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『プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」』 全文公開:第1章の3

『プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」』 (朝日新書)が9月13日に刊行されました。
これは、第1章の3全文公開です。

3 「値段の 安い日本」が問題なのでなく、「賃金が低い日本」が問題

日本の賃金が低いから安く作れる
 ビッグマックやラーメンの価格が外国で高く、日本で安くなるのは、なぜだろうか?その基本的な原因は、 日本の 賃金が低いことにある。そう考えられる理由を以下に説明しよう。
  日本の賃金が低いことは、次の2つの意味で、日本のビッグマックやラーメン価格を引き下げる要因となる。
 第1は、 供給コストの問題だ。
 ビッグマックやラーメンは、労働集約的な製品だ。つまり、コストの中で、原材料費よりは賃金が大きな比重を占める。ところが、日本ではこれらを作って提供する人々の賃金が低いから、価格が安くなる。それに対して、アメリカでは、これらを作り販売する人々の賃金が日本より高いから、価格が高くなる。
 ビッグマックやラーメンの原材料は貿易されているので、その価格は、世界でほぼ均一になる。しかし、賃金では、こうしたメカニズムが働きにくい。だから、価格が同じにはならない。つまり、世界的な 一物一価が成立しないのだ。
 ラーメンの価格差がビッグマックの価格差より大きいのは、労働コストの比率が高い(より労働集約的)からだろう。
  iPhoneは先端技術の塊のようなものだ。半導体回路を設計するアメリカの技術者の賃金が非常に高いために、製品の価格が高くなる。
  アップルの最高クラスの エンジニアの年収は、約100万ドルだ。日本円に換算すると、1億3000万円程度になる(アメリカの就職情報サイトLevels.fyiのデータによる。なお、これに関する詳細の議論は、第6章で行なう)。日本の電機メーカーの賃金に比べれば、10倍以上の開きがある。高度専門家の日米格差は、一般的な 賃金格差よりも大きいのだ。

賃金が低いから高いものを買えない
 賃金と価格との関係として、前項ではコスト面からの影響を考えた。それは、商品の生産や提供にかかる費用が、その商品の価格を左右するということだ。
 しかし、賃金と価格との関係は、コスト面からのものだけではない。需要面からの影響も大きい。
 賃金が高ければ、高価な商品でも購入できる。アメリカでは賃金が高い。だから、ビッグマックやラーメンが高価でも購入することができる。それだけでなく、ラーメン店に行列ができるという現象も発生する。
 ところが、賃金が低いと、高価な商品を購入する能力は限定される。日本では、賃金水準が低い。だから、高い価格では商品が売れない。その結果、ビッグマックの価格もラーメンの価格も低く設定されることになる。このようにして、賃金の差が商品の価格の差を生むのだ。
 日本でも「ラーメンの価格を高くしたらよいではないか」という意見があるかもしれない。そうすれば、ラーメン販売者の所得が高くなるという考えだ( 日本銀行が、 金融緩和で物価を引き上げようとしたのも、こうした考えに基づくのかもしれない)。
 しかし、日本の安月給では高価なラーメンは買えない。だから、価格を上げれば、ラーメンは売れなくなる。
 このように、需要面から見ても、 日本の賃金の低さが、ラーメンの価格が日本で安いことの原因となっているのだ。賃金が価格に及ぼす影響は、単にコスト面からのものだけでなく、消費者の購買力からの影響も大きい。


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