【変えるべきこと、続けるべきこと】J2第9節 松本山雅×愛媛FC マッチレビュー
スタメン
前節は鈴木国友とのハットトリックでかろうじて勝点1を拾った松本。ここ2試合で7失点と崩壊している守備をいかに立て直すかが喫緊の課題となっている。
そんな中、この試合ではスタメンを大幅に変更。まず不動だったGKにメスが入り、圍謙太朗に代わって今季初出場となる村山智彦が守護神を務める。最終ラインは、前節負傷交代となった篠原弘次郎に変えて星キョーワァンがこちらも今季初先発。また、システムを3-5-2へ変更されて3枚となった中盤に表原玄太が4試合ぶり、米原秀亮が3試合ぶりに先発として名を連ねた。そして右WBには大卒ルーキーの宮部大己がプロ初先発。
連戦の2試合目ということも加味されてか、かなりフレッシュな顔ぶれとなった。ここまで開幕から主軸を担ってきた、外山凌・前貴之・河合秀人がベンチスタートとなっており、彼らへの依存度が高い現状のチームがどんな姿を披露するかは注目である。
対する愛媛は中盤の前田凌佑が3試合ぶりの先発、3トップの頂点に入る藤本佳希は実に開幕戦ぶりのスタメン出場となっている。早々に監督交代に踏み切った愛媛だが、後を任されたのは京都を率いた実績のある實好監督。G大阪のセカンドチームも長く任されており、実績は十分。実際に前節今季初勝利を掴み、トレーニングからチームの雰囲気は良いとのことだ。短い準備期間でどれだけ松本対策ができているかに注目。
2つの課題
まずは、この試合の試合後監督コメントを引用したい。
意図してきた狙いの意図が前半に出せず、相手も素晴らしかったのですが、こちらの攻撃のノッキング、縦に入れたボールを相手に引っかけられることが比較的多かったです。それでゲームのコントロールを失いました。
背後への動きも含め、もう少し「飛び出してほしい」と思って送り出した選手が飛び出せないということがありました。それには選手なりの理由があると思うので頭ごなしに判断するつもりはありません。
※引用元:Jリーグ公式サイト
この試合の反省点として語っていたのは大きく分けて2つある。縦パスが引っかかることが多く攻撃のリズムを作れなかったこと。そして、相手の背後へ飛び出すことを期待していた選手起用が機能しなかったこと。
今回は、この2点について深堀りしていきたい。
対策されていた3-5-2
まず縦パスが引っ掛けられていたという点について。松本のクオリティ不足と言ってしまえばそれまでだが、愛媛の守備もしっかりと整備されていた。
愛媛の守備は、プレスを開始する基準点が明確だった。松本の最終ラインにボールを持たせることは許容し、前線からのプレスの開始地点は松本のアンカーである米原秀亮。最終ラインから中盤に入ってくる縦パスをインサイドハーフに入る森谷や川村、アンカーの前田がインターセプトを狙う。仮にロングボールを蹴ってきた場合も、松本2トップと愛媛のCBは数的同数で、ボールサイドと逆側のサイドバックやアンカーの前田がシステムのかみ合わせ的にフリーとなるため、こぼれ球のフォローにも入れる体制が敷かれている。
実際に、今季の松本の最終ラインはビルドアップを得意とする選手が揃っているわけではない。どちらかと言えば、対人や空中戦にストロングを発揮する選手が多い。なので、ビルドアップの際には中盤の佐藤和弘や前貴之、河合秀人が降りてきてパスコースを作り出して解決していた。しかし、この日は河合も前もベンチスタート。佐藤和はインサイドハーフに入っているため、最終ラインへ顔を出せる機会も限られる(この点については後述。)
そこで期待されたのはアンカーに入る米原秀亮なのだが、この日は見せ場は少なかった。愛媛の藤本にほぼマンツーマンに近い形で付きまとわれており、パスを受けてもターンして前を向ける場面は数えるほど。最終ラインまで降りれば前を向いてボールを持てていたが、そうすると今度は中盤のパスコースがないという現象に直面していた。
米原が昨年の塚川のように大車輪の活躍を見せて、J1でも通用する選手へステップアップするためには、”ターンができるかどうか”はひとつポイントになりそうだ。この課題をクリアできず、J2でくすぶっている選手を何人も見てきた。当然のようにアンカーに対してはJ1ともなれば常にプレッシャーを掛けられており、素直に前貴之を向かせてくれるチームは少ない。相手ゴールに背を向けて受けた体制からいかにして前を向くか。近くの味方を使ってワンツーでもよし、独力でターンしてもよし。いずれにしても、中盤で前を向いて勝負できる選手になれるかどうかが選手キャリアの分岐点でもある。
バレてるからこそのボールロスト
上記のように松本の最終ラインにボールをもたせる守備をしてきた愛媛。そしてビルドアップの出口となれる河合や前が不在の松本。それでも松本はいつもと同じことをやろうとしていた。
愛媛もそのうち中盤に縦パスが入ってくると分かっているので、当然インターセプトを狙っている。ここで独力でターンできるとJ2最上位クラスのタレントでJ1への個人昇格候補なのだが、この日のピッチ上にはそこまでのクオリティを発揮できる選手はいなかった。
バレバレの状態で中盤に楔のパスを入れ続け、愛媛に回収されるというループを繰り返していた。たまに愛媛がカットし損ねて松本の選手が前を向けてしまい、チャンスになる場面もあったが再現性はない。あくまで愛媛のミスに依存している形なので、松本としてやりたかった形はほぼ何も見せられなかったと言っていいだろう。
飛び出すには時間が必要
さて、監督コメントで言及されていた2つ目、飛び出しを期待した選手が機能しなかった話に移りたい。ここで言及されている飛び出しを期待していた選手とは、結論インサイドハーフに入った表原と佐藤和だと思っている。ハーフスペースへインサイドハーフの2人が飛び出して局面打開を図る形は、システムこそ違うが佐藤和がここ数試合継続して見せていた形である。
ボランチのときよりもセット位置が前になる分、佐藤和の飛び出しは多くなるかと思われた。しかしそんなに単純にいかないからサッカーは面白い。
中盤に位置する表原や佐藤和が、ペナルティエリアまで飛び出すには松本がボールを保持して攻撃している時間が一定数必要になってくる。移動時間を稼ぐみたいなイメージだ。言ってしまえばこの日の松本は、この時間を生み出すことができていなかった。今まではボランチに入る佐藤和や前がこの時間を作る働きをしていたのだが、今日の佐藤和はインサイドハーフにポジションを移しており、託された役割は組み立てではなくて前線への飛び出し。組み立てるのはアンカーの米原のタスクである。ただ、最終ラインからボールを前に進める時に、貯金を作れていなかったので中盤より前にボールが渡った際にはカツカツな状態。佐藤和や表原が飛び出す時間を稼げなかったので、”飛び出したい人”と”飛び出すスペース”は存在していたが、ボールが出てこなかった。
緩さの残る守備
ここまで攻撃面を中心的に書いてきたが、最後に守備についても少し言及したい。結果的にここ3試合で10失点と守備は完全に崩壊している。前節のレビューでも書いたが、個人的に気になっているのは守備の寄せの甘さだ。
失点パターンの多くがクロスやセットプレーであり、エリア内の勝負の前段階に問題があるのでは?と思う。クロスに関しては、自由にクロスを上げさせているがゆえに質の高いボールが供給されてしまい、ペナルティエリア内での勝負が難しいものになっている。セットプレーにおいては、そもそもセットプレーに持ち込まれるプロセスに問題がある。もちろん、マンツーマンで守っているのに尽く競り負けているのはいただけないが。
開幕からしばらく得点力不足にあえいだこともあって、攻撃面の課題が取り上げられることも多いが、現状のチームの根本の課題は守備である。良い守備から良い攻撃につなげるというポジティブなサイクルを回せていない。そして今抱えている守備の課題は少し厄介だ。チーム全体の意識の問題が大きいので、人を変えて解決するとは考えにくく、トレーニングから改善する必要がある。ここから連戦が続き修正する時間が取りにくいことを考えると、もうしばらくはこの課題と付き合っていく必要があるかもしれない。
まとめ
降格圏に近い相手との4連戦の初戦を落としてしまった松本。得失点差でリーグ最下位に沈むこととなった。次戦の相手は、10位の群馬。順位こそ離れているが、勝点差はわずか3ポイント。それだけ中位以降が詰まっているということでもあり、連勝すれば一気に抜け出せる可能性を秘めている。
とはいえチームが非常に厳しい状況に置かれているのに違いはない。23日にはクラブから社長名義で異例の”お気持ち表明”がリリースされ、クラブとサポが手を取り合って前をむこうと呼びかけている。
苦しいチーム事情であるからこそ一体感を持って目の前に一戦に集中することができるか。今松本山雅というクラブはJ加盟後最大の危機に直面し、クラブとしての地力を試されているのかもしれない。
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