【迷宮へのエピローグ】J2第16節 松本山雅×ファジアーノ岡山 マッチレビュー
スタメン
松本は前節アウェイで栃木に0-3の完敗。今季課題となっているセットプレーから2失点し、枠内シュートも0本に終わるなど良いところがないまま90分を終えてしまった。5試合無敗から一転、3試合勝ちなしかつ無得点という状態でこの一戦を迎える。前節からはスタメンを4人変更。村山・橋内・浜崎・阪野が外れて、圍・野々村・安東・横山が先発に名を連ねた。
阪野がベンチメンバーにも入らなかったのは、実は2019年の松本加入以来初めてのこと。昨季も42試合全試合に出場するなどタフに戦ってきた選手で、松本のプレッシングのキーマンであるため戦術的理由での欠場とは考えにくい。同じくベンチから外れている橋内とともに、もしかすると何かしらのアクシデントがあったのかもしれない。逆に安東は第7節の磐田戦以来の復帰となっている。
対する岡山は4試合勝ちがない状況。敗れた長崎戦からはこちらも3枚変更。徳元・疋田・山本が外れて、宮崎智彦・宮崎幾笑・喜山康平が入る。右サイドを務めることの多かった上門が川本と2トップを組み、上門はやや下がり目でトップ下に近い役割を任されるはずだ。
岡山のボランチ潰し
前節の栃木戦ではプレッシングをショートパスで剥がすことにこだわりすぎた結果、ミスを連発して自滅してしまった反省を生かし、この試合はシンプルな形を選択。最前線に入る横山や鈴木をめがけてロングボールを蹴り込み、DFラインの背後を取らせようという狙いが見えた。
しかしこの日の松本は思うように攻撃のリズムが出ない。原因は岡山の徹底したボランチ潰しにあった。松本の攻撃を司っているのは中盤で、システムによって人選や人数は変わるが、基本的にチームの心臓部であることは変わりない。最終ラインからボールを引き出してビルドアップのサポートをしながら、サイドへボールを散らしたり、縦パスを付けたりとチームのテンポを作っている。キーマンになっているのはキャプテンの佐藤和で、運動量豊富な前や河合がパスの出口になりながら攻撃を組み立てていく。この日はペアを組むのは安東。いつものように3バックがボールを持った際に、中盤でボールを受けようとするが、岡山はここを潰しに来た。
狙いが現れたのは前半11分のシーン。左HVの下川がボールを持つと、近い位置で佐藤和がサポート。上門がすばやく佐藤和へのコースを切りながら寄せたため、今度は安東がパスコースに入って要求した。下川が安東にパスをつけると、待ってましたとばかりに川本が全力でプレスバック。さらにはボランチの白井も前に出て安東を挟み込み、そこへ踵を返した上門まで寄せてきて一瞬にして3人に囲い込まれてしまった。ボールを失った松本はショートカウンターを浴び、チャンスに繋げられてしまうというのが一連の流れである。
同様のシーンは14分にも見られた。同じく下川が自陣深い位置でボールを持ち、今度は佐藤和が受けるのだが、ここでも川本がダッシュでプレスバックして潰しにかかっている。ここは佐藤和の巧みなターンで事なきを得たが、ロストしていれば決定機に結び付けられていた可能性は高い。
松本の攻撃はほぼすべてボランチを経由すると言っても過言ではない。岡山はその心臓部に対して、FWと中盤で挟み込むことで前を向かせない守備を徹底していた。その点川本と上門は非常に献身的で、ほとんどサボる場面も見られなかったし、松本のリズムを乱すには十分過ぎる働きだったと言えるだろう。
ボランチを潰されてしまったことでビルドアップの出口を失ってしまった松本3バックは、致し方なくロングフィードを前線へ蹴り込む。しかし、自分たちが意図して蹴っているのではなく、選択肢を削られて蹴らされている状態だったため、岡山の3バックに奪いどころを与える結果となってしまう。ボールを奪ってもプレスを受けて前線へとりあえずロングボール、横山や国友が複数のDFに囲まれる、ロストして岡山の攻撃ターンという悪循環に陥ってしまい、前半はここから抜け出すのに苦労していたように思う。
こういったプレッシングを受けた際に効果的な解決策としては、①パスで剥がす・②相手を引きつけてロングボールでひっくり返す・③個で打開する、などが挙げられる。①については前節失敗しており、今節の松本は②を準備して臨んだはずだが、それも岡山の対策によって無効化されてしまった。そうなると残るのは③の選択肢なのだが、時折河合がドリブル突破で相手のプレッシングラインを突破するのが唯一の希望の光。しかし河合の個人技頼みでギャンブル性が高いことと、直近の対戦ではファウルで止められることも多くなってきており、効果は限定的。河合がターンしようとして足を引っ掛けられるシーンが多いのはこういったチームの構造により、彼に局面打開を依存している背景があると思っている。
目立った奪われ方の悪さ
運良く岡山陣内までボールを運んだとしても、今日の松本は奪われ方が非常に悪かった。奪われ方が悪いというのを言い換えると、自分たちの意図していない奪われ方をしているということである。守備の準備ができていない段階でカウンターを浴びることになり、決定機を作られる可能性が高い。現に、Jリーグだけでなく海外サッカーでも奪われ方が悪く失点してしまうシーンは多く見られる。プレーが連続して切れ目のないスポーツであるサッカーにおいて、攻撃を考えるということは同時に奪われ方をデザインするということでもある。その点、今の松本は単に攻撃の部分しか設計できていないように見えるのだ。
象徴的だったのは、前半32分。左サイドで横山がドリブルでつっかけて奪われると、宮崎幾笑から攻め残っていた上門へボールが渡りカウンターが発動。佐藤和がなんとかクリアしたボールは右サイドの川本へ渡り、危険なクロスを上げられている。上門にパスが繋がった時点で木村が左サイドを猛然と駆け上がっており、もし仮に左へ展開されていたらより決定的なシーンを作られていたはずだった。
この場面の何がまずかったかというと、ボールを失った瞬間の松本の選手の切り替えである。
左サイドに合計4人(下川も含めれば5人)の選手が寄っており、数的優位を作り出して局面を打開しようとしていた場面。数的優位にも拘らず横山が少し無理なドリブルを仕掛けた点もいただけないが、ここは若気の至りということで目を瞑ろう。最も問題なのは奪われた直後に周囲にいる選手が棒立ちでボールの行方を眺めていることだ。同サイドに5人も選手を割いていれば逆サイドはがら空きになるのは明らかなため、奪われた瞬間に相手を囲い込んで左サイドに封じ込めてしまうのがセオリー。攻撃時に数的優位を作るメリットは守備に切り替わった瞬間にも発揮される。ところが、この場面であっさりと網目をかいくぐられて展開を許してしまっている。
奪われ方が悪いシーンは他にもいくつかあり、例えば前半15分に大野が川本を引っ掛けてイエローカードを受けた場面も同様である。ここでは外山・下川と合わせて3対2の局面だったが、河合が無理なドリブルを仕掛けてロスト。結果的にその代償を大野がイエローカードという形で払うこととなった。
はっきり言うと、せっかく局面での数的優位を創出したにもかかわらず、独力で仕掛けてしまうのは状況判断として微妙だと思っている。ビルドアップで狭いところへパスを通しにいって奪われてしまうのも似ているが、どこか今の選手達には余裕がなく、視野が狭くなってしまっているように見える。たしかにシーズン前に「勝点84!得点84!」と掲げていたチームが、残留争いをしている現状を考えると選手が焦りを覚えてしまうのも想像に難くない。このあたりは意識レベルでの改革が必要と思うので、日々のトレーニングから数的優位をうまく使いながら崩していく落とし込みをしたいところ。
余談だが、ポジショナルプレーを標榜している横浜FMや大分、琉球でプレーしていた前貴之・佐藤和弘・河合秀人あたりはシーズン序盤はひとりポジショナルプレーみたいなことを見せていた。それも段々と頻度が少なくなっている点は気がかりで、前述の通り意識の要素が強い部分なので、日々の刷り込みによって徐々に失われていってしまうのかもしれないと思ったりもした。トレーニング映像を見れていないので断言はできないけれど、少なくともピッチ上での現象を見ていると、今の松本はポジショナルプレーは取り入れられていない気がする。わからんけど。
機能しなかった切り札
そんな状態で攻守に良いところがないまま試合はスコアレスで折返し。後半開始から鈴木と横山の位置を入れ替えた柴田監督の意図を汲み取ろうとしていた矢先、課題のセットプレーから失点する。
白井が入れたボールを一度は跳ね返し、再度ゴール中央へ放り込まれたクロスを河合がクリア。しかし、クリアボールが喜山に渡ってしまい、落ち着いて胸トラップらかボレーを沈められて先制を許した。ゴール前での落ち着きはさすが元ストライカーというしかなかったが、ここでの課題は配置だろうか。原則松本はマンツーマンで守り、ニアにストーンとなる選手を配置するのだが、こぼれ球に対応する選手がニアの横山しかいなかった。マンツーマンで対応している選手が剥がされなければ問題ないという考え方もできるが、この場面では一度ボールがクリアされた時に下川がマークを外してしまい喜山にシュートする余裕を与えてしまっている。個々人が絶対負けない!でも守れるチームもあると思うが、失点を重ねてしまっている状況を考えるとそろそろテコ入れをしたいところである。
(23:41 追記)
松本のセットプレーの弱点については、前節栃木戦のマッチレビューでhaya_yamagaさんが書いていたのでこちらをぜひご参考にm(_ _)m
先制点を奪われた松本は60分に横山に替えて戸島を投入してシステムを米原をアンカーを置く3-5-2に変更。前線にロングボールを入れても誰もフォローがいない状況を、2トップにすることとインサイドハーフを配置してセカンドボールを拾いやすくすることで解決しようとする。ところが、この交代策に対する岡山ベンチの対応が早かった。わずか2分後に2枚替えを敢行し、3-4-2-1に変形して対応してきたのである。
これにより松本は2つの課題を抱えることになる。ひとつは白井とパウリーニョのダブルボランチによって、インサイドハーフが常に監視されてしまい、中央への楔のパスがほぼ遮断されてしまったこと。そしてもうひとつは、2失点目に繋がるアンカー脇のスペースケアである。
岡山の2シャドーは執拗に米原の両脇のスペースでボールを受ける動きを見せ、上門がゴラッソを決めた場面でも、米原の右側を使われてしまっている。遅れて対応にいった米原のプレーが軽かったのは猛省すべき点だと思うが、それ以上に構造的に殴られて失点したのが痛かった。松本としてはシステム変更してここから巻き返そうと息巻いていたが、すぐさま適応されて逆に構造上の弱点を突かれている。ほぼ決定機が作れていなかった中での2失点目という部分も重なり、松本の勢いは一気にしぼんでしまった。
外山の初ゴールで1点を返して反撃の狼煙を上げたのもつかの間、自陣でのスローインのミスから古巣対戦となる山本にネットを揺らされて万事休す。正直2点目を失っていた時の選手のリアクションからも、メンタル的にガクッと落ちてしまったのは伝わってきたが、3点目で完全にへし折られてしまった。今季初出場となった村越が積極的な仕掛けで気を吐いていたが、ゲームはそのままタイムアップ。2試合連続の3失点で今季2度目の連敗となった。
まとめ
正直、何もさせてもらえなかった試合だった。打ち手が尽く岡山に返されてしまい、ショックは大きい。もしかするとチームとして少し引きずるかもしれない。
不安要素なのは、試合後のコメントで監督と選手の意図が揃っていないような発言が見られることだ。監督としては割り切ったサッカーをしたいが、選手はあくまでボール保持にこだわりたいという欲がプレーから見え隠れする。これは僕が言うのは大変おこがましいことだが、中途半端なサッカーをして勝ち切れるほどJ2は甘くはなく、むしろ尖った部分を持っているチームの方が近年結果を出している傾向にある。
監督の意図が選手にうまく伝わっていないのか、伝わっているが選手が表現できていないのか、はたまた選手が何かしらの理由で違うサッカーを展開しているのか。一番チームとしてまずいのは最後の可能性だが、あまり想像はしたくない。いずれにしても、もう一度チームとして目指す方向性を定めて、一丸となって進む必要がある。
Partido a Partido
まだ遅くない。地に足をつけて次節町田戦に臨みたい。
--------------------------------------------------------------------
試合を見返しながらの感想まとめはこちら。
書ききれなかったこともあるので、ご興味あればどうぞm(_ _)m
Twitterもやっておりますのでよろしければ!