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量子コンピュータの別アプローチ:測定だけで計算が進む?【開放特許】
量子コンピュータは超高速計算が可能ですが、その主流の「ゲート型量子計算方式」には操作時のエラーが大きいという課題があります。
それに対するアプローチの一つが「測定型量子計算方式」というユニークな試みです。
今回は、この測定型量子計算方式の実用化に向けた開放特許出願(譲渡やライセンス等の意思がある特許出願)を紹介したいと思います。
開放特許情報データベース
「量子もつれ生成装置、量子もつれ生成方法および量子コンピュータ」
今回のポイント
量子コンピュータの実用化の課題とは?
ゲート型量子計算方式と測定型量子計算方式とは?
2次元クラスター状態とは?
どうやって2次元クラスター状態を作る?
測定型量子計算方式の今後の展望は?
主流となっているゲート型量子計算方式
ゆう:ねえ、りょう、今日はどんな技術を紹介してくれるの?
りょう:今日は、科学技術振興機構の量子コンピュータ技術を紹介するよ。
ゆう:最近、量子コンピュータってよく聞くよね。Googleの社長さんも「量子コンピュータの実用化が5~10年先」って言ってたし。
りょう:量子コンピュータっていってもいろんな方式があるんだけど、最近主流なのはゲート型量子計算方式。量子ビットっていうものに順番に操作(CNOTやアダマール変換等の計算)をしていって、最終的な結果を測定して答えを求める感じ。Googleが採用しているのもこの方式だね。
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ゆう:量子ビットってどんなもの?
りょう:いろいろあるんだけど、よく使われているのは超伝導量子ビット。半導体と同じような微細加工技術でチップにできるし、高速な操作もしやすいんだ。
ゆう:じゃあ、その方式で全部解決しちゃうの?
りょう:いや、ゲート型量子計算方式だと複数の量子ビットをまとめて操作するから、そのぶんエラーが起きやすいんだよ。計算内容によってゲート操作もまちまちになるし、エラーを直す仕組み(エラー訂正回路)も複雑化しちゃう。大規模化が難しいっていうのが大きな課題なんだよね。
ゆう:そっか、この前も話してたよね。
ユニークなアプローチ「測定型量子計算方式」とは?
りょう:このゲート型量子計算方式の課題を解決するユニークな方式として「測定型量子計算方式」があるんだ。これが今回紹介する発明の分野だよ。
ゆう:測定型って、どこがユニークなの?
りょう:測定型量子計算方式では、最初に複数の量子ビットを量子もつれ(クラスター状態)にしておいて、そこから量子ビットを1個ずつ測定していくんだ。毎回の測定結果を次の測定方法(測定基底)に反映させながら、最終的な計算結果を得る仕組みになっている。
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ゆう:量子もつれってなんだっけ?
りょう:2つ以上の量子ビットがすごく関連し合ってて、一方の状態を観測すると、もう片方の状態が瞬時に決まっちゃう関係だね。
ゆう:思い出した、これも前に言ってやつね。それで、どうして測定するだけで計算ができるの?
りょう:うん。1個の量子ビットを測定すると、その量子ビットの状態は「確定」(収縮)しちゃうんだけど、量子もつれの相関によって他の量子ビットの状態が変化するんだ。これが操作の代わりみたいな働きをしてくれる。
ゆう:へえ、面白いね。それで何がいいの?
りょう:ゲート型みたいに「同時に複数ビットを操作」する必要がなくなるから、エラーが起きにくいのが利点だね。
ゆう:1個ずつだと失敗しにくいってことね。
参考:
・Raussendorf, R. & Briegel, H. J. "A One-Way Quantum Computer", Phys. Rev. Lett. 86, 5188–5191 (2001).
・Raussendorf, R., Browne, D. E., & Briegel, H. J. "Measurement-based quantum computation with cluster states", Phys. Rev. A 68, 022312 (2003).
2次元クラスター状態の生成
りょう:ただ、測定型量子計算方式を実用化するには、最初に格子状の量子もつれの状態(2次元クラスター状態)を生成しておく必要があるんだ。この部分が今回紹介する発明。
WO2022/190684A1:
量子もつれ生成装置、量子もつれ生成方法および量子コンピュータ
ゆう:それって、どうやって作るの?
りょう:以前から、量子ビット同士を直接または結合共振器を介して接続し、さらに隣り合う量子ビットごとに操作を行って直線状(1次元)に量子もつれにする方法はあったんだ(1次元クラスター状態)。でも、それを縦横に格子状に広げて2次元化するのは難しかった。
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ゆう:なるほど、1列ならできてたけど、格子状に広げるのが課題だったのね。
りょう:そうそう、今回の発明は1次元の量子もつれを「伝搬マイクロ波光子」っていう状態にして導波路(通り道)に放出し、別の列に伝える仕組みを取り入れたんだ。これを何度も繰り返すことで複数の列を量子もつれさせることができる。
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ゆう:それで2次元のクラスターが作れるってわけね。
りょう:さらに、量子ビットの電極を工夫して、1つの量子ビットを量子もつれを作るモード(もつれ生成用モード)と伝搬マイクロ波光子を放出するモード(光子放出用モード)とに切り替えられるから、効率もいい。
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ゆう:より便利にしたってことだ。
測定型量子計算の課題と展望
りょう:とはいえ、実用化にはいくつか課題もあるんだ。
ゆう:たとえば?
りょう:まず、2次元クラスター状態が作れても、大量の量子ビットで量子もつれを正確に維持するのはすごく難しい。精密な回路設計と製造技術も必要だね。
ゆう:数が多いほど難易度が上がるのね。
りょう:あと、測定結果を次の測定方法(測定基底)に反映させる制御が必要なんだよね。ここでは普通のコンピュータ(古典コンピュータ)を使うんだけど、そこがボトルネックになる可能性もある。
ゆう:ハードもソフトもまだまだ課題があるんだ。
りょう:そう。だけど、測定だけで量子計算ができるというのは大きなメリットだね。エラー耐性を根本から改善する可能性があるアプローチだと思うよ。
ゆう:いろんなアプローチで実用化に向かっているってことね。
今回のまとめ
現在の量子コンピュータの主流はゲート型量子計算方式。IBMやGoogleなどによって商用化が進んでいる。
ただし、ゲート型量子計算方式には、操作時のエラーが大きいという課題がある。
その課題を解決するユニークな方式として測定型量子計算方式が存在する。
測定型量子計算方式では、量子ビットを1個ずつ測定して計算を進めるため、ゲート型よりエラーを抑えられる可能性がある。
今回の特許出願は、2次元クラスター状態を生成する方法を提供し、測定型量子計算方式の実用化に向けた重要な一歩となり得る。
ただし、大規模化や古典コンピュータでの高速制御など、乗り越えるべき技術的課題も多い。今後のブレークスルーが期待される。
今回も、最後までお読みいただきありがとうございました。
弁理士 中村幸雄
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