スコットランドのメアリ
S. ツヴァイクは、スコットランド女王メアリ・ス チュアート( 1542年 - 1587年)の肖像画は二流の画家によるものばかりなので、彼女の魅力を伝えていないと言う(『メリー・スチュアート』、みすず書房)。それなら、超一流の女優に演じさせてみよう。
映画「スコットランドのメア リ」(Mary of Scotland、1936年:ジョン・フォード監督)で、若き日のキャサリン・ヘプバーンがメアリを演じている。この映画でのヘプバーンは女王そのものだ。彼女ほど女王を女王らしく演じられる女優はいないし、逆に、ヘプバーンは女王を演じるときに、もっとも生き生きしている。
DVDはあるのだが、日本のエリアコードのものはない。アマゾンで中古品が手に入るが、やたらと高い。アメリカから購入したほうがよい。
衣装にも 金を掛けているので、当時の雰囲気を楽しむことができる。
メアリを描いた(あるいは登場する)映画は、他にもいくつもある。たとえば、「エリザベス」(1998年)。しかし、これははエリザベスの側から描いているので、メアリの陰が薄く、魅力的でもない。
実際のメアリもキャサリン・ヘプバーンのイメージの人だったと考えることにしよう。
ところで、スコットランド女王メアリの 4人の宮内女官は、すべて女王と同年齢のメアリだった。
どう呼び合っていたのかと、気になる。物心つく前からいつも 一緒で、メアリ・シートンは、メアリの処刑まで見届けた。
ちなみに、メアリ女王の母親もメアリ(マリ・ド・ギース)だったので、彼女を含めると、6人のメアリが、このときのスコットランド宮廷にいたことになる。
フランス宮廷で育てられ、アンリ2世の王太子フランソワと結婚式した。エリザベス1世がイングランド女王に即位すると、アンリ2世は「庶子であるエリザベスの王位継承権には疑義があり、メアリーこそ正当なイングランド王位継承権者である」と抗議した。
フランソワ2世が16歳で病死し、子供がなかったメアリーは、スコットランドに帰国した。
エリザベス暗殺計画の暗号連絡文が解読され、それが決定的な証拠となって、メアリは逮捕された。メアリが使った暗号は、平文文字と暗号文字を1対1に対応させるものだが、この種の暗号は、暗号文が十分長ければ、頻度法で解読できる。だから、解読者が優位な立場にいた。
ツヴァイクが示唆したように、騎士の時代は終わり、テクノクラートの時代が始まっていたのだ。
メアリーは、87年、フォザリンゲイ城のホールで 処刑された。映画は処刑の場面も描いている。
「スコットランドのメアリ」には、処刑の前 日にエリザベスがフォザリンゲイを訪れてメアリと話す場面がある。しかし、実 際に2人が会ったことはなかった。
この映画は、メアリの側から描いているので、エリザベス は影が薄い
ツヴァイクによれば、「(エリザベスは)明敏な人たちで取り囲まれていた」「彼女の周囲には、・・・完全な参謀本部があった」「きわめて完全な組織を自分の周りにつくることができたので、・・・彼女の名前に結合している測りない名声は、優秀な助言者たちの無数の業績を内包している」(ツヴァイク、『メリー・スチュアート』)。
エリザベスが重用し、イングランドの命運に重大な影響を与えた人物としては、40年にわたってエリザベスを補佐したウィリアム・セシル (バーリー男爵)と、スパイと秘密警察活動で凄腕を発揮したフランシス・ウォルシンガムがいた(彼が、暗号を解読した)。
それに対して、メアリは勝手気儘なことをしただけで、国を導くという考えなど毛頭なかった。王妃だったフランスから帰国してすぐ、故国の貧しさに幻滅した。だから、スコットランドに愛情を持っていたとは思えない。「彼女が書いたいく百の手紙はすべて、彼女の個人的権利の確保、拡大にのみむけられているが、国民の福祉とか、商業、航海、戦力の促進を問題にしている手紙は、まったくただの一通もない」(ツヴァイク、『メリー・スチュアート』)。
ツヴァイクはいう。
「(エリザベスは)独裁制から立憲制へと進んでゆく時代の動向を理解していた」
「メリー・スチュアートとエリザベスの間の戦いが、進歩的で世慣れた女王の方に有利に、後ろ向きで騎士的な女王の方に不利に決着したのは、決して偶然ではなかった。
この2人は、別の世界において勝利を得たのである。「リアリストのエリザベスが歴史において」。そして、「ロマンティストのメリー・スチュアートは文学と伝説において」。
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