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【ショートショート】変容

いつものように、海岸でボディボードを楽しんでいた夏の夕暮れのことです。

突然の大雨に見舞われ、急いで浜へあがろうとした私の身体を雷が直撃しました。

私は意識不明に陥りましたが、その場に居合わせた人々の適切な応急処置のおかげで、一命をとりとめました。
 
その後、回復した私の身に一点だけ、かくも不可解なことが起こりました。
 
クリトリスの感覚が消えたのです。
もうまるっきり、一切、まったく、何ひとつ、感じなくなっていました。
 
申し遅れました。
私の名前は下谷有紀といいます。
今年で二十三歳になります。

ふだんは社員六十名程の小さな広告代理店で、冷凍食品のパッケージを企画立案する業務に携わっています。

実は、同じ部署で働く四歳年上の先輩が気になっています。
 
先日、先輩が仕事で使っているマウスが故障したため、新しいマウスが納品されました。
いつもは総務担当者が発注して翌営業日には届くのに、十日ほどかかったそうなのです。

何やら先日私が雷に打たれた日に、オフィス用品の物流倉庫でも停電があり、復旧作業に時間がかかったとのことでした。
 
先輩が新しいマウスを使い始めたときです。
向かい側のデスクにいる私の股間に、突如として性感が走ったのです。
先輩がマウスのホイールボタンを転がしているときに、特に激しく感じられるのでした。
 
私のクリトリスの性感は、先輩のマウスのホイールボタンとなったのでした。
 
その細長いけれど関節がややごつく、俊敏な中指の動作を感じながら、私は喘ぎ声を必死でこらえながら働いていました。

私が絶頂に達すると、先輩はホイールボタンの上の中指を止めて、じっと何かを考えているようでした。
その時、先輩がホイールボタンをまた少し転がしました。

すると、先輩の瞳は輝きを増し、頬は薔薇色になり、何かをひらめいたように仕事に没頭しはじめました。
 
翌月のコンペで、先輩の企画は競合他社を一蹴し見事採用されました。
 


ある土砂降りの夜、偶然残業していた私と先輩は、気づけばオフィスに二人きりになりました。
すると雷鳴がとどろき、ブレーカーがあがりました。

「どうしよう。こまったな・・・下谷さん、ちょっと僕がいってブレーカー上げてみるよ」
「あ、はい、私も一緒に見に行きます」

私たちは非常口の横にあるブレーカーのスイッチの下に、小さな脚立をおきました。

先輩が脚立にのってスマホのライトをブレーカーに近づけようとしたとき、誤って先輩の手からスマホが滑り落ちました。
下にいる私の顔にスマホが直撃しそうになり、私をかばおうとした先輩は体勢を崩し、そのまま私たちはもつれ合って床に倒れました。

「下谷さん大丈夫? いてて・・・」
「先輩こそ大丈夫ですか?」
「うん、たぶん大丈夫」

先輩の太ももが、私の脚の間に挟まっていました。
先輩が片脚を動かしたそのとき、私の股に鋭い性感が走りました。
なんと、私のクリトリスに性感が戻ってきたのでした。

「下谷さん、いますごく辛そうな顔してるよ。本当に大丈夫?」
「だっ だいじょうぶ…です…」

次の瞬間、先輩は私の両肩を掴み、自分の方に引き寄せました。
おのずと、先輩の太ももが私の股にさらに強く押し当てられました。

「あの…実はね、仕事中に、君が全身を硬直させて苦しそうな表情をしているのを見たとき、斬新なアイデアが下りて来たんだよ。
一度じゃなく、そのあとも、何回も。
これからは僕にだけその苦悶の表情を見せてくれないか」

先輩は私をじっと見つめています。思わず私は先輩の唇に自分の唇を押し当てました。
その夜私たちはセックスして結ばれました。

今では本物のクリトリスを愛撫され私が絶頂に達するたび、先輩にその中指を通じて、斬新なアイデアが降りてくるのでした。


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