老後資金に関するアンケート結果(その2)
「年金だけでは老後生活には不十分で、2000万円程度の蓄えが必要」とする金融庁の報告書をめぐる論議が続いています。
この問題についてのさまざまな方の考えを探るために 、noteにおける私のページで、「老後資金に関するアンケート」 を行ないました。
2019年6月18日 11:30に質問を公開、6月21日朝までに149件の回答をいただきました。その結果を以下に紹介します。
◇第1問 あなたは、金融庁の報告書をどう評価しますか?
約8割(78.9%)の人が、「老後資金に関する適切な注意だ」としました。「いたずらに不安を煽った」との回答は、7%でした。
「その他」の回答としては、「政府が年金だけで老後を送れると約束したと受け取っている人は少ない」、「野党が言うように100年間年金だけで生活とできると思っているわけではない」などがありました。
これは、実態にあったものであり、冷静な受け取り方だということができるでしょう。
野党の批判が的外れであるとし、 他方で、政府がいうようにこの報告書が不適切だとも考えられていないのです。
老後生活に必要とされる資金が、個々のさまざまな条件によって大きく変わることは間違いありません。報告書もその旨を断っているし、このアンケートでも、多くの人がそのように受け取っています。
また、以下で述べるように、多くの人が、「年金に全てを期待するのは間違いだ」との考えを述べています。
こうした理解は、政治家たちの議論と大きくへだったっています。
このアンケートの結果を踏まえると、政治の場で行われている論争は、そもそも争点の設定を誤っている、としか評価のしようがありません。
◇第2問 あなた自身の老後資金は十分ですか?
約7割(69%)の回答が「不十分」としています。「十分」という回答は、2割に満ちませんでした(19.3%)。
この2つ以外の回答としては、つぎのようなものがありました。
「若いので現状では判断できない」、「現在は十分でないが将来十分になるだろう」、「贅沢をしなければ大丈夫」、「現状では蓄えがあるが4半世紀後の退職時点ではどうなるかわからない」、「将来の日本経済がどうなるかわからない」、「現在でさえ生活を支えるのが大変だ」など。
「爪に火をともすように老後資金を貯めてきたが、収入は減り続け、結局は資金を取り崩して生活費に回すのが現状。貯蓄に回す余裕がない」との回答もありました。
大まかに言えば、「十分ある」と考えている人は少ないといえるでしょう。
この点を政府の諸統計と比べると、どう評価されるでしょうか?
家計調査報告(貯蓄・負債編、2018年平均結果、二人以上の世帯)によれば、高齢者の 貯蓄は、1世帯当たり平均で2,386万円です(図Ⅲ-5-1、p25)。この数字を見ると、金融庁の報告書が述べている条件は、平均的には満たされてるように思えます。
しかし、これは平均値ということのトリックです。中央値(データを小さい順に並べたときに、中央に位置する値)でみると、貯蓄現在高は1,560万円なのです。しかも、大きなばらつきがあります。
したがって、数で言えば、2000万円に達しない人のほうが多いのです。このアンケートの回答で多くの人が「不十分」とか答えているのは、こうしたことを考えれれば、当然の結果と言えます。
また、厚生労働省の就労条件総合調査(第23表)によると、大学卒の退職一時金は2000万円程度です。この結果を見ると、「2000万円必要」という報告書の条件は、退職金でクリアできるように思えます。
しかし、現実には、そうはいかない場合が多いでしょう。例えば、住宅ローン等の返済に退職金の大部分を充てざるをえない場合もあるでしょう。また、将来は、退職金が削減され、現在のような退職金は期待でないと考えられているのかもしれません。さらに、非正規雇用などのため、退職金を期待できない場合も多いでしょう。
なお、アンケート調査の結果で注目すべきは、自分自身の積み立ては不不足だと認識しながら、「だから年金で面倒を見て欲しい」と考えているわけではないということです。つまり、自己努力が必要と考えられているのです。
このために、報告書の指摘は適切なものだと認めているのです。この点で、国民は、政治家が考えているよりずっと冷静で合理的な判断をしていると言えます。
◇第3問 あなたはいつまで働きますか?
第3問に対しては、約7割(69.4%)の人が「健康である限りいつまでも」としています。「定年まで」は、13.2%でしかありません。
これら以外の回答としては、まず、「資産が**円になるまで」、「65歳まで」、「70歳まで」などと具体的な条件を設定している人がいます。
また、「できるだけ早くリタイアして自由に暮らしたい」、「無理に働き続ける必要はない」、「すでに早期退職して、リタイア生活満喫中」、「残された人生をやりたいことをやって生きたい」などの回答もありました。
これは、多くの人々が年金に頼って老後を送ろうとは考えていないこと、そして、働くことに生きがいを見いだそうという願望を持っていることの表れと解釈することができます。
ただし、「どのような形で働くか(フリーランサーになるのか、定年後再雇用されるのか?)」、「それは実現できるか?」などの点は、このアンケートでは聞いていません。これについては、今後、別のアンケートを行いたいと思っています。
◇その他のご意見
この質問については、「回答を公開しません」と書きましたので、いただいた回答のままではなく、修正した形でご報告します。
・公的年金に頼ること、国に頼ることについて
「年金にすべてを頼るべきでない。国に頼るのは最低限であるべき」、「老後資金が足りないのは、自己責任の部分が大きく、年金にそれを任せるのは不公平」、「国が国民の生活を守る存在だとは思えない」、「自分の人生は自分で守るしかない」、「20代なので、年金は最初から当てになるものではない」、など、年金の役割を限定的に捉えている回答が多くありました。
ただし、つぎのような指摘もありました。「長く生きるのは良いことだが、健康な場合のみ」、「生活費よりも住居(メインテナンス、)医療、身体が動かなくなってからのことが心配」、「経済的には心配していないが、認知症で思考力や判断能力が低下することを怖れる」。
また、「社会保障を手厚くしておくことは、若い世代にとっても安心なこと。そのほうが日本社会が活気づく」との意見もありました。
さらに、「できるだけ長く会社に勤め副業をするか、フリーランスとして得意な領域で稼ぐということを考えるべし。時代変化についていけない人が多くなると、ポヒュリズムを加速させかねない」との指摘もありました。
◇今後議論すべきこと
「与野党ともに、公的年金制度のあり方、老後の生活保障のあり方を真正面から議論していない。強い危機感を持っている」、 「つぎの議論を推進すべきだ。与野党協議による抜本的社会保障制度改革、付加方式から積立方式への移行、家を重視した三世代間による相互扶助、相続・贈与税の減税、金融知識の義務教育化」、「多くの人の安心と長期計画に資するため、楽観から悲観まで、公正、正確で、分かりやすいデータを示して欲しい」、「孤立しないためのコミュニティ作りによる対応も必要」、「公の支援ではなく、自助と共助で老後の生活を支えていきたい」
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大変貴重な情報を得ることができました。今後、さまざまな機会に活用させていただきます。ご協力、ありがとうございました。
なお、このアンケートの回答はまだ受け付けていますので、未回答の型は回答をお寄せください。
◇アンケートはこちらにあります。
期限はありませんので、未回答の方は、ご回答ください。
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