2021松本山雅FC選手総括【MF編②】
この記事では現実を受け止めて来季へ向けて歩みを進めるために、まずは今シーズンを総括していく。
GK編、DF編、MF編①、MF編②、FW編と5回に分けて各選手の短評を書いていく予定(MF編は長いので分割)。夏に移籍していった選手は含めるが、他クラブに期限付き移籍している面々は僕が直接プレーを見れていないので割愛する。
ではいってみよう!
GK編・DF編・MF編①はこちら!
凡例
#背番号 選手名
リーグ戦出場試合数(うち先発試合数)出場時間 得点 アシスト
#27 下川陽太
35試合出場(先発29試合)2614分 0得点 3アシスト
童顔の好青年は2年間の武者修行を経て、J2屈指のサイドバックに成長して帰ってきた。愛媛・金沢と厳しい環境で主力として揉まれたことで逞しさが増し、何度もサイドを上下動できるスタミナと推進力に加えて、守備時の原理原則を習得。シーズンと通してサイドのファーストチョイスで有り続けた。
35試合出場はもちろん松本でのキャリアハイ。開幕はウィングバックだったが、常田克人がやや安定感を欠いていた時期には左センターバックもこなしてみせた。センターバックでの起用を疑問視する声もあったが、競り負けるシーンはわずかで、左右両足を使える器用さを活かしたビルドアップでプラスアルファを加えていたのは印象的。監督交代後はその地位をより確固たるものにした。アウェイ甲府戦で阪野豊史のゴールをアシストしたクロスは今季のハイライト。対面するDFを一瞬のスピードでぶち抜いて、ニアへ速いクロスという流れはお見事。
過去に松本でプレーした際は、まだまだ控え選手という立ち位置だったが、今季は逆にチームを引っ張る主力としての振る舞いを求められた。その中でチームの調子が上向かない現状にフラストレーションを溜めてしまったのかもしれない。レギュラーとしての自覚や当事者意識が芽生えた結果とも考えられるけど。古巣との対戦ということで気合マシマシだった第30節金沢戦、気持ちが空回りして一発退場となってしまったのは紳士的な彼らしくなかった。それでも、しっかりと反省して復帰してすぐにスタメンで起用されたのは名波監督の信頼の表れでもある。
アップダウンを繰り返せて、攻守に安定感のあるサイドバックなんてどのクラブも喉から手が出るほどほしい人材。特に近年はサイドバックへの負荷が高く、各チームで離脱者が多く出ているポジションでもある。上位カテゴリーから声がかかってもおかしくはないと思うが、個人的には背番号3を受け継ぐのは彼だと信じている。さて、どうなるだろうか。
時の流れを感じた瞬間。パパになったんだなあ。。。
#28 小手川宏基
20試合出場(先発5試合)577分 0得点 1アシスト
大分→北九州→大分と渡り歩き、ハードワークができるパサーとして鳴らしたいぶし銀の選手。J1へ昇格した大分で出場機会を掴めず、松本へやってきてくれた。そう考えると577分という出場時間は満足できるものではなかったはずだ。
個人というよりは組織の中で輝くタイプで、自分が生きるだけではなく、囮になって周りを活かすこともできるフォアザチームの選手。技術的にもサッカーIQ的にもチームトップクラスだったのは間違いないが、活かしどころを最後まで見つけられなかった。キャンプインした当初は4-4-2を基本システムとする予定だった。サイドハーフが田中パウロ淳一、表原玄太、河合秀人、村越凱光など独力で突破できる顔ぶれだったので、おそらくボランチで計算していたんだろう。たしかに最終ラインから丁寧にビルドアップしていくサッカーでは適任。翻って、3-4-2-1へシステムを変えたことで迷子になってしまった感は否めない。
名波監督体制になり、トップ下を置く3-4-1-2へ変更すると、オーバーヒート気味だった河合秀人に代わって先発に返り咲く。トップ下に与えられたタスクは、3列目まで降りてボールを引き出すこと、さらに出して終わりではなく連続性を持って崩しの局面に関わり続けること。攻撃の第一歩からフィニッシュの局面まで途切れないことが大事で、試合後の監督インタビューでボールタッチ回数を口酸っぱく言っていたのもこの時期。トップ下を評価する指標のひとつして置いていたからだ。ようやく彼にマッチした役割が与えられたかと思ったが、セルジーニョという強烈なライバルが登場。残留争いに巻き込まれることが現実的になってきた時期でもあり、崩しのプロセスよりゴールに直結するプレーに重きがおかれるようになっていく。小手川にとっては、巡り合わせが悪い一年だったと言えるだろう。
まだ老け込むような年齢ではなく、仕込みの時間が取れる来季は名波監督が再びボール保持に挑戦するのではないかと思っている。ボールを大事にするチームで培ってきた確かな戦術眼とスキルを遺憾なく発揮してほしいが。。
#29 村越凱光
7試合出場(先発1試合)203分 0得点0アシスト
福岡のやんちゃ坊主はプロの壁にぶち当たっている。飯塚高時代から圧倒的なテクニックを活かしたドリブル突破は有名で、”ボールを持ったら離さない”姿は良くも悪くもチームの絶対的エースという印象だった。
プレータイムが伸び悩んでいる理由はいくつかあるだろうが、彼もまたオフ・ザ・ボールの質に課題を抱えていると思う。左足のキックは一級品で、ドリブルのキレもある。ただ、プロの試合において一人の選手がボールに触れている時間は90分の中で数分程度だと言われている。つまり、ボールに触れていない時間でいかに価値を発揮できるかが肝になってくる。
そういった観点では、ウィングバックで起用されることが多かったのも彼には逆風になったかもしれない。決して守備を怠っているとかではないのだが、空けてはいけないスペースを空けてしまったり、攻撃的な選手であるがゆえの不慣れな部分が露呈してしまった。ボールを持てばスペシャルと言われる選手は数多くいるが、真にスペシャルな選手になれるかどうか。彼は今大きな分岐点に立っていると思う。この壁を乗り越えられれば、ユトレヒトへの移籍が発表された前田直輝のような選手になれるかもしれない。
なんか分からんけどアウトな気がする3枚目。
#30 山田真夏斗
3試合出場(先発1試合)74分 0得点 0アシスト
プロの水にも慣れたであろう今季は勝負の1年だったはずだが、結果として大きなインパクトを残すことは出来なかった。
ハイライトは第20節の琉球戦。名波監督就任後の初戦である。浜崎拓磨と山田真夏斗をダブルボランチに据えるという大胆な采配を見せたが、試合は0-4で完敗。山田自身も55分で交代を命じられてしまった。
しっかりとプレーしたのが1試合だけで、その試合も一方的に殴られる試合展開だったので、この材料だけで彼を評価するのは難しい。
それでもひとつ言えることがあるとすれば、トレーニングでは名波監督監督の琴線に触れる何かを見せていたであろうこと。監督交代で序列が横一線となった中でスタメンに抜擢された事実が物語っている。まだまだプロでやるには線が細く感じるし、スケールの大きさを考えればじっくり育てる方針だろう。来季はレンタルで経験を積ませる可能性もあるかも。
#34 稲福卓
1試合出場(先発なし)35分 0得点 0アシスト
下部組織から上がってきた希望の星。既に降格が確定して消化試合となった最終節で最もスタジアムのボルテージが高まったのは、彼が登場したタイミングだったと思う。その試合のマッチレビューで僕自身が書いた彼の評価を引用してみる。
最終ラインからサイドまで顔を出せる豊富な運動量、球際での強さ、こぼれ球への嗅覚、止める蹴るという基礎技術。ボランチに求められる能力を万遍なく兼ね備えている万能型。J2で上位を張る長崎相手にも十分に通用するところを見せてくれた。そして、何より印象的だったのは、臆せず身振り手振りを交えて指示を飛ばすリーダシップ。松本山雅U-18でも主将を務めたポテンシャルを遺憾なく発揮していた彼の左腕には、うっすらとキャプテンマークが見えた気がした。
対戦相手の長崎も昇格の可能性が潰えていて、しかもリードした展開だったので、その部分を差し引いて見る必要はあると思う。それでも彼自身が見せたプレーからは気持ちを感じたし、十分に来季以降のスタメン争いに食い込んでくる可能性を示すには十分だった。
安東輝の項でも触れたが、今季の松本においてボールを刈れる守備的なボランチが不足していたのは事実。そこのやりくりに相当苦労したのが、思わしくない結果になった原因のひとつだと思っている。チーム内部からその穴を埋めるような選手が出てきたらアツいし、彼には期待している。
#38 佐藤和弘
35試合出場(先発35試合)3052分 3得点 1アシスト
俺達のキャプテン。3052分のプレータイムはチームトップであり、彼のキャリアハイでもある。それだけの出場時間を確保しながら、苦しいチームでキャプテンを最後まで全うしてくれたことに感謝しかない。ものすごくストレスフルな一年間だったと思うので、例年に比べて短いオフ期間だが、心身ともにゆっくり休んでほしい。
さて、プレー面の方に目を向けると、決して納得のいく内容ではなかっただろう。水戸や甲府で見せていたプレーを知っている身からすると、もっとできる選手だと期待してしまう。
ただ、プレーに精彩を欠いたのは彼自身の技術が落ちたとか、年齢的な衰えとかではないと思っている。既に何度か書いているように、今季の松本は志向したサッカーの影響でポジションごとに負荷の偏りが起きていた。佐藤和弘がプレーしたボランチは最も負荷が高かったポジション。負荷というのは、走行距離やスプリント回数といったフィジカル的なものに限らない。むしろ思考の負荷の方が重たかったはず。スペースを埋めるのか・前線に追随して前に出るのか、自分の横で動き回る選手をマークするべきか・誰かに指示を出して付かせるか、速攻に移るべきか・一度試合のテンポを落とすべきか.....彼が試合中に認知して、思考して、判断していたことは多岐に渡る。ボランチ(アンカー)の意思決定回数がものすごく多くなってしまうチーム構造だったのだ。
試合をこなしていくうちに、フィジカル的な疲労というよりは、認知判断の疲労が顕著に出ていたと感じる。単純なパスミスや、相手がいるのにターンをしてロストしてしまう場面が増えたのも、”らしくない”プレーだったのでずっと気がかりだった。
名波監督も信頼を寄せているようなので残留が既定路線だとは思うが何があるかわからない。もし残ってくれるのであれば、来年はハツラツとしたプレーが見たいなあ。
残すはFW編と監督!お楽しみに!!
▼Twitterはこちら