AIがあれば人間が知識を持つ必要はなくなるか?
<知識が増えれば創造が容易になる>
AIの進歩によって、検索がますます容易になっています。
自然言語によって検索できるし、スマートフォンで撮った写真などの画像を見せれば、それを検索してくれるようになりました。 図形認識の精度が上がれば、さらに大量の情報を得られるでしょう。
また、セマンティック検索が可能になりつつあるので、曖昧な質問であっても、それに答えてくれるでしょう。こうした技術は、今後もますます進歩するでしょう。
有能な物識りをいつも連れて歩いているようなものなので、あるいは、誰もが物識り博士になることができるようなものなので、われわれの世界の認識は大いに広がるでしょう。
ところで、AIに聞けば何でも教えてくれるということであれば、勉強して知識を得る必要はなくなるのでしょうか?「人間は知識を持っていなくてよい」ということになるのでしょうか?
決してそうではないと思います。知識を得るのが容易になるということは、知識を獲得して新しいものを創造するのが容易になるということです。
知識を蓄積するのは、創造にとっては不可欠なことです。人間が新しいアイディアを発想するためには、内部情報との照合が必要であり、内部情報を持っている人ほどたくさんの発想ができるからです。
したがって人々が多くの知識を獲得し蓄積することによって、創造が進むことが期待されます。
また、音声認識の制度はさらに上がることによって、思いついたアイディアをすぐに書き留めることができ、「アイディア製造プロジェクト」の能率が上がるでしょう。
なお、画像認識で不定形な情報を読み取ってくれれば、小企業や個人の事務処理能力が向上するでしょう。
<勉強が容易になり、楽しくなる>
外国語の自動翻訳の能力が向上してきました。これによって、外国語の文献を読むのが容易になりました。現在のところ、その能力はまだ満足すべきものではありませんが、今後、さらに能力を向上させるでしょう。
では、自動翻訳の能力が向上すれば、外国語を勉強する必要はなくなるのでしょうか?通訳は必要なくなるのでしょうか?外国の勉強をする必要がなくなるでしょうか?
人類は、ついにバベルの塔の混乱を克服するのでしょうか?
私は、決してそうは思いません。とくに文学作品についてはそうです。
ゲーテのファウストは、英語に翻訳するだけで価値が下がってしまいます。ドイツ語によってしか、鑑賞ができないものです。一般に、文学作品は、原語でしかその価値が分かりません。詩はとくにそうです。
私が重視したいのは、AIの能力向上によって、勉強が容易になり、勉強するのが楽しくなったということです。
とりわけ、外国語の音読が簡単に聞けるようになったことです。それによって、外国語の勉強が容易になりますし、興味を持ち続けることが可能になります。
ですから、AIの自動翻訳によって外国語の勉強が不必要になるのではなく、外国語の勉強がさらに進められるのです。
もちろん、事務的な文書等については、自動翻訳によって意味を捉えれば十分という場合も多いでしょう。あるいは、店舗の店員が外国人旅行客と意思疎通できれば、よいという意見もあるでしょう。
しかし、そうした場合についても、自動翻訳に任せきりでなく、人間同士が話し合えるほうが望ましいことは、間違いありません。
<AIによる創造と人間の創造の違い>
最近のAIは自動的に文章を書くことができます。スポーツや株式市況の報道などでは、すでに実際に使われています。
こうしたサービスは、すでに個人でも使うことができます。いくつかのキーワードを与えると、それに関する文書を資料を作成してくれるサービスが、すでにウェブに提供されています。
ただし、試してみると、確かに文章を書きはするのですが、使えそうなものにはなりません。現在の能力では、実用に耐えるようなものにはなっていません。
将来能力が向上するとしても、人間が書く文章を全面的に代替することになるとは、とても考えられません。
人間が文章を書く行為は、AIが行なっているように、「さまざまなキーワードを組み合わせてありうる組み合わせを作る」ということとは、本質的に異なるものです。ですから、こうしたものによって、人間が文章を書く必要がなくなるとは考えられません。
<「マテリアルズ・インフォマティクス」について>
もちろん、AIの創造性といわれるものは、以上で挙げたものには限りません。
AIは、自然科学上の新しい理論の発見もできるといわれます。これは、「さまざまな組み合わせを試み、それに偶然の変化を与え、その中でものになりそうなものピックアップする」という方法です。
こうした方法の中には、すでに成果を上げつつあるものがあります。それは、「マテリアルズ・インフォマティクス」と呼ばれるもので、AIによって、新材料の開発や代替材料の探索などを、従来のl方法より効率的に行うことが可能とされます。
無限ともいえる物質の組み合わせの中から役に立つのはどれかを探し出します。例えば、80億通りもの候補の中から最適な構造を見つけたとか、人間では思いつかない成果が出始めているなどといわれます。
アメリカ政府が2011年に推進策を打ち出して以来、世界的に研究が活発になっています。
ただし、この場合も、問題の設定は人間の役割です。また、どんなデータを使うかの決定も人間が行なう重要な役割です。
また、ここでは、少ない情報から重要な特徴を見つけだす「スパースモデリング」と呼ぶ手法がよく使われます。これは、得たい情報を少数のデータから抽出する手法です。MRIで体内のデータを集めて体の断面の画像を作成する際などに用いられる手法です。この適用に当たっても、人間の判断が重要な役割を果たします。
さらに、過学習とよばれる問題に対処するには、人間の判断が重要です。
もっとも重要なのは、「考えられるすべての組み合わせを試みることによって創造行う」という手法が、すべての創造行為に適用できるとは考えられないことです。
むしろ、人間の創造過程で重要なのは、ある種の方向性を持って探索を行ない、無駄なものは最初から試みないという点なのです。
アイディア製造工場によって進めようと思うのは、そうした方向のものです。ここで創造を試みるのは人間です。これは上で右で述べたようなAIの創造過程とは全く異なるものです。
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AIの眼を駆使する「超」仕事法(目次)