【成長】J2第24節 松本山雅×ブラウブリッツ秋田 マッチレビュー
スタメン
オリンピックでの中断期間を経ての再開初戦。松本はメンバーを若干いじってきた。ボランチに平川怜を起用し、前貴之を左サイドへ。トップ下には小手川宏基が今季2試合目の先発。これまで不動の存在だった外山凌と河合秀人をベンチに置くという大胆な采配を見せる。また、負傷離脱していた橋内優也とルカオが復帰し、夏の移籍で加入した伊藤翔が早速メンバー入りした。
対する秋田は中断前とほぼ同じメンバー。右サイドバックの鈴木がFC東京へ移籍してしまったが、飯尾がいるのでそれほど問題はないだろう。ロングスローでもチャンスを創出していた鈴木の存在感は大きかっただけに、気になるのはセットプレーへの影響だろうか。
修正された立ち位置
シーズン途中での監督交代ということもあり、じっくりと戦術を落とし込む時間が取れていなかった名波監督。それだけに中断期間で何を仕込んでくるのか、どんな変貌を見せてくれるのか期待していたサポーターも多かったはずだ。その期待に応えるように、試合序盤から進化した姿を見せた。
まず最も変わったのはボール保持の局面での立ち位置だろう。これまでは選手の自主性を重んじているといえば聞こえは良いが、表現を変えれば手を加えていなかった部分である。即興のアイデアや選手個人のクオリティに依存する部分が大きかったので、相手に組織的なプレッシングを掛けられると脆さを露呈していた。
そこへ名波監督はメスを入れた。最終ラインでボールを持つときには、星キョーワァンが右にスライドして空けたスペースにボランチが一枚降りてくる可変システムを採用。ベースは3バックだが、ボール保持の局面では4バックに近い形へ変えて数的優位を作りながらビルドアップを行う。
その際に、3バックの右に入る宮部は右サイドバックのような立ち位置を取り、タッチライン際まで張る場面が多かった。スピードとフィジカルを兼ね備える宮部だからこそ任せられるタスクで、左サイドの常田克人と比較した際により適任だと判断しての右肩上がりだろう。ここらへんは、3バックの人選によって若干アレンジを加える余地を残している。
立ち位置の変化に加えて、意識の変化を感じさせたのは、適切なポジションに移動するまでのスピード。中断期間前は、最終ラインでボールを持ってもフォローが遅く、相手のプレッシャーをモロに受けてしまうことが多かった。しかし、この試合では”まず立ち位置を取ること”が強く意識されており、休むとしても移動してから休むという約束事を選手は固く守り続けた。例えば、GKまでボールを下げたら3バックはすぐさま降りてきて幅をとる。星がボールを持ったら、宮部はすぐにサイドバックの位置を取り、平川は縦のパスコースに顔を出す。少しの意識の差かもしれないが、一人ひとりが変わることで、結果的にチーム全体のボール回しが上手く行っていたのは事実だ。
もうひとつ、攻撃時に改めて目立ったのはトライアングルを作ること。これに関しては中断期間前から変化が見られた点なのだが、前述の通り、正しいポジションを取る速度が上がったことでより完成度が増してきた。顕著だったのは前半の右サイド。下川・平川・小手川・鈴木の4人で流動的に位置を変えながらも常にトライアングルを作って崩していく様は、かなりスムーズでトレーニングの成果が現れていた。
この組織的な崩しにおいて特筆すべきは小手川。トップ下がスタートポジションだったが、フリーマンに近い役割で、ボランチの手助けをしたりサイドに顔を出したりとピッチを所狭しと駆け回っていた。ボールサイドに流れてきて、シンプルなタッチでパス回しの潤滑油になるタスクは、彼の特性に合っていると思うし、セルジーニョという強力なライバルが加入する今後のポジション争いは楽しみだ。もちろん、”共演”というのも見たいのだが。
集結を逆手に取られる
攻撃時にボールホルダーに複数のパスコースを作り出す意識が強くなったことは良い傾向だが、秋田はそれを逆手に取るようなカウンターを見せる。平川と佐藤のダブルボランチはボールを触りたがるタイプで、トップ下の小手川も味方との連携で真価を発揮する選手。そうすると、中盤を構成する3枚がボールサイドに偏ったポジショニングを取るようになる。
そもそも平川と佐藤という組み合わせを選んでいる以上、中盤に求めているのはボール奪取ではなく徹底的なボール保持なのだろう。なので、自陣でボールロストするという場面自体をそれほど想定していない設計だと思うのだが、選手はロボットではないので当然ミスはつきものだ。特に秋田のスタジアムは芝生が長くてボールが走りにくく、試合序盤は平川や佐藤はやりにくそうにしていた。ボール保持を重視しない秋田にとっては特段問題ではなく、松本にとってはアウェイの洗礼といったところか。何気ないパスのボールスピードが落ちてしまいカットされる場面もしばしば見られ、らしくないプレーが続いたのはピッチに適応できていなかった前半15分までに集中していたのも理解できる。
自陣でロストしてしまうと、ボールサイドに偏重気味の中盤を逆手に取られ、逆サイドへ展開されてカウンターを受けてしまう。前半11分にひやりとさせられた沖野のミドルシュートや、同じく14分の右サイドからのクロスはどちらも自陣でのロストが起点となってしまっている。右サイドハーフの沖野はカウンターを見越してか、やや内側に位置をとっていることが多く、右サイドを中心に攻撃を組み立てる松本は局面をひっくり返されることもしばしば。ボールサイドに相手を集結させてサイドチェンジを狙うことは少なかったので、同サイドに人数を掛けて崩す方針なのだろう。継続していくならば、ボールを失った後にいかにサイドチェンジを許さずに、同サイドに封じ込めるかも大切になってくる。いわゆる、ネガティブトランジションの局面の話で、この試合ではそれほど見えてこなかったので今後期待したい。
望外の4得点
立ち上がりこそ秋田にピンチを作られたものの、徐々にボール保持で上回っって秋田を押し込んでいく。36分に奪った先制点は、押し込んだ中で何回も繰り返していた形から。4バックの相手に対して、ウィングバック・トップ下・2トップと人を当てはめていくと逆サイドのウィングバックが空いてくる。前半の松本はこのミスマッチを狙っていて、下川からファーサイドへのクロスを入れるシーンがその具現化されたものだ。得点に至ったのは3回目だったが、下川の左足から繰り出されたクロスの質、目の前のDFがブラインドになりながらもしっかりと枠に飛ばした前のヘディングともに完璧だった。押し込んでいた前半のうちに先制点を奪えたのは、松本にとって理想に近いシナリオだったはずだ。
後半になると風が強くなり、松本は風上に立った。そんな松本に追加点という追い風が吹く。やや強引な印象を受けるくらいに仕掛けることを続けていた鈴木が左サイドでファウルをもらい、フリーキック。佐藤はあえてゴールエリアに放り込まずに、マイナス気味のボールをファーへ送り込み、常田が難しい体勢からヘディングでネットを揺らした。後半立ち上がりでの追加点は、ハーフタイムで仕切り直した秋田の出鼻をくじくことになったし、松本は精神的にかなりラクになった。
その後は、ルーキー宮部がスーパーミドルを叩き込めば、交代で入った外山も負けじとこぼれ球を押し込んでアピール。最後の最後に失点してクリーンシートは逃したが、2018年の千葉戦以来の4得点で快勝し、中断期間が充実したものだったことを証明した。
総括
正直、チームが変わった部分を見れてホッとしている。中断期間を明けたらしっかりと腰を据えてチーム作りをできる時間は取れないため、後半戦で巻き返しをはかるならばここしかなかった。さらにチームは残留争いに身をおいており、結果を度外視して内容を重視するような悠長なことはできる立場ではない。それだけに勝利はマストだったと思うし、欲を言えば得点を取りたかったので、ノルマを両方達成した名波監督は流石である。
とはいえ、まだ1試合しか見ていない。そして次の相手は首位を走る京都。試金石としては申し分のないチームだ。組織としての完成度では京都のほうが一枚も二枚も上手なのは承知の上だが、選手の質では決して引けを取らない。久しぶりの大量得点で肩の荷が下りた選手も多いと思うので、ぜひともはつらつとしたプレーを見せてほしい。
この試合ではネガティブトランジションや押し込まれた際の守備を強いられる場面が少なかったため、ややボールを握られる展開が予想される次節は守備面での成長を披露できるか。また、チームに合流したセルジーニョや伊藤翔をいかにチーム内に組み込んでいくのか、ベンチメンバーを含めて名波監督は頭を悩ませそうだ。スカッドが分厚いことを最大限に活かすためには、メンバーを固めることなく、相手に応じて臨機応変に入れ替えていくほうが面白いかもしれない。そんなことを妄想しながら、今回はここで終わりにさせていただく。まだ後半戦は始まったばかりだ。
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