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GRが渋谷に帰ってきた


銀座の中心の、おそらく世界で最も地価の高い場所にあったギャラリーRING CUBEがなくなり、新宿のギャラリー&サービスセンターがなくなり、どこのメーカーもサービスセンターやギャラリーを縮小していく傾向があったので、残念だけどリコーも・・・と思っていました。

そこに嬉しいニュースが。原宿にGR SPACE TOKYOがオープン
招待状が届いたので内覧会に行ってきました。それにしても「ナントカなんとかトーキョー!」という響きには、若干のバブル感あっていいですね。最寄り駅は明治神宮前(原宿)だけれど、WAKU-WAKUしながら渋谷から歩きました。


SHIBUYA 1996→2024



楽器のお茶の水、アニメの池袋、コンピューターの秋葉原、古本の神田、といったふうに東京にはマニアの聖地のようなエリアがあって、写真だと新宿です。
荒木経惟さん、森山大道さん、といった巨匠たちが夜に集い、スナップ写真の舞台でもあり、写真学校や量販店があって、メーカーのギャラリーも多く、7,80年代にスナップ写真を撮っていたら困ったときには新宿に向かう習慣があったはず。

スタジオALTAの前にいると「学校の課題で街の人を100人撮らなきゃいけないんです。お願いできませんか?」と声をかけられることも多かったです。
広角レンズをつけた一眼レフ&増感したモノクロで、雑踏を彷徨うスナップ写真家のイメージも、ここ新宿から始まったのでは。

その伝統的なスナップ写真の世界観にカウンターとして登場したのがGR。
大きく重い一眼レフは家に置いてきた。私はこれ一台で街を斬る、的な。
洗練されつつトガった雰囲気を持っていました。ロックバンドだとレッチリ。バリバリの技術があって、オールドロックを完璧に踏襲しつつ、音は新しい。
新宿はビジネスマンの街、カルチャーと流行は渋谷から、という波もあってGRと渋谷はセットで記憶されています。バブルが弾けてGRが生まれた。

それでも、今でもやっぱり渋谷なのか、と驚き
当時のGRを知る人たちにとって原宿や渋谷は行きづらい場所になっているでしょうし、カメラ好きがついでに寄れるスポットが多いわけでもありません。
世界中から多くの人が訪れるから、観光客や地方に住んでいる人に向けて「GR SPACE TOKYO   撮り歩きマップ」配布されたらいいな。PDFじゃなく紙で。

個人的には、清澄白河や蔵前のようにこれからのエリアだったらよかったのにという気持ちもあります。
欧米だと、倉庫街みたいな安い場所にギャラリーができて、感度が高くオシャレな人たちが集まるようになり、それを狙ったアパレルショップができて、ホットなエリアに成長していくパターンがよくある。パリのマレ、ロンドンのリバプール・ストリートがその例。
お隣だと、ちょっと成り立ちは違うけれど、台北の四四南村や香港のPMQとか。

いつかGR IVがリリースされるだろうから、それが渋谷をどんな視点で切り取っていくのか楽しみ。
イメージコントロールに名前がついていて"SHIBUYA"があったらいいな。モノクロなのかカラーなのか、ポジなのかネガなのか、硬いのか軟らかいのか、ブルーなのかアンバーなのか・・・。




GR SPACE TOKYOを支える三本の柱


歴代GRがディスプレイされた棚は壮観ですが、ボディサイズが小さいのと、デザインは共通なので、5mくらい離れるとぜんぶ同じに見えます。
最近のスニーカーショップにあるような、アクリルケースに限定版コラボモデルがディスプレイされてたり、アクセサリーのコーデ見本がある、ということはなくショールームとしての機能は最小限。

なんと言っても、入り口周辺にある写真集を中心にした書籍コーナーが素晴らしいです。フィルムで渋谷を撮っていた90年代に、このスペースがあったら入り浸っていたかも。PARCOにあった洋書店LOGOSが好きで、いろんな出会いと刺激がありましたが、そこ以上の品揃えに思えます。

棚ごとに作家の国籍、作風など、テーマで分かれていて、GRが写真の歴史にリスペクトを持っていることがビリビリ伝わってくるのがいいです。
風景写真などはほとんどないし、有名だから置いておきます的なものもなく、インテリアグッズとして並べてあるのでも、付き合いのある作家たちが並んでいるのでもなく、ガチでスナップ写真の歴史がギュッと。

ベッヒャーとグルスキーが上下に置かれていたり、ロバート・フランクとブレッソンが棚板越しに並んでいたり、いろいろと最高です。
個人的には90年代のスタジオボイスが大好きだったので、ずらっと並んでいるのを見て胸が熱くなりました。Switchじゃないところもいいな。どっちも最高の雑誌だったけど。


ドイツ御三家———いや、四天王?
この棚で「写真の歴史麻雀」やりたい。ベッヒャーでポン、とか。
せっかくの分類がぐしゃぐしゃにならないのか聞いたら
図書館みたいにラベルに番号が振られているそう。すごい!


次がコーヒー。
シアトル系でもサードウェーブでもない、スッキリしているのにしっかりした味だったように感じました。コーヒーもここの自慢ですよ、と説明があったのでオリジナルブレンドかも。訪れたらぜひ飲んでみてもらいたいです。 
あれだけの貴重な本が並び、森山大道さんのプリントがフレームに入れないまま飾られていて、びちょびちょに水滴がついたアイスコーヒー持ち歩いて大丈夫なのかなって不安になりましたけれど、ルールで守るのではなくみんなでこの空間を維持していってくれることを願います。

コーヒーを注文するカウンターと、書籍が並ぶ棚と、境界なくギャラリーのスペースになっているのも特徴的。写真がカルチャーの一部で、ファッションと親和性が高かった時代を思い出します。
そういえば内装も90年代的。パイプが剥き出しになった天井、コンクリート打ちっぱなしのように見える壁、入り口だけにある窓・・・、「アメリカン・サイコ」の世界。

写真のテイストも90年代風にしてみました

ということで↓の写真を見直してみてください。ぼくが撮ったGR III HDFのイメージカットです。オーダーはなかったですがコーヒーと写真集とGR。
言葉がなくても分かり合えているからこそのGRist。

部屋とワイシャツと私、ならぬ「写真集とコーヒーとGR」

レンズが繰り出した状態でバッテリーを抜くと
そのままキープされるのをさっき教えてもらいました。
引っ込んでは電源ONにしてた。


今後への期待


Noタブレット、液晶モニターじゃない紙の本、〜 TOKYOというネーミング、明治通り・・・、写真の黄金期とも言える90年代へのオマージュに感じるので、90年代のヴィンテージがドレスコードになっているパーティやって欲しいです。
レッドウィングのアイリッシュセッターとラルフローレンの紺ブレだらけで、「捨てなくてよかったよ。足のサイズは変わらないけれどお腹がね」なんて言い合ってたら最高だな。
今日のBGMは色のない(個性が薄い)音楽が流れていましたが、その夜だけはこれを。


もうひとつ、こっちは本気で。
この周辺で撮った写真限定で公募して、「今週の一枚」を選んで店内で流すのもいいと思います。プリントしてカウンターに飾るのもいい。ユーザーからしてもGRの総本山に飾ってもらえるのは嬉しいのでは。
SNSは地方と東京の境界をなくしたけれど、写真は結局のところ「その場にいかなければ手に入らない」喜びに支えられています。
ここに来た人たちだけの特典と、ここを中心に広がっていく、リアルならではの楽しさがあっていいと思います。


平成どころか昭和を引きずってしまった良くない例



さらなる未来へ



RING CUBEができたばかりの頃、写真家たちが撮ったGRの一枚みたいな企画展があり、そこで声をかけてもらったのがGRとの付き合いの始まりでした。GR digital IVの頃かな。リアルな場があるとこういうことができるんですね。
今度は原宿で、次世代の写真家たちとの交流が生まれていくことを願っています。

というのも、90年代に若い社員としてGRを盛り上げた人たちが、これから定年を迎えていく頃のはず。ぼくが最もカメラに夢中だったのは80年代のキヤノンで、CM、カタログ、グッズ、全てが好きでした。関わった人たちとお会いできたら当時のこと聞かせてもらいたいと思っていたのに叶わなかったです。

GRの歴史、スナップ写真の歴史が、未来に継がれていきますように。この空間がそのためのハブになることを期待しています。


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