クラウドファンディングと知的財産権(5)
前回はクラウドファンディングでの侵害リスクを避けるために、どのようなものを調査対象にすべきかについて述べてみました。
今回は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権の侵害をイメージし易いよう可視化してみたいと思います。
≪特許権・実用新案権の場合≫
特許権の効力範囲は、出願書類の【特許請求の範囲】という欄の【請求項】に基づいて定められます。
この特許権の効力範囲は、概念的にはある広がりを持った「面」と捉えることができます。
一方、実際の製品やサービスは具体的な「点」と考えることができ、原則、この「点」が「面」に含まれれば特許権侵害ということになります。
もう少し詳しくみていきましょう。
請求項には大方以下のような内容が記載されています。
A,B,Cはそれぞれ、広がりを持った概念を表しており、それらをすべて備える範囲に特許権の効力が及びます。
それぞれの概念は広がりを持った「面」であり、この例ではA,B,Cの3つの「面」が一部で重なっています。
これを可視化すると以下のような感じでしょうか。
この3つの「面」が重なっている太枠の領域が特許権の効力範囲。
すなわち、この太枠の領域の「面」に含まれる★の「点」に該当するものが特許権を侵害することになります。
一方で、例外はあるものの(均等論や侵害の予備的行為)、原則としてそれ以外の▲や◆などの「点」に該当するものは、この特許権を侵害しないことになります。
実用新案権は実体的な審査を行うことなく登録される点で特許権と異なりますが、権利範囲の特定方法は特許権と同じです。
≪意匠権の場合≫
登録意匠の内容は、図や写真で示された「形態(デザイン)」と【意匠に係る物品】という欄で示された「物品」または「用途」とによって特定されます。
意匠法では、何らかの物品、建築物、または画像のデザインのみが意匠登録の対象となります。
例えば、かばんのデザイン、住宅用の建築デザイン、現金自動預払機用の画像デザインといった感じです。
登録意匠は「形態(デザイン)」と「物品」または「用途」との組合せで特定されており、意匠権の効力はその類似範囲にまで及びます。
これを可視化すると次のようになります。
意匠権の効力範囲も「面」として捉えることができます。
すなわち、登録されたデザイン(形態)とその類似範囲であるAの領域と、登録された物品または用途とその類似範囲であるBの領域と、が重なった太枠の領域が意匠権の効力範囲ということになります。
一方、実際の製品、建築物、画像は具体的な「点」と考えることができ、原則、この「点」が「面」である太枠の領域に含まれれば意匠権侵害。
上述の例では太枠の領域に含まれる★の「点」の製品の製造販売などは意匠権を侵害することになりますね。
一方、所定の例外を除き(侵害の予備的行為)、太枠の領域から外れる▲や◆や◇などの製品の製造販売などは原則、意匠権侵害とはなりません。
≪商標権の場合≫
登録商標の内容は、文字、ロゴ、立体形状、音などの「商標」と、その商標を使用する「商品」または「役務(サービス)」とによって特定されます。
登録商標は、商標とそれが使用される「商品」または「役務(サービス)」との組合せで特定されており、商標権の排他的効力はその類似範囲まで及びます。
これを可視化すると次のようになります。
商標権の効力範囲も「面」として捉えることができます。
すなわち、登録された商標とその類似範囲であるAの領域と、その商標について指定された「商品」または「役務(サービス)」とその類似範囲であるBの領域と、が重なった太枠の領域が商標権の排他的な効力範囲ということになります。
一方、実際の製品やサービスは具体的な「点」と考えることができ、原則、この「点」が「面」である太枠の領域に含まれれば商標権侵害ということになります。
上述の例では太枠の領域に含まれる★の「点」の製品等は商標権を侵害することになりますね。
一方、所定の例外を除き(侵害の予備的行為や登録防護標章)、太枠の領域から外れる▲や◆や◇などは原則、商標権侵害とはなりません。
まとめ
最後にこれまでのポイントを簡単にまとめておきます。
≪第三者による摸倣リスクに対して≫
①何を公開して何を秘密にするのかを意識する
②「右脳」に働きかけるストーリーを公開しつつ、「左脳」に与える「なぜ」「どのようにして」という情報を秘密にすることで第三者の模倣を防ぐ
③商品を見れば「なぜ」「どのようにして」という情報が明らかになる場合には知的財産権による保護が重要
≪知的財産権の侵害リスクに対して≫
①事前の調査/継続的な調査が大切
②現在・未来の権利侵害となり得る範囲に調査範囲を絞り込む
③検索でヒットしても権利が発生/存続しているとは限らない
④侵害の有無は権利範囲の「面」に商品やサービスの「点」が含まれるかで判断する
以上、お読みいただいた方の成功のための一助となれば幸いです。
今回もありがとうございました。
弁理士 中村幸雄