注目すべきなのは、先に述べた問題に対して、どのような答えを出すかだ。
 私は、金融緩和と円安政策を進めたことが、日本企業の技術革新力を喪失させた根本的原因だと考えている。そして、技術開発力の衰退が日本衰退の最大の原因だと考えている。しかし、日本銀行は、そのような結論は出さないだろう。
 出生率の低下と人口高齢化の進行が日本経済衰退の根本的な理由だと言うのなら、日本銀行が金融緩和を進めたところで、何の効果もないはずだ。それにもかかわらず、金融緩和政策を推進し、市中に存在する国債の半分以上を購入したのは、一体なぜだったのか? 
そしてなぜ金利の上昇に強く抵抗したのか? 日本銀行はこうした疑問に答える必要がある。

長期的な見通しがないままのバラマキ政策
 現在の日本では、以上で呈した問題についての解明もなく、また経済の長期的な見通しも立てられていない。
 さらには社会保障の長期計画もない。公的年金については財政検証が行われているが、実質賃金は非現実的な高い値が想定されている。政府は中期財政試算(内閣府「中長期の経済財政に関する試算」)を公表しているが、その見通しと具体的な政策がどのように関連しているかは、はっきりしない。
そして、長期的な見通しを持たないまま、バラマキ政策が行われている。問題が生じれば、その都度補助金を出す。出生率が低下すれば、児童手当を増額する。半導体産業で日本が弱体化すれば、日本に工場を誘致するための補助金を出す。日本の大学の世界ランキングが低下すれば、大学ファンドを作り、研究補助金を出す。デジタル人材が少なければ、リスキリングに補助金を出す。
 このように、問題が生じれば補助金を出すが、全体として日本がどんな問題に直面し、何を目指しているかが不鮮明である。したがって、これらの補助金は何の役にも立たない。それどころか、企業が補助金に依存する体質を作り出している。

春闘は日本経済の転換点になるのか?
 日本経済が抱えている最大の問題は、賃金が上昇せず、長期にわたって停滞していることだ。
 ところが、2023年の春闘は、30年ぶりの高い伸び率で、3・58%だった。これが日本経済の転換点になるだろうとの見方もある。
 しかし、これは物価の上昇を反映したものにすぎない。消費者物価の上昇率は22年度4月以降2%を超えるペースが続いており、昨年は3・0%の上昇率となった。
 今後、消費者物価の上昇率が低下することが期待されるが、それでも2%程度の上昇は避けられないだろう(第5章で述べるように、日銀の見通しでは、23年度の物価上昇率は2・5%)。
 仮に日銀の見通しどおり、物価上昇率が1・8%であるとすれば、春闘による賃上げ率の実質値は1・8%程度ということになる。これは、これまでの値に比べて決して高いものではない。むしろ低いと評価してもよい。したがって、賃金は物価上昇に十分対応できなかったと考えるべきだ。
 さらに問題なのは、経済全体の賃上げ率は、春闘のそれに比べてかなり低いことだ。実際、経済全体の実質賃金の伸びは22年からマイナスを続けており、実質賃金指数は極めて低い水準に落ち込んでしまった。ここからの回復は難しい。23年の春闘が、日本の賃金上昇の大きな転換点になるなどとは、とても考えられない。

当面の目標はヨーロッパ諸国に追いつくこと
 日本とアメリカの間には大きな差ができてしまった。産業構造も大きく異なる。残念ながら、日本がアメリカのようになることは、もはや夢のような話になってしまった。
 ヨーロッパ諸国と比べてみると、イギリスやドイツは日本より所得が高い国となっている。イギリスは金融業を中心として回復しており、日本がこれをまねるのは難しい。しかし、ドイツは、日本と同じく製造業中心の産業構造を続けており、違いはそれほど大きくない。それなのに、なぜ日独の逆転現象が起きたのかを分析することが重要だ。
 アジアでは、台湾や韓国が日本とほぼ同じ1人当たりGDPの水準になっており、経済成長率も高い。このため、これらの国々は近い将来、日本より豊かになると考えられる。これも重要な変化として捉えるべきだ。
 目標としては、ドイツやイギリスに追いつくことを考えるべきだろう。そして、台湾、韓国との差が拡大しないように努めるべきだろう。


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