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時代がGRを求めたのか、GRが時代を変えたのか #01

学校で教えていた鎌倉幕府=1192年も書き換えられました。歴史は検証され続け、視点によって意味と価値が変わっていくもので、ニーチェが言うように「事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである」のかも。

気取った前置きですが、記憶が曖昧で前後関係が思い出せないことがあり、まとまらない断片をここに記しておきます。


1996年
Before GR、After GR



ひとつ前の記事でGR SPACE TOKYOについて書き、写真関連の書籍のライブラリが充実していることに触れました。写真集を見ながらスナップ写真の歴史を辿ることができます。
ふと疑問に思ったことがありました。「GRの誕生は96年。高級コンパクト人気の追い風に乗って登場」とされる、そのGR元年ってどんな年だったかな?

90年にコンタックスT2が発売されて、高級コンパクトの時代が始まったとされています。黒いプラスチックのカメラが主流になって、かつてのカメラの輝きやかっこよさが失われつつあることへの反発があったそう。
これは記憶と合致します。
ちょうどこれくらいの時期に健康診断で引っかかって、「このまま何かあったら一番の後悔はなんだろう?」と思って写真を再開する決心をして、量販店に行ったときいちばん驚いたのが、どれも同じような形で自動化されていて欲しいカメラが見つけられないことでした。

そこからの十年がスナップ写真にとって大きな転換期だったことは間違いないでしょう。知りたいのは、変わりつつある時代がGRを求めたのか、GRが時代を変えたのか。
他にも高級コンパクトがあったのに、なぜGRだけが30年も残って、デジタルへ移行して、人気を維持することができたのか。



記憶の断片



96年にどんな写真が流行っていたのか思い出せません。
94年の年末に「プロになってやる!」と辞表を出したため、95年から形だけはフリーランスのフォトグラファーでした。96年には月刊カメラマンで連載を持っていたのでミノルタTC-1のタイアップ連載にも登場させてもらいました。
これが高級コンパクトとの出会い。高くて買えなかったけれど、驚くほど写りが良くて、強烈な個性があり、手に伝わる高級感がすごかったです。
いま調べたら¥148,000だって。カメラは高くなったのか安くなったのかよくわからない。

高級コンパクトは写真を変えたのか、写真が変わろうとしていたから高級コンパクトが売れたのか?

今のフィルム人気の再燃により、この時代のカメラを買った人たちが「エモい!」と叫びながら撮った写真はたくさん見られるのに、リアルタイムで撮った写真たちを探してみるのはかなり難しいです。
インターネットはWindows95の登場とWindows98、2000年から本格化するフレッツISDNの普及によって劇的に進化するため、それ以前とは情報の量と密度がまるで違います。96年のことだとブログなど個人の記述が見つかりません。
「ボーナスでついにGRを買った。TC-1と迷ったが大きさよりは薄さが決め手。周囲の友達からは"同じ値段なら一眼レフのほうがいいよ。絶対に後悔するから"と言われたが、スナップシューターという名前に惹かれた」なんて日記を読みたかったのに。

人気のカメラの変遷をカメラグランプリ受賞機から辿ってみます。
 第10回(1993年) Canon EOS 5
 第11回(1994年) Minolta α-707si
 第12回(1995年) CONTAX G1
 第13回(1996年) Minolta TC-1

時代の流れがEOS→αなのは歴史どおりだけれど、ゲームチェンジャーとされるT2はグランプリを受賞してないのにG1が獲っているのは意外でした。豊作だった96年はTC-1なのですね。


ジェネレーションXへ


コンパクトなカメラで身の回りのものを撮る、ファッション写真家がスナップの写真集を発表する、ネガフィルムの人気・・・
これらのムーブメントが誰から始まり、どこの国で起こって、どう世界に広がっていったのか、うまく体系づけることができません。音楽だと「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの登場」とか「ニルヴァーナを代表とするシアトルの隆盛」といった分析が楽なのだけれど。
どれも「ガチガチに技術で作り上げた写真はリアルじゃない。スタジオから外に出て自由になりたい」という精神があったように思います。ロックに倣って名付けるならオルタナティブ・フォトでしょうか。

HIROMIXが木村伊兵衛賞を獲ったのが2000年。
賞を与えるならもっと前だったのでは、という反応が多かったから、影響を受けた若い子たちがコニカビッグミニを買って自分の足とか撮りまくったのはもうちょっと前。
ソフィア・コッポラの映画「ロスト・イン・トランスレーション」の名台詞

女の子は誰でも、写真に夢中になるの。馬を好きになるように。自分の足とか、くだらない写真ばかり撮る。

というのはこの時代を振り返った言葉でしょう。

ティルマンスが初台で大規模な写真展を開催したのが2004年。
写真新世紀のような公募展にチャレンジしていた友人たちは、20世紀のうちに「すごい写真家が出てきたよ。あれは神だね」とティルマンスについて語っていた記憶があります。
ターナー賞を獲って「写真を最もアートに近づけた」と評価されたのが2000年だから・・・



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