食料自給率のペテン?
「鶏卵の自給率は13%」
農水省の発表によると、こうなっている。
すると、スーパーで昨日買った卵は外国産か?不思議なことだと思う人が多いだろう。壊れやすい卵を運ぶのは大変だし、腐るから早く運ぶ必要がある。輸送費も大変だろう。
しかし、そんな心配は無用だ。あなたが昨日買った卵は、まず間違いなく、国内で産み落とされたものである。それなら、なぜ卵の自給率は、13%という低い数字になるのか?
鶏が食べる飼料が輸入だと、その鶏が産んだ卵は、国産とはカウントしないからである。
コメを食べれば国産卵だが、輸入飼料では駄目なのだ。
これは、「スパゲッティばかり食べていると、イタリア人になってしまうよ」というような奇妙な論理だ。日本の養鶏所にいる鶏の約9割は、「異国のトリ」にされてしまっているのだ。
「飼料が輸入でも、卵を産んだ場所が日本なら国産」という、ごく常識的な基準で計算すると、卵の自給率はは97%だ。
ところで、自給率にはカロリーベースと生産額ベースがある。輸入飼料は金額ではそれほど大きくないがカロリーベースでは大きくなる。だから、カロリーベース自給率は生産額ベース自給率より低くなる。
よく言われる「日本の食料自給率は2016年度で38%」という数字は、「カロリー・ベース自給率」だ。
生産額ベースで見れば、下の図のように、日本の数字68%は、ドイツ70%、イタリア80%などと大きな差はなく、イギリスの58%よりは高い値となっている。この図は、農水省自身が発表しているものだから、間違いない。
つまり、「生産額ベースでみれば、日本の自給率はヨーロッパ諸国とあまり差がない」ということだ。国土の広いカナダやオーストラリアと比較するのは、もともと無理である。
もしも、カロリーベース的な考えを推し進めれば、つぎのようなことになるだろう。野菜のハウス栽培で輸入燃料を使っていたら、野菜は外国産ということにならないか?米を市場に運ぶトラックの燃料が輸入なら、その米は外米ではないのか?
それだけではない。日本の発電は原子力から火力にシフトしたので、電気はほとんど海外依存だ。だから、前述「スパゲッティの論理」によると、日本で自給しているものなど、なくなってしまう。なぜ飼料だけに着目するのか?
普通言われる自給率の数字は、トリックと言うよりは、ペテンと言ってもよいものだ。「日本の食料自給率は低いので心配だ。もっと高める努力をしないと」と考えている人が多いのだが、それらの人々は、見事にペテンにかかっているのである
これほど不自然な工夫をしてまで自給率を低く見せたいのは、危機感を煽ることによって、国内生産を正当化したいからだ。そして、国内生産への補助や輸入に対する高関税を正当化したいからだ。
だから、農水省としては、カロリーベースの数字を広めたい。それは、よく分かる。
しかし、上で述べたように、農水省は、生産額ベースの数字も公表している。
では、なぜカロリーベースの数字だけが言われるのか?
それは、マスメディアがカロリーベースの数字しか報道しないからではないだろうか?
そうなるのは、「日本の自給度は危機的」といえばニュースになるが、「ヨーロッパの普通の国と同じ」ではニュースにならないからではないだろうか?
実は、もっと根源的な問題もある。以上で述べたのは自給率の定義だが、「そもそも、自給率は高いほうがよいのか?」という問題がある。
冷静に考えればすぐ分かると思うが、低いほうがよいのである。国内生産は割高だ。だから、外国から輸入すれば安くなる。日本人は高い食料を買わされて、その分だけ貧しくなっているのだ。
こういうと、「食料安全保障の問題がある」という意見が出るだろう。
有事の際に、自給率が低いと大変だというのだ。しかし、安全保障のためにこそ、自給率を低める必要がある。なぜなら、食料安全保障のために最も有効な対策は、供給源の分散化だからだ。仮に国内に生産を集中して飢饉になれば、日本人は飢えてしまう。供給先が世界中分散していればこそ、そうした事態を避けられる。
「価格が高騰すると買えなくなる」と言う意見もある。しかし、価格高騰で困るのは、低所得国であって、高所得国の日本ではない。
「輸出制限や売り惜しみが起きる」と言う人もいる。しかし、そんなことをすれば、真っ先に困るのは供給者である。米加豪などの農業生産者は、ビジネスとして農業生産を行っている。国が輸出禁止命令を出せば、革命が起きるだろう。