日本経済を理解する3つのステップ
◇3つのステップ
経済問題については、与えられた情報を受動的に受け入れるだけでなく、自分から進んでデータを調べることが必要です。
それによって経済に対する興味がわくでしょうし、理解が深まるでしょう。
そのためにつぎのステップを踏みます。
1.疑問を持つ
2.仮説を立てる(疑問への説明を考える)
3.データで仮説(説明)が正しいかどうか確かめる
なお、このプロセスは、経済についての理解を深めるだけでなく、会社で新しい事業計画などを考える際にも応用できるでしょう。たとえば、「売り上げが伸びた商品はなぜそうなったのか?」という疑問を持ち、その分析結果を将来の事業計画の参考にするなど。
◇ 具体例: 株価はなぜ上がった?
この過程を具体例で説明しましょう。
1.疑問を持つ:「株価はなぜ上がった?」
アベノミクスの7年間に株価は上がりました。では、なぜ上がったのでしょうか?今後も上がり続けるでしょうか?
この疑問を持つのは、あなたが株式に投資しているからかもしれませんし、あるいは純粋に好奇心からかもしれません。
いずれにせよ、疑問を持つのは、すべての知的活動の出発点です。
2.仮説:「円安で企業利益が増えたから」
仮説は疑問を説明しようとするものです。
「なぜそうなっているのだろうか?通常言われている説明は正しいのか?」などを考えます
仮説は、誰かが言っていることでもよいし、自分の考えでも構いません。 企業利益が増えた理由として普通言われているのは、「円安で輸出が増加し、このため製造業を中心として企業利益が増えた」というものです。この仮説(説明)は正しいでしょうか?
3.データによる検証
データが仮説に合致していれば、仮説は支持された(正確には、否定されなかった)ことになります。
したがって、この仮説(理解)を用いて将来を予測することができるでしょう。もし上の説明が正しければ、株式投資をしている人は、為替レートと輸出の動向を注意深く見守るべきだということになるでしょう。
仮説がデータで支持されれば、一つの論考を書くことができます。
また、関連してさらに新しい疑問が生じるでしょう。こうして考えが次々に広がっていきます。
データが仮説の結果と食い違っていれば、仮説(説明)は正しくないことになります。
そこで、別の新しい仮説を立てます。
暫く前までは、個人がこの第3段階の作業を行うのは、大変なことでした。
いまは、信じられないほど簡単になりました。
ただし、必要なデータがどの統計サイトにあるかや、その扱い方などを知っている必要があります。本書は、これについてのガイドを行っています。
◇実際にデータを扱ってみる
以上のプロセスを実際にやって見ましょう。
データとしては、法人企業統計調査から得られるつぎのデータを用います。
下の「ダウンロード」と表示してある緑のボタンを押してください。すると、法人企業統計から売上高や営業利益などの指標の時系列データを取り出したエクセルファイルが開けます。
このファイルをダウンロードすれば、グラフを書いたり、比率や成長率を計算することなどが、自由にできます。
このデータを使って、まず仮説:「株価が上昇したのは、企業の利益が増えたから」を確かめてみましょう。これは確かにその通りです。
2012年1-3月期から2019年1-3月期までの間に、全産業の営業利益は、65.4%という驚異的な増加率を示していることが分かります。
ここで、次の疑問がわくはずです。「なぜ企業の利益が増えたのか?」
ここから問題がややこしくなります。
普通言われている説明(仮説)は、アベノミクスで金融緩和が行われ、その結果円安になり、輸出が増えたために利益が増えたと言うものです。この仮説は正しいでしょうか?
もしそうなら、売り上げ増加率は、製造業のほうが非製造業より高くなるはずです。なぜなら、輸出は主として製造業の売り上げを増やすからです。
これをデータで確かめてみると、つぎのような意外な事実が分かります。
非製造業の売上高は10.9%増加しているのですが、製造業はこの間に売上高が減少しているのです。
では、企業利益はなぜ増えたのか?
ここから、本書の第1 章の議論が始まります。
なお、このデータを見ていると、売り上げの増加率はさほど高くないのに、利益の増加率は非常に高いこともわかります。
売上高の増加率は7.4%でしかないのに、営業利益は65.4%も増加しているのです。製造業は、売上高が減少しているのに、営業利益は 56.4%も増加しています。
これはいったい何故なのでしょうか?これは新しい疑問となるはずです。
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法人企業統計調査には、上でダウンロードした以外のさまざまなデータがあります。これは、このサイトで入手することができます。
ただし、使い方はやや面倒です。説明は、こちらをご覧ください。
日本経済全般についてのデータリンク集は、こちらです。
なお、エクセルファイルのデータからグラフを描く方法は、この記事を参照してください。
図表1-1のグラフを描く方法:統計データを自分が見たい形で見る:GDP統計)
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