米中貿易戦争の行方:トランプの真意はどこにあるのか?
米中貿易戦争が、歯止めを失って拡大し始めた。
8月23日、中国が報復措置をとり、トランプ米大統領が中国に対する追加関税措置を強化した。
NY市場ではダウ平均株価が大きく下落。また、為替市場では、円高が進んだ。
これまでの追加関税は、元安によってかなりの程度打ち消されている。
今回の措置によっても元安が進行するだろうが、そうなると、中国からの資本逃避が増加する危険がある。
元レートをいかなる水準にすべきかについて、中国政策当局は難しい選択を迫られている。
トランプ大統領は、FRBに強い緩和圧力をかけている。金融市場はすでに利下げを織り込んでしまっているので、9月の利下げは不可避だろう。
ただし、それによって現在の状況が改善されるわけではない。パウエル議長が「政策対応の見本になる先例がない」と言っているとおりだ。
トランプ大統領は、「アメリカの企業には中国からの生産移管を命じる」とツイートした。
このツイートがなくても、中国からの生産移転は生じるだろう。これこそが、中国経済にとって最大の打撃だ。
ただし、トランプ大統領が望むように工場がアメリカに戻ってくるずはない。現在中国に生産拠点を置く世界の企業は、中国から脱出して東南アジアに移るだろう。
しかし、これは、経済的に見て最適なサプライチェーンとは言えないものなので、企業にかなりのコスト負担を強いる。WTOは、こうしたときにこそ、高関税掛け合いのコストを評価し、公表すべきだ。そして、自由貿易の重要性を世界の世論に訴える必要がある。
こうしてみると、対中国貿易戦争がアメリカ経済に与える悪影響が今後ますます明確になる。他方で、それによってアメリカに工場が戻ってくるわけではない。「景気が悪くなるのはFRBのせいだ」と言っても、説得力はない。
そうなると、大統領選挙に向けて、トランプは難しい立場に置かれる。
「中国のような国に未来世界の覇権を握られるのは許せないので、コストを覚悟でとことんやる」という信念があるのだろうか?
事態がこうなってくると、トランプの思考回路の分析が必要になってくる。「トランプの真意はどこにあるのか?」
強い信念を持つ人なのか?
それとも、単に経済が分からないだけのことなのか?
それを明らかにするには、精神分析の知見も必要だろう。
専門家の意見を聞きたいものだ。
もう一つ驚くのは、アメリカでは、大統領一人の意向で、かくも簡単に関税が決められてしまうことだ。日本では考えられない。
問題は日本だ。特に円高の影響だ。
アメリカの利下げと投資家のリスクオフ行動という2つの要因によって、円高が進むことは避けられない。
これにより、輸出産業や外国人旅行者に依存していた産業が大きな打撃を受ける。
それだけでなく経済全体で、企業の減益が進むだろう。
週明けの金融市場の反応が注目される。
ところが、こうした動きに対して、日本の政策当局は有効な政策手段をもっていない。「追加緩和」というが、国債購入を増やせるわけではない。考えられるのはマイナス金利を強化することだが、そうなれば、金融機関の採算はさらに悪化するだろう。
この問題と消費税増税とは別のことだが、景気次第では、「景気が悪化するから消費税増税は再延期」という短絡的主張が力を増すことがありうる。
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