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【心震わせるスコアレスドロー】J3第9節 松本山雅×AC長野パルセイロ マッチレビュー

スタメン

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劇的な結末で幕を閉じた天皇杯の一戦から1週間。今度はリーグ戦の舞台で”信州ダービー”が実現。

松本はターンオーバーをした天皇杯からリーグ戦の主力メンバーに戻した形。吉田将也、安田理大、米原秀亮、濱名真央といった面々が外れ、負傷離脱していた下川陽太・前貴之が復帰。さらに、天皇杯で良いパフォーマンスを見せた安東輝が今季初スタメンの座をつかんだ。また、ベンチに入っている山本龍平は開幕戦以来のメンバー入りとなる。

対する長野は天皇杯にほぼベストメンバーで臨んできたこともあり、ほとんどメンバーは変わらず。宮阪がベンチスタートだったのは驚いた。メンバーを見る限り、デュークカルロスを投入してからが本番という感じで、宮阪も後半のブースト要因として控えている格好だ。


拍子抜けの立ち上がり

天皇杯で敗れ、かつホームで迎える長野はきっと立ち上がりから攻勢を仕掛けてくるだろうと思っていたが、実際は慎重なスタート。開始19秒で横山歩夢が激しいタックルでファウルを受けたシーンに象徴されるように、球際に厳しく行くことは相当強く意識して入ってきたものの、全体の重心は後ろにあったと思う。

長野はシステムこそ3-5-2のようだったが、守備時と攻撃時で立ち位置が大きく異なる。

守備時は両ウィングバックの三田と水谷が下がってきて5バックを形成し、さながら5-3-2のようなブロックを組む。松本のサイドハーフをウィングバックが捕まえて、2トップを3バックで監視する形だ。中盤も松本のボランチ2枚に対して、長野は3枚置いているので、中央が常に数的優位になるような配置となっている。

サッカーは11対11なので、中央で長野が数的優位になっているということは、その分どこかで数的不利を許容しているということである。この試合の長野にとっては、前線がそれにあたる。全体の重心を下げてブロックを組むので、前線のプレッシングは捨てていた。松本がゆったりとボールを持つとわかると、すぐさま帰陣して5-3-2のブロックを整えることを優先。2トップの宮本と東も深追いせずコースを限定するにとどまっていた。

長野の守備配置

試合後のコメントで名波監督からも言及されていたように、長野が前に出てこなかったので松本のビルドアップは容易。特に前半15分くらいまでは松本が自由にボールを動かせる時間帯だった。

とはいえ、今季の松本はボールを持たされた時にできることは多くない。間違いなく昨季よりはサイドの崩しが整理されているものの、ガッチリと守備ブロックを敷いた相手を崩せるほど攻撃の完成度が高くないのが現状である。先日僕が書いた中間報告でも言及しているが、今年の松本が最も得意としているのは「相手の守備陣形が整う前に攻めきってしまう形」。裏を返せば、整った相手をずらして崩すみたいな部分まで手を入れられていないということでもある。
これが得意なのは宮崎や北九州だったりするのだけども。


アンカー脇の攻防

前半15分まで続いた松本がボールを握っている時間帯の攻め筋と、それ以降長野がボールを握っていた時間帯の攻め筋は違っていた。
前述の通り、松本が得意とするのは相手の守備が整う前に手数をかけず攻めきるカウンターなので、決定機を作れていたのは長野がボールを握っていた時間帯。
ただ、対長野という観点でチームの狙いがはっきり見えたのは松本がボールを握っていた時間帯だったと思う。

キーポイントだったのは、長野のアンカー脇をいかに攻略するか。
この日アンカーに入っていた住永は、自分の持ち場で構えて守るというよりは、人に食いついて迎撃する守備をしたいらしい。実際、住永の近くに菊井悠介や住田将がふらついていると、ほぼ間違いなく食いついていた。

これを利用したシーンがこちら。
流れの中で菊井悠介が右サイドまで顔を出しに行くと、アンカーの住永が食いつく。住永が食いついて空けた中央のスペースを見逃さなかったのは横山歩夢で、スルスルと落ちて安東輝からの楔のパスを引き出すことに成功。シュートはブロックされてしまったが、アンカーを動かして背後のスペースを使うという一連の攻撃の組み立ては見事。

これまではサッカーIQが高い菊井悠介・住田将・前貴之といった選手の個人判断に依存していた崩しだが、チームとして意図を持って実行できていることは間違いなくポジティブ。
この場面で言えば、菊井悠介・安東輝・横山歩夢は崩しのイメージを共有できており、かつ実行に移すところまで表現できた。これこそ、キャンプから継続してトレーニングを積んでいる「2~3人のユニットによる崩し」の成果だろう。

次のステップとしては、ユニットでの崩しを見せる回数を増やすことと、実行に移した時の精度を上げることだろう。いわゆる量と質の担保だ。
この場面以外でも連携での崩しを見せるシーンはあったが、パスがずれてしまったり、プレー判断が遅れて阻まれてしまったりしていた。前半にあったカウンターで横山が持ち運んだけど奪われた場面だったり、後半にカウンターで持ち運んだ菊井のパスがずれた場面とか。
最初からキレイに成功することなんてないだろうし、今は失敗を恐れずに何度でもトライして、まずは量を増やしてほしいと思う。

しかし、長野も黙って見ているわけもなく、すぐさま修正を施してきた。
アンカーの住永が食いついてしまうのは仕方ないとして、空けたスペースを逆サイドのインサイドハーフが埋めることで解決。
逆サイドのインサイドハーフが中央まで絞ってきているということは、逆サイドは手薄になっているはず。じゃあ逆サイドへ展開すればいいじゃん、ということで松本は最終ラインを経由してサイドチェンジを繰り出すも、長野のスライドが早くて一枚上手。天皇杯の時はもう少しブロック守備に綻びがあったのだけど、ここも1週間で修正してきたらしい。試合時間としては15分経過したくらいで、これ以降松本はボールを握っても効果的な崩しを繰り出せず、カウンター一本に頼ることとなる。


守備はハマっていたけども

松本がボールを握っていた時間帯が過ぎると、そこからは守備の時間。
長野は右ウィングバックの三田を極端に高い位置へ押し上げて、右肩上がりの変則的な配置となる。チーム随一というかリーグ屈指のドリブラーである三田に1対1を作り出すことを目的としたシステムで、彼にボールを届けられれば一定の成果が得られるはずだった。

ところが、松本もそれは織り込み済み。
得意のプレッシングで変速システムを封じにかかる。

松本のプレッシング

相手の3バックに対して、2トップ+ボールサイドのサイドハーフが一列前に出ることで数的同数のプレッシングを実現。プレッシング部隊がとにかく強く意識していたのは、相手3バックからアンカーへのパスコースを消すこと。常に自分の背中側にアンカーを置くように寄せることが求められていた。

アンカーへのパスコースがない長野は、松本の守備を横へ揺さぶろうと最終ラインでパスを繋ぐのだが、これこそ松本の思う壺。2トップ+サイドハーフのプレッシングを嫌がった相手センターバックが近くのインサイドハーフへパスを出すと、ボランチが加勢してインターセプトを狙う。インサイドハーフへ出さず、長野2トップへ縦パスを入れた場合も、大野佑哉と常田克人が狙っている。
プレッシングによって相手センターバックの自由を奪い、苦し紛れの横パス・縦パスをインターセプトしてカウンター発動。ここまでが松本の守備の狙いだった。

これが上手くハマっていたのは松本にとっての左サイド。長野にとってストロングポイントである三田が控えているサイドであるが、三田に思ったようなパスが入らなかったのが一番の成果と言えるだろう。

逆に、ちょっとうまくいかなかったのは松本にとっての右サイド。屈強なFWである宮本へ入った楔のパスを奪いきれず、そこを起点にプレッシングの網を破られてしまう場面が度々見られた。前貴之・大野佑哉と宮本であれば、相手方に分があるのは明らかなので、意図的に宮本はこちらに流れていたはず。個の質の部分なので仕方ないところはあるが、うまいこと穴を作られてしまった。

効果的な守備でボール奪取するところまではできていたのだけど、チームの抱える課題を露呈したのはカウンターの局面。
菊井悠介が中継点となってドリブルで持ち運んでくれる時は良いのだが、それ以外はひたすらに左サイド奥へ横山歩夢を走らせることしかできなかったのが現実。横山歩夢をカウンターの急先鋒に据えるのは良いのだけど、左サイド奥でボールを受けてもゴールまで遠いし、さすがに相手にバレてきているので常に1対2の局面を作られて突破が難しかったりしていた。

周囲のフォローを求めたくなるが、味方が追いつくよりも早く単騎で仕掛けさせている状況なので、どうしても横山だけで解決してもらうしかなくなってしまう。
無理やり解決しようとするならば、相模原戦のようにスピードに付いていける村越凱光を相棒に据えてあげるか、一旦菊井悠介を挟む設計に変えるか。今のところは後者が有力でありそうだ。

ま、味方のフォローとか関係なく横山歩夢が一人でDF2枚をぶち抜けるくらいに成長してくれるのが一番手っ取り早いし、一番ワクワクするのだけども。
ボール渡しておけば単騎で突破して点決めてくるとかバケモノ過ぎるし、そうなったら代表待ったなしだろうし、海外に飛んでいってしまうかもしれない。


緊張感漂うスコアレスドロー

お互いに守備の意識を高く持って臨んだこともあり、試合は膠着状態に。

おそらく想定よりも早く宮阪を投入したり、デュークカルロスをはじめとした攻撃のカードを切ってきた長野。後半は全体の重心を前に移して、リスクを負いながらも点を取る姿勢を見せてきた。
対して松本は、大きく変える必要もなかったので、ハーフタイムの名波監督の指示も選手の頭の中を整理することくらい。橋内優也を入れた時間帯からは、もう引き分けでもOKという意図が透けて見えた。

得点も決まらなかったゲームでピックアップしたいのは宮部大己
試合の命運を分けると言っても過言ではない、デュークカルロス対策として投入され、完璧にミッションをこなしてみせた。思ったより長野がハイボールを放り込んでこなかったのも幸いしたが、体格で優る選手に対して、得意の懐に潜り込んでボールを絡め取る守備で対抗。切り札として入ってきたデュークカルロスに、ほとんど仕事をさせなかった。
天皇杯での吉田将也に続いて2試合連続で相手のエースを抑え込んだというのは、次回の対戦に向けても好材料になるはずだ。

しびれるような緊張感を保ったまま試合は終わり、結果的にはスコアレスドロー。リーグ戦での信州ダービーの決着はアルウィンへ持ち越しとなった。


総括

得点こそ生まれなかったが非常に面白い試合だった。戦術的な駆け引きどうこうよりも、両チームがこの試合に懸ける想いが伝わってきたし、スタジアムに集まった13,000人ものサポーターの熱気がより攻防を白熱させていた。

そんな中でも名波監督の振る舞いは常に冷静で、90分間のマネジメントは見事だったと思う。リーグ3試合連続のクリーンシートで守備の安定は決してフロックではなかったことを証明しつつあるし、攻撃面でも成長の跡を見せてくれた。

試合後の監督コメントで、試合総括よりも先に信州ダービーを盛り上げてくれた関係者へ感謝の言葉が出てくるというのは名波監督らしい。
改めて名波浩という人物は、今季の松本山雅だけでなく5年10年先の松本山雅を見ているんだろうし、松本山雅だけでなく信州のサッカー文化の未来すら描いているんだと思った。
壮大なビジョンを掲げて人を引っ張る能力は、ときに悪い方に転ぶこともあるが、どん底に落ちた松本山雅というクラブを立て直すフェーズでは適任。

様々な問題に直面するだろうが、今は名波監督を信じてついて行きたい。

心から思わせてくれる信州ダービーだった。


俺達は常に挑戦者


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