【おとなしいと思っていた子が実は大胆だった】J2第2節 松本山雅×京都サンガFC マッチレビュー
スタメン
松本はシステムは前節と同じく3-5-2。メンバーは3人変更。常田に代わり3バックの左にサイドバックが本職の下川陽太を抜擢。また、本来はサイドが得意な表原玄太をインサイドハーフに配置し、2トップの一角には河合秀人が名を連ねた。
京都のシステムとのかみ合わせを見ると、3バックに対して相手の3トップががっちり対面する形になってしまいビルドアップに苦戦しそうな予感が漂う。開幕戦で見せた佐藤和弘を落としての組み立ての練度だと、引っ掛けかられてカウンターを食らいそう。
対して守備時は京都の攻撃の要であるアンカーの川崎をどう抑えるかが鍵になりそう。2トップで2CBを見るとして、背後でアンカーへのパスコースを消しながらプレッシングができれば苦労させられそうだなと考えていた。
想定外だった鬼プレス
果たして試合開始前の僕の予想は、開始1分で打ち砕かれることになる。試合時間43秒、京都がGKまで下げたボールに対して河合が猛然と全力でプレスを掛けに行ったのを見て、「あ、これ開幕戦と違うな」と感じさせてくれた。今日はとことん前から追うぞ!というチームでの共通意識と勢いのようなものを象徴していたシーンだと思う。
その後も、試合時間9:50~あたりで京都がGKにバックパスすると、ベンチから「GO!GO!」という大きな掛け声が飛んでいた(たぶん柴田監督)。ハイプレスは選手個人の判断ではなく、チームとしての約束事だとはっきりわかる場面。
ただ、この序盤を見ていた段階では試合序盤だけ奇襲のようにハイプレスで入って時間経過とともに自陣に撤退するパターンか、5人交代枠をフルに活用して90分間ハイテンションなサッカーをやり続けるのか、まだ自分の中で判断がついていなかった。この高いインテンシティ絶対に90分持たないと思っていたし。
カオス歓迎、むしろ自分達で作るわ
もうひとつ開幕戦と違っていたのは、ボール奪取後の振る舞い方。
山口戦では、最終ラインにアンカーの佐藤和弘を下ろして4バックを形成し、3バックの左右のHVをサイドに押し広げ、ウィングバックに高い位置を取らせる形だった。結局のところ、佐藤和弘がボールを持った後の選択肢がなく、前線に無理めな縦パスを入れるかサイドに散らすくらいしかできていなかった。
この日の松本のビルドアップが違うなと感じたのは、6:45~の場面。自陣でこぼれ球を佐藤和弘が回収し、外山へ預ける。外山からボール受けた下川陽太は迷わず縦パスを選択。結果的に相手のファウルを誘いプレーは切れた。おそらく開幕戦の松本ならば、一度最終ラインで横パスを繋いでリズムを落ち着かせて、ゆっくりと組み立てる選択をしたはず。
ただ今日の松本はボール保持への拘りを捨てていた。相手3トップに対して3バックと数的同数な状況でリスクを背負って組み立てるよりも、前線にシンプルに長いボールを入れて阪野を競らせる。そして、河合秀人・安東輝・表原玄太・前貴之・外山凌といったネガティブトランジションの速さに定評のある選手がルーズボールに殺到してボール奪取、からのショートカウンターというのがベースだった。
つまり、この日の松本は意図的に敵陣で”カオス”を作り出そうとしていたのだと思う。整っている相手守備を崩すのは非常に難しいが、バランスが崩れている時は比較的ハードルが下がる。だったら相手が崩れるのを待ってるんじゃやなくて、自分達で意図的に崩しに行こうよという考え。スタメンに運動量が豊富で機動力に優れたメンバーを多く配置したのも、「阪野豊史を旗振役としたハイプレス」と「敵陣で作り出したカオスを制す」が今日のテーマだったと考えれば納得できる。
肝心のハイプレス、どうよ?
開始早々に今日のテーマはハイプレス、いやもう鬼プレスだとわかったので、まずは松本のプレスの様子から見ていこう。
ベースは3-5-2で前貴之からハメていき、高い位置を取ってくる相手サイドバックはウィングバックで対応。インサイドハーフは、対面する京都のインサイドハーフ(福岡・松田)への縦パスインターセプト狙い。
少し自陣に徹底した際には、両ウィングバックを最終ラインに下げた5-3-1-1のような形で布陣。後ほど記述するが、2トップの一角河合秀人が相手のアンカー川崎を常に見張る役割を任されていたので、あえて前線を1-1を記載した。この時は上がってくる相手サイドバックには松本インサイドハーフが頑張って対応するという根性大作戦だったので、カバー範囲がエグすぎた。
松本のハイプレス
ポイントは3つ。
まず1つ目は、2トップの1角に入る阪野豊史の動き出し。彼の動きがチーム全体のプレスのスイッチ役になっている。阪野は背後のパスコースを消しながらのプレスが上手く、かつ献身的にハードワークできることから欠かせないピースである。
2つ目に、京都のキーマンである川崎のお目付け役を任された河合秀人。京都の攻撃はほぼ100%アンカーの川崎を経由すると言っても過言ではないくらい、今の陣容では要になっている存在。彼を自由にすると長短のパスでサイドに散らされ、守備陣系がボロボロになっていく。(これに関しては後ほど言及。)
河合はほぼマンマークに近い形で、常に彼の近くで一緒にデートしてた。そして、前述の通りプレスのスイッチ役である阪野の動き出しに連動して、相手2CBの一角に猛然と襲いかかるのも河合の役割。いつどのタイミングで川崎のマークを外してプレスに行くか、見方に受け渡すのかなど考えることが多く、かなり疲労度の高いタスクだったと思う。
そして3つ目は、ウタカと橋内優也の1on1。チームがこれだけ前がかりにプレスをかければ必然的に相手の逃げ道は細かな連携か、前線への楔のパスに。そんな頼れるウタカを潰すのが今日の橋内のタスクだった。ポストプレー、裏への抜け出し、相手の重心の逆を突くフェイントと対応するのも嫌になるような選手をよく抑えてくれていた。しかし、無理が祟ったか、前半28分にハムストリングを痛めて負傷交代。ボールと関係なくダッシュした場面で痛めていたので、おそらく肉離れかな。。。結構長引きそうな予感がしている。
3つ目の続き。アクシデントでの投入となった大卒ルーキーの野々村鷹人。ファーストプレーでいきなり警告をもらうという派手な立ち回りを見せたが、試合後のインタビューで「最初のプレーでガツンと行くべしというのは流経大時代のコーチチョウ・キジェ氏から指導されていたこと」との発言も。柴田監督も苦笑いで済ませていたように、それほどネガティブな印象ではなさそう。それ以降はヘディングの強さを存分に発揮し、野々村と競り合いたくないウタカが下がってボールを受けに来るシーンが増えていたのは象徴的だった。ポジショニングとエリア内でのマークに課題を感じたが、大卒ルーキーのデビュー戦としては及第点以上の評価だと思う。
まあ結論とすれば、京都相手にはハイプレスは効果は抜群だ!だったのではと思う。組み立てる際にバイスと本多の2バック+アンカーという形を採用している京都だが、ボールを持った際の選択肢が多いとは決して言えない。アンカーの川崎に時間とスペースが有れば、サイドへの展開なども可能だが、それ以外は前線へのロングボール頼みになりがち。インサイドハーフの選手が降りてきて受け手として出口を作るような動きを見せられないと、この先もハイプレス掛けられると苦労しそう。
60分過ぎ、ハイプレスから後手プレスに
試合序盤から思っていたことではあるが、GKまで全力でプレス掛けて、相手の最終ラインを追いかけ回すスタイルは非常に激しい消耗を伴う。その反動が見られ始めたのは60分過ぎくらいから。松本のハイプレスが数メートル届かなくなり、京都の選手にほんの1秒~2秒の時間的猶予を与えてしまう。
そして疲労度が顕著に合わられたのが、このシーン。
69:10~の場面
発端は京都のパスミスで、一度GKまでボールが戻り、バイスへパスが繋がる。約束通り阪野はプレスを掛けようとするが、前半ほどの勢いがなく余裕を持って降りてきた三沢へ。三沢から中央でボールを受けた川崎から右サイドに展開され、最後はエリア内からの宮吉の決定機に持ち込まれてしまった。
この流れの中でNGポイントは2つある。
1つは、バイスに対する阪野のプレス強度が落ちていたこと。これは疲労によるものだろうし、仕方ない。ただ、プレスのスイッチ役である阪野のリアクションが遅れることはすなわち、チーム全体としてプレスが後手を踏むことにつながる。
その流れから2つ目。このシーンで散々警戒してきたアンカーの川崎がほぼフリーでボールを受けている。本来河合が絞ってきて対応するのが原則だと思うが、前半から飛ばしまくっていた彼も限界が近かったと思う。フリーになっていることに気づいていながらも、身体が付いていかないという様子だった。
プレスを回避されて決定機まで持ち込まれたシーンの何がまずいかというと、今日の松本のテーマから考えると一番やってはいけないプレーだったと思うからだ。というのも、松本の守備の基本的な考え方は「自分達が前向きな姿勢でセットし、前に前に圧力を掛ける」というもの。これはハイプレスであろうが、自陣にセットした守備でも変わらない。だが、このシーンは川崎が右サイドに展開した時点で、松本の選手はほぼ全員が自分のゴールへ向かって戻りながらの守備を強いられている。
選手個人のプレーが悪いという話ではなく、今日のチームとしてやってはいけないピンチの迎え方だったよねという象徴的な場面だったので切り取ってみた。実際、このプレーが引き金になったかまでは定かではないが、特に疲労の色が濃かった河合と外山を交代させている。
ここから少し余談。個人的には、河合を変えたタイミングで阪野も下げても良かったと思っていた。かなり疲れていたしね。ただ、柴田監督は阪野をピッチにギリギリまで残した。これはおそらく攻撃的な意味合いよりも、守備の意味合いが強い。本日何度か出てきているように、阪野はプレスのスイッチを入れる役割を担っている。彼はプレスに行く角度が絶妙で、自分の背後にあるパスコースを消すのが上手い。さらに行く・行かないの判断も間違えないため、チームとして阪野の判断を全面的に信用してプレスを敢行している。このプレスの基準点となる役割を代替できる選手は、残念ながら今の松本にはいない。もっと言うと、ここ数年現れていないからこそ阪野が継続的に使われ続けている。松本がもう一段階ステップアップするには、阪野と同じ守備のタスクを担えるFWが出てくることが必要だろう。
今日のサッカーをどう評価するか?
ここまで長々とお付き合い頂きありがとうございます。本当に今日のブログで伝えたかったのはここからになります。もう少しだけ、お付き合いいただけたらと思います。
さて、この試合で松本が見せたハイテンション・ハイプレスサッカーをどう評価すべきだろうか。見ているサポーターとしては、攻守が頻繁に入れ替わり、球際も激しくぶつかりあってエキサイティングな試合展開だったかもしれない。実際、僕も興奮した一人だ。何回も叫んだ。
しかし、冷静に考えたときに思うのは、開幕戦とあまりにも方向性変わりすぎじゃね?という疑問。対京都のための策だったのか、ボール保持から一気に舵を切ったのか、それとも二刀流を目指すのか。。。いずれにせよ振れ幅大きすぎて耳キーンなるわw(ざっくりハイタッチ風)。分かるかなー。もう終わっちゃった小籔千豊とフットボールアワーと千原ジュニアがやってた深夜番組のネタ。
そうなんです、まるで別のチームみたいなサッカーを見せられて、「実際に俺達がやりたいのってどっちなんだろう???」という。
たしかにこの試合の先発メンバーだと、自分達がボール握って相手を崩すよりも、鬼プレス掛けて敵陣でカオス作り出して、どさくさに紛れて点取る形のほうが活きそう。前にベクトル向けてエネルギー出したほうが最大出力でそうな選手が並んるからね。ただ、こんなハイテンションなサッカーを連戦や夏場の試合でやるのはおそらく無理。60分以降足が止まって、全体が間延びしたオープンな展開になるのが想像できる。
逆に、戸島章・小手川宏基・平川怜・田中パウロ淳一・浜崎拓磨あたりはインテンシティ高いサッカーに溶け込ませるのが難しそうな印象。彼らはある程度ボールを握って主体的に相手を崩すサッカーで、創造性や技術レベルの高さが活きてくるはず。あと、ルカオ使うとして阪野と同じような守備タスク任せられるかって言うとちょっと不安。
結論、開幕戦で見せたようなボール保持をベースとしたサッカーでも、京都戦のようなハイテンション・ハイプレスサッカーでもどちらでもOK。正解はない。ただ、試合後の選手コメントなんかを読んでいると今日の内容に一定の手応えを感じていて、キャンプから継続して来たことが実を結んだような表現が見られるので、守備の部分は評価してもいいのかもしれない。
個人的には、ハイプレスとボール保持をハイブリッドするのが柴田監督の理想なんじゃないかと考えている。補強した選手を見ると結構偏りなく取っているし、現状では昨季からの積み上げがある分、ハイプレスの方が上手く機能したよって話だと思う。しばらくは勝点稼ぐためにもハイプレスが既定路線になる可能性はあると思いうけれど、長いシーズンをこなしていく中で、消耗の激しい試合を繰り返すのは難しい。そこで一定数ボールを保持しながら、自分達が落ち着く時間を作れるような仕組みづくりが融合すれば、連戦や夏場でチームの地力になるだろう。相手のシステムや戦術に合わせてボール保持と鬼のハイプレス&ネガトラ合戦を使い分けられるようになったら最強。
勝点84・得点84(何度も出してしまって恐縮ですが)という高い志を掲げるくらいの人なので、まったくないとも言い切れない感じもする。
スコアレスドローという結果だけれども、柴田監督が目指す方向性にますます興味が湧いた試合内容だった。
まとめ
ちょっと今回は長く書きすぎましたね。読み直し、校正する前の段階で反省してます。
ただ、開幕戦と違って今回は本当に見どころの多い濃い試合でした。もしこのレビューを読んでくださって興味を持ってくれた方がいれば、所どころに試合時間も記載しているので、DAZNで見返していただければと思います。
さて次はどんなサッカーを見せてくれるのか、めっちゃ楽しみにしております。橋内と常田の状態が悪くないことを祈って締めたいと思います。
ではまた。
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