野田元首相の追悼演説に非常に腹が立ったというイチャモンめいた私の感情の話

自分でも意外なほど腹が立った。

もとより儀礼的な演説であるし、人選は最適に思われたので事前に特に思うことはなかった。が、いざ行われたものを見聞きすると驚くほど怒りがわいてきた。あの整った文章と内容と情熱的な語りがより一層私の神経を逆撫でした。我ながらイチャモンもいいところである。

今後は氏の所属する政党 (現在は立憲民主党)には絶対に投票しないと決めた。それどころか選挙で投票することすら馬鹿らしくなった。国会議員などはどいつもこいつも勝手に決まって勝手にやれと思えてきた。つまりかけがえのない権利の放棄を選びたくなった。

何故であろうか。あの追悼演説の何がそこまで私を怒らせたのだろうか。野田元首相は要求された仕事を完璧以上に成し遂げたと思うしその点まことに立派だと思う。にも関わらず、私は腹が立って仕方ない。

国会での追悼演説である以上、節度をもって批判を抑え目にし、故人を称え偲び、政治の理想を語るのは当然である。それはわかっているが、それでも腹が立って仕方ない。私の個人的な感情的な問題といえる。しかしなぜなのか。もっと故人に批判的な内容であるべきだったという意見もあるが、私はそうは考えていない。その点はあれで良かったと思っている。ではなぜだ。

追悼演説だからああいうものだという意見もある。その通りだと思うし、内容的にはベストといえる充実度である。見事というほかない。ただしその為にこの演説が今後盛んに利用される危険は考えておかなければならない。安倍元首相が立憲主義を守って行動した政治家であったと誤解させるような所を含んでいるからである。この点はあの演説の危険な所であり批判されるべきと考えるが、しかし私個人を激怒させるにはもうひと押し足りない気がする。

あらためて安倍・野田両元首相の最も有名な政治的な関わりを振り返れば、いわゆる「近いうち解散」に関する自民・民主の党首討論となる。この結果、野田元首相は「自爆解散」を選択し、安倍元首相の長期政権成立を強力にアシストした。そして安倍政権は既に崩れつつあった日本の憲政をほぼ完全に破壊した。

この一連の流れが私の激怒の一因であるのは間違いない。しかしこのことは前から知っているし呆れているが、このことのみでこれほど腹が立つとは思えない。

ではこれら上記の合わせ技か?いやもう少し、決定的な何かが足りない。

私は現在の日本の政治状況は異常という認識を持っている。憲政が崩壊しているのに国会も内閣も裁判所もそれを当たり前としているからである。それは議会政治の形骸化であり、前述したように野田元首相は自爆解散前後の政局によってそれを招いた1人である。

でありながら(おそらくは故にこそ)野田元首相は民主主義と議論・対話や議会の大切さを演説の内容に盛り込み、故人の思い出と絡めた。感動必至の見事な構成力である。

だが、しかし、率直に書くと

お前が言うな!!!!!

と私は強く感じた。故人に関するところではなく、議論や民主主義について語っている部分にである。

また怒りと共に、なんという危機感の無さかという空しさもわいた。穿った見方をすればあえてあのように述べることで分断を避けようとしているともとれる。しかし私はその解釈をとれるほどの希望をもう抱けない。

議論の大切さだのなんだの言ったところで日本の国政の崩壊は既にそんなレベルを超えた末期的状況なのである。なのにそれを招いた当人が、暴力はいけませんよね、私たちは議会で議論で真剣にやりあいましょうとなんと牧歌的なことか……決して間違ってはいない。全くもって正しく良識的である。だがすでに瓦解した憲政に直面した身としてはどうしてもしらけてしまう。

国会のための国会。議論のための議論。自己陶酔と自己矛盾の議会政治の肯定とそれを拍手で称える議場の国会議員たち。もはや与党野党各党の話ではない。政策以前の部分が壊れているのにまるでそんなことはないように振る舞う人々。ああ、もう遅いのだ。あまりにも。

議員の方々は場に合わせているのだから当然といえなくもない。抗議しろとも暴れろとも思わない。

とどのつまり、何もかも正しく同時に何もかも動かしようがないのだ。あの演説と議場にあるのはただ現状の追認と美化だ。貴族たちが内輪で盛り上がっているのを見せられている一庶民の空しさだろうか。

ここまで書いてきて気づいた。私の怒りは失望だったのだ。日本国の政治と政治家に勝手に期待をし過ぎていたのだ。衰亡する国家の議会など寝るか歌うかあるいはあのように素晴らしい演説がもてはやされるかなのに、私のような愚か者は何を望んでいたのだろう。

まことに私は愚かである。そしてこの愚かさを捨てられないところに私がある以上、怒りは消えることがないのだ。

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