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【基準の差】J2第28節 松本山雅×ジュビロ磐田 マッチレビュー

スタメン

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松本は中断期間明けから継続して採用していた3-4-1-2ではなく、3-4-2-1に布陣変更。また、前節から阪野豊史・外山凌・小手川宏基が外れて、伊藤翔・表原玄太・セルジーニョが入っている。伊藤翔とセルジーニョは移籍後初スタメン。
愛媛、大宮と残留争いの直接のライバルに連敗を喫したことで、いよいよ降格圏が迫ってきている状況。深刻なのは得点力不足で、2試合連続無得点に終わっている。その点で、攻撃の全権を託されるであろうセルジーニョには大きな期待がかかる。

磐田は中断期間明けから4試合負けなし。直近7試合クリーンシートがないという点は気がかりだが、裏を返せばしっかりと点を取れているということでもある。比較的流動的だった前線3枚はルキアン・山田・大津のセットで固まったよう。ドイツへ移籍した伊藤洋輝が抜けた最終ラインも、横浜FMから獲得した伊藤槙人が埋めており、これといった穴は見当たらない。


心臓を抑えろ

この試合のポイントは間違いなく磐田の心臓、遠藤保仁を抑えられるかどうかだった。磐田のダブルボランチは、ボールによく触って攻撃のテンポを作る遠藤と黒子役としてチーム全体のバランスを保っている山本という組み合わせ。年齢的にも運動量が落ちてきている遠藤に代わって、山本が中盤の広い範囲をカバーしている。守備の局面ではシャドーの山田や大津、ときにはFWのルキアンまでもがプレスバックしてボールホルダーに襲いかかり、中盤から後ろの守備のタスクを分担している。まさに遠藤シフトとでも言うように、日本屈指の司令塔の能力を最大限に引き出すシステムが組まれている。

前節の反省として磐田の鈴木監督がダイレクトプレーの少なさを指摘していたように、磐田はゆったりとボールを回しながら、ダイレクトプレーで緩急をつけてくる。その時に必ずと言っていいほど中心になっているのは遠藤である。

松本としてはある程度ボールを持たれるのは想定内だったはずだ。その上で、磐田の3バック+ダブルボランチからの配給をいかに抑えるかが肝だった。

結論としては、松本のプレスは空振りに終わる。前線の3枚が個々でプレスを敢行するのだが、自分が空けたスペースを他の選手に使われて、ワンツーなどで簡単にプレスを剥がされる場面が多かった。というのも、松本のプレスが組織として整備されていたわけではなかったのが大きな要因だろう。プレッシャーを掛けた結果どこへ誘導するのか、ピッチ上のどこでボールを奪うのか、そういったチームとしての決め事が見えてこなかった。

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逆に磐田のボール保持は練度が高かったと思う。そもそもの個々のクオリティがJ2レベルではないということもあるが、選手の立ち位置が整理されていて、松本陣内では三角形を回転させながら守備を崩す場面も。果たして鈴木監督が仕込んだものなのか、選手同士のアイデアで自然発生的に生まれたものなのかは1試合の中では判断しかねるが、いずれにせよ組織的ではない松本の守備をかいくぐれるレベルにはあった。

これにより、松本は90分を通して遠藤と山本のダブルボランチを捕まえることができずに終わってしまう。この二人からのパスで決定機を作られた場面はなかったと思うが、前線の選手は鳥かごの中でボールを追い回しているような状態で、肉体的にも精神的にも消耗させられていた。個人的には、懸命にプレスに行くも交わされて肩を落とす伊藤翔の姿が目に焼き付いている。


掴めなかった僅かなチャンス

それでも90分を通して3回ほど松本は決定機を迎えている。前半6分の伊藤翔、後半5分の伊藤翔、後半20分の鈴木国友。いずれも磐田の守備に阻まれているが、この中のひとつでも決まっていれば試合の流れは代わっていたはずだ。

前述のように磐田のボール保持に対して効果的なプレッシングを掛けられていたわけではなかったが、前半と後半に伊藤が迎えた決定機は磐田のミスからだった。前半早々の決定機では、得点の確率を考えると中央を上がっていた鈴木国友へのラストパスを選択してほしかったと思う。それでも長いこと得点が取れていない中で自分でやりきりたいと考えるのは、彼が生粋のストライカーであり、点取り屋であるが故の性なのかもしれない。ギラギラした熱い気持ちは今の松本に足りないものだと思うし、重苦しい空気を好転させる要因になりえると思うので、変わらず持ち続けてもらいたい。

伊藤翔という選手は、パスの出し手を必要とするFWである。高校時代に和製アンリと評されて将来を渇望されていた選手だったが、フランスで思うような結果を残せず、Jリーグでも多くのチームを渡り歩くこととなった。そんな彼の才能は、ペナルティエリア内での得点感覚と鋭い裏への抜け出し。どちらかといえばボックス内で仕事をするストライカーだ。そんな彼にはラストパスを供給する相方が必要不可欠。松本において、もしかするとセルジーニョがその役割を担うのかもしれない。そんな未来を想像させる決定機だった。


見せつけられたクオリティ

それでも試合終了を告げるホイッスルが鳴った時にスコアボードに記された松本の得点は0。どんなにチャンスを作っても、ネットを揺らさなければ勝つことができないのがサッカーというスポーツだ。

逆にきれいな崩しでなくても1点は1点である。磐田の先制点はそんなことを思わされるゴールだった。右サイドからのクロスを星がクリアしたボールがそのまま山本へ渡り、山本は右足を振り抜く。ブロックに入った星に当たってコースが変わったボールはポストに弾かれて松本ゴールに吸い込まれた。シュートは打ってみないとわからないとは誰かが言っていた言葉であるが、まさにその通りの展開。星はものすごく悔やまれる失点だろう。クリアの基本は、強く・遠くに、である。

2失点目は非常に時間帯が良くなかった。大宮戦と同じく後半の立ち上がり。名波監督の言葉を引用すれば、4セット目である。個人的には、ルキアンのパスを受けた大森のファーストタッチが素晴らしかったと思う。背後から平川と宮部が迫っているのをわかっているからこそ、DFの足が届かない位置にボールを置き、素早く2タッチ目を触って一気に3人を置き去りにした。ここでDFが捕まえて数秒でもカウンターを遅らせていれば、大津にあれだけ余裕を持ってシュートを打たれる場面は作らせなかったはず。大森のドリブルのコース取り、繊細なタッチ、やはり超J2クラスのタレントであることを改めて見せつけられた。

3点目は前に入られてしまった常田を責める人がいるかも知れない。だが、僕としてはその手前のプレーですでに勝負ありだったと思っている。自陣のコーナーフラッグ付近で大津を3人で囲んのに奪いきれなかった時点で守備組織は崩されていた。たしかに大津のヒールパスはトリッキーだったが、そこから大森に渡った時点でニアのスペースを埋めるべき平川が釣り出されている。そして、ルキアンはあえてギリギリまで待ち構えて、自分が勝負するにあのスペースを空けておいた。常田が一瞬ルキアンから目を切ってボールを見た瞬間に走り出す駆け引きも完璧。個の能力の高さを存分に見せつけられた格好となった。


足りないものはなにか?

磐田も松本も2年前までJ1で戦っていたチームだ。これほどまでに差がついてしまったのはなぜだろうか。もちろん、クラブの歴史や財政規模、コロナ禍の影響など様々な要因が複雑に絡み合って今に至ることは間違いなく。これだと決めつけられるものではないことは大前提として言及しておきたい。

それでも、今日のピッチ内での事象だけを見た時に感じたのは、基準の差である。メンタル的な部分に寄ってしまって恐縮だが、正直今はいちばん大事な部分だと考えているのであえて書く。

個人的に一番差を感じたのは、プレーの連続性。松本の選手はパスを出した後にボールの行方を眺めていたり、歩いているのに対して、磐田の選手はすぐに次のポジションへ動き直す。この動き直しの質とスピードに大きな差を感じた。そして悔やまれるのは、秋田戦ではできていたはずのプレーができなくなっている点である。適切なポジションに移動した後に休む、これは就任当初から名波監督が選手に求めていることであり、中断期間明けの秋田戦では改善の兆しが見られた。それだけに悔しい。相手チーム云々ではなく、自分たちがやるべきことをやれていないというのが直近3連敗の本質だと思う。

自分たちの基準をどこに置くか。これははっきり言って意識の問題だ。サッカー選手ではない僕も日常過ごしていて感じることはある。与えられた仕事に対してどれほどのクオリティで完成とみなすかは、所属している組織や上司の基準に依存することが多い。もちろん自分の中でもある一定の基準はあるのだが、僕も人間なので、周りがダラケていると「これくらいでいいか」と思ってしまうし、逆にチームメンバーが非常に高いレベルだと「もっと頑張らなければ」と背筋が伸びる。きっとこれはサッカー選手も同じなのではないかと僕は思っている。

今の松本はチーム内での基準が決して高いとは言えない。昇格争いをしている磐田と対峙したことで明確に見せられたと思う。選手も口々にコメントしていたが、この現状を変えられるのは自分たちだけだ。日々のトレーニングから基準を上げていくしかない。


総括

リーグ戦3連敗を喫したことで、ついに19位と降格圏に足を踏み入れてしまった。さらに3試合で9失点無得点に終わっているので、得失点差も非常にまずいことになっている。

前述したプレーの連続性以外にも課題は山積みだ。山口一真、セルジーニョ、河合秀人あたりは得意なプレーエリアが左サイドで被っていて共存に苦労しそう。また、セルジーニョがボールを受けにボランチまで降りてきてしまう悪癖は是正しなければならない。終盤に左膝を痛めていた星の状態も気がかりだ。

セルジーニョと伊藤の連携が良好な点や、平川が本領を発揮しつつあること、宮部・下川の守備での安定感などポジティブな材料もある。

これからは下を向いている暇はない。ポジティブな側面に目を向けつつ、四の五の言わずに勝点を拾っていく戦いが求められる。決して綺麗でなくてもいい、泥臭くてもゴールを奪い、体を投げ出してシュートをブロックする。基本的なことかもしれないが、今の松本には基本が足りていない。基礎ができていないのに応用に手を出すのは大変危険である。

今日ここで書いたようなことは、外野の僕が指摘するまでもなく名波監督や選手は分かっているはずだ。勝つためには何でもやる。それくらいの気概を持って残り15試合に臨んでいきたい。


One Sou1



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