ニューロダイバーシティ: 多様性を受け入れ、教育と雇用の未来を拓く


要約

 ニューロダイバーシティは、脳の多様性を尊重し、社会をより包括的にするための取り組みです。この概念は発達障害者に焦点を当て、彼らの個別の特性を障害ではなく多様性として受け入れることです。適切なサポートと柔軟な取り組みが成功の鍵であり、これが実現することで、個人の能力を最大限に引き出し、組織や社会全体が創造的で持続可能な変革を達成する可能性が広がります。多様性の受容が、現代社会の健全な発展に寄与する重要な一環と考えています。

ニューロダイバーシティ(神経多様性)とは何か

 ニューロダイバーシティ(Neuro Diversity)とは、全ての人の脳や神経のあり方を認め、あらゆる人々が生きやすい社会にしていくための活動である、と私は考えています。

 まずはじめに、ニューロダイバーシティの言葉の定義を少し確認していきたいと思います。

 ニューロダイバーシティを直訳すると、神経多様性という言葉になります。ちょっとわかりづらい表現ですが、反対語としてニューロティピカル(Neurotypical)、神経学的定型という言葉があり、これは要するに定型発達ということです。反対に、ニューロダイバーシティとは、非定型発達、要するに発達障害のことを指すのですが、単に発達障害という言葉から生まれる何かネガティブのニュアンスを別な言葉で置き換えた言葉ではありません。私たち人間には、実は神経(脳)の多様性があってそれを認め合おうということです。

 村中直人さんの書籍では、以下のように記載されています。発達障害を、障害という視点でとらえるのではなく、あくまで個人の特性として捉えるために非常に重要な言葉であるとしています。

「自閉症スペクトラムをはじめとする、発達障害と呼ばれる現象を、能力の欠如や優劣、つまり障害の視点とは異なる視点、異なる意味で捉えなおすための言葉として重要な意味を持つ言葉」と言われています。

ニューロダイバーシティの教科書

また経済産業省によるニューロダイバーシティの言葉の定義を下記に記します。

「脳や神経、それに由来する個人レベルでの様々な特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で活かしていこう」という考え方であり、特に、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、学習障害といった発達障害において生じる現象を、能力の欠如や優劣ではなく、『人間のゲノムの自然で正常な変異』として捉える概念でもあります。

経済産業省ニューロダイバーシティの推進について

 特に、「人間のゲノムの自然で正常な変異として捉える概念」という言葉からも発達障害を障害として捉えるのではなく、あくまで特性の違い、多様性として捉えるという点が大事だと思います。

 本Noteは下記の章立てで進めたいと思います。まず、日本における発達障害数の傾向を確認し、その中でも大学などにおける発達障害の統計情報に着眼点をあてます。そして、社会に出た後の発達障害を持つ方々の現状を明らかにしたうえで、最後に私なりの考察をまとめていきたいと思います。

大学生における発達障害者の傾向

 まず、日本全体の発達障害者数について、確認してみます。厚生労働省が実施した2016年生活のしづらさなどに関する調査によると、日本における発達障害の推計人数は48.1万人と言われております。その内76.5%が障害者手帳を保有している。またこれは2011年の同調査から約1.5倍の人数になっていることがわかります。

 つぎに、大学における発達障害者数をみていきます。日本学生支援機構が2022年度に実施した大学、短期大学及び高等専門学校における 障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書によると、大学においては、発達障害者は7,368人(前年より増加傾向)となっており(表4)、大学における障害者数の約20%を占めるほど多い状況がみられます。発達障害という言葉をご存じの方も増えてきていると思いますが、障害者の中でも以外と大きな割合を占めているように感じられるのではないでしょうか。

 そして発達障害を持つ学生は、他の障害を重複して持つことが示されており、その多くが精神障害であります(表8)。発達障害をSLD、ADHD、ASDの合計(12+224+278=)514人とし、各々が重複している精神障害の合計(2+124+145=)271人を割ると、実に発達障害を持つ学生の約半数である52.7%が重複障害として精神障害をもっていることがわかります。

 さらに注目すべきは、発達障害者の卒業率(表71)をみると、68.8% と低い傾向が示されております。最も卒業率が低いのは精神障害であり(64.2%)、発達障害を持つ学生の約半数が精神障害も併せ持つとすると、発達障害者にとって、大学の卒業は現状では大変厳しい状況にあることがわかります。また就職希望率も68.2%と低く、社会にでる際の生きづらさが垣間見える数字になっていると思います。

 このように、発達障害を持つ大学生は以外と多い現状に加え、その卒業率も低く、卒業できたとしても希望就職率が低くなってしまっていることが今の大学生の現状であることを知って頂きたいです。

社会人の発達障害者の傾向

 今度は、社会に出た後での発達障害者の現状を見てみたいと思います。経済産業省は、イノベーション創出加速のためのデジタル分社における「ニューロダイバーシティ」の取り組み可能性に関する調査レポートを公表しました。

 このレポートによると、世界で自閉症を持つ人は7000万人いるが、そのうち、8割が無職か、著しく能力の低い仕事についているしています。また発達障害のある方の就職率(33.1%)は、障害者全体(46.2%)に比べても低い状況も示されています。

 そして、日本ではどうでしょうか。2060年までに生産年齢人口が約35%減少し、4,793万人と予測されており(図2-3)、成⾧市場であるIT業界では2030年時点でIT人材が需要に対して約79万人不足するとの試算もあります(図2-4)。

 つぎに、野村総合研究所のレポートを見ていきましょう。日本国内では2.3兆円の経済損失があると推計しています。うち、労働関係損失が1.7兆円となっております。試算根拠が読み取れないですが、恐らく発達障害者の方の雇用がなされていない、あるいは、賃金が著しく低い職についたことでの損失であると思われます。

 また発達障害を持つ方の生産性は一般の人に比べて約10%程度低いということも示されております。一方で、発達障害を上司や同僚にカミングアウトしている場合は、生産性が一般の方と同等レベルになることが示されている点はニューロダイバーシティを考えるうえで重要な点であると思います。

 そして、発達障害であることを職場にカミングアウトせずに働く傾向が高いことが示されており、これは話しても理解が得られないというだけではなく、障害者雇用になってしまうと、一般雇用に戻れないという現実もあるようです。

 ここまでのことをまとめると、発達障害者の生産性は一般の方と比べて低い傾向があるが、上司や同僚にカミングアウトし、理解が得られると生産性は一般の方と大きく変わらない傾向がみられる。そして、日本では生産年齢人口が減少傾向であり、特にIT産業においては人材不足が顕著になっていることが明らかであります。そのような状況において、ニューロダイバーシティを理解し、推進していくことはまさに、現代の社会問題の解決の一助になるのではないでしょうか。

考察

 発達障害を抱える人々が大学や職場で成功するためには、教育と雇用の両面での支援が重要となるかと思います。教育機関や企業が、ニューロダイバーシティを理解し、適切なサポートを提供することで、卒業率や雇用率の向上が期待できると思われます。
 そのためには、発達障害を持つ方々を障害者という枠組みで捉えるのではなく、多様性と捉えることが重要となってくると思います。そして、発達障害を1つの特性としてとらえることで社会が大きく変わっていく、そのような動きがでてくることを願って、このNoteではニューロダイバーシティをシリーズとして取り上げ、私なりにいくつかの視点でこのニューロダイバーシティという概念と解き明かしていきたいと思っています。
 

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