通商法301条が復活したのは、アメリカの新しい危機感によるのか?
8月23日にトランプ大統領が中国の報復関税に対して追加関税を発表したことで、米中貿易戦争が拡大し、世界経済の混迷が深まっている。
円レートは、8月26日に、一時1ドル=104円台半ばまで上昇した、日経平均は一時500円超安となった。
そもそも今回の事態には、よくよく考えて見ると理解しにくい面がある。
もっとも理解しにくいのは、大国アメリカのトップとはいえ、1人の大統領の発言だけで、しかもTwitterなどでのおよそ無責任な発言だけで、全世界の市場がかくも簡単に大混乱に陥ってしまうということだ。
これは、どう考えてもおかしい。
もともと、アメリカの政治システムでは分権化が徹底しており、大統領1人に権限が集中しないような仕組みになっているはずなのだ。
税制の決定についても、議会が権限を持っており、大統領が勝手に動かすことはできない。
だから、関税率の変更を、大統領一人の意向でかくも容易にできるというのは、腑に落ちない。
形式的に言えば、今回の中国産品に対する追加関税の法的根拠は、通商法301条の規定だ。これは貿易相手の不公正取引に対抗する制裁手順を定めたものである。
不公正かどうかは、米通商代表部(USTR)が調査・判断し、制裁措置の発動は大統領が行う。議会の承認は必要ない。
(なお、2018年3月に行われた鉄鋼・アルミニウムへの追加関税賦課は、「通商拡大法」第232条を法的根拠としている)
どうしてこのような規定が、アメリカに存在するのだろうか?
この規定は、1974年に制定された。
そして、1980年代の日米貿易摩擦の際には、ニュースに頻繁に登場した言葉だ。
1987年、アメリカは、301条に基づいて、コンピュータ、カラーテレビ、電動工具について、100%の報復関税をかけた。
1988年には、「スーパー301条」を新設し、不公正な貿易障壁や慣行があるとアメリカが認定した場合、一方的に制裁措置をとることができる とした。
スーパー301条は、日本を対象に作られたものといわれた。
スーパー301条は、2001年に失効した。
その後、1995年に公平平な自由貿易の発展を目的として世界貿易機関(WTO)が発足して以降は、通商法301条の発動は控えられるようになった。
しかし、それが復活したのだ。
そして、中国産品に対する追加関税だけでなく、他の場面でも登場している。
アメリカは、フランスが進めるグーグルなどIT大手への「デジタル課税」について対抗措置をとる準備を始めたと報道されているが、これも301条に基づくものだ。
1980年代に301条が用いられたのは、日本製品のアメリカ市場への流入で、アメリカが深刻な危機感を抱いたからだ。「このままでは、アメリカ市場が日本製品によって席巻されてしまう」と考えられたのだ。
では、いまこの異常な規定がアメリカで復活したのは、なぜだろうか?
単に、トランプ大統領の気まぐれによるのか?
それとも、アメリカの新しい危機感によるのだろうか?そうだとすれば、その危機感とはなんだろうか?