危機意識がなければ何も進まない(「超」整理日記、第968回)
◇ 危機意識のない日本人
「国民の一人一人が、日本経済の現状について危機感を持たなければならない」
先日あるテレビ番組でこのように発言したところ、「普段の報道ではそのようなことが伝えられていないので、重要な指摘だった」と言われました。
指摘を理解してもらったことは大変嬉しいのですが、「普段はそうしたことは報道されていない」と聞いて、びっくりしてしまいました。
改めて見回してみると、確かにそうです。
株価は上昇を続けています。来年の上半期に日経平均株価が25,000円を超えるだろうと予想もありました。
米中貿易戦争が収束に向かうという予想なのでしょう。
それでアメリカの株価が上がるというのは分からなくはないのですが、日本の株価がなぜ上がるのか?
日本の輸出は昨年に比べて1割近く落ち込んでいます。製造業の利益は大きく落ち込んでいます。
製造業に続いて非製造業の売上げも落ち込み始めました。
「オリンピック後の日本の景気が心配だ」という人が多いのですが、建設業の売上高はすでに減少を始めています。
景気を表す指標は軒並み落下しています。
金融緩和をしたらよいという声もありますが、緩和といっても何をできるのでしょうか?
マイナス金利をさらに推し進めたところで、金融機関の収益が減少するだけでしょう。
◇ 生産性低下の悪循環からどのように脱却できるか
賃金が上がらないことは広く認識されています。
しかし、「増えた利益を賃金に回せ」といったところで、問題の解決にはなりません。
利益が増えたのは、新しい技術を導入して生産性を高めたからではなく、賃金を押さえたからです。因果関係は逆です。
これが、『野口悠紀雄の経済データ分析講座』(ダイヤモンド、2019年)で訴えたかった基本的なメッセージです。
つまり、日本経済不調の基本的な原因は、生産性が高まらないことです。
最近では、生産性が下落しつつあるという統計的な証拠があります。
このままでは、賃金が上がらないために優秀な人材を日本にとどめおけず、その結果生産性が上がらないという悪循環に陥ってしまう危険があります。
では、生産性を上げるために何をしたらよいのでしょうか?
これは極めて難しい問題で、簡単に答えが出るものではありません。
しかし、「そのうち何とかなるだろう」とか、「騒いだところで変わらない」と言っていては、状況は一歩も進みません
まず必要とされるのは、現状を正しく理解し、危機意識を持つことです。これがなければれば何も進みません。
問題を認識し、それに対して努力をすれば状況が変わってくるはずです。
それを示しているのが、つぎに述べる井の頭公園の池です。
◇ 「かいぼり」で池の自然が復活した
いま、井の頭公園に自然が復活しつつあります。
池の水がきれいになって、底が見えるようになりました。
夏の間は、復活した水草「ツツイトモ」が水面を覆っていたために見えず、また秋になってからは雨の日が多かったので確かめられなかったのですが、先日、池を見ると、底が見えたので、感激しました。
これは、この数年来続けられた「かいぼり」の成果です。これは池の水を抜いて底を日光に晒すという操作です。
2014年に第1回目が行われ、それ以来3回行われています。
これによって外来種の水生生物が減り、在来種が増えているなどの報告がなされていましたが、成果が誰もがはっきり見える形になったのは、今年が初めてではないかと思います。
人間は自然を汚染するだけではなくて、自然をきれいにすることもできることが実証されたわけで、素晴らしいことだと思います。