魂の音楽 HR/HMの名曲ベスト8を決める
いくつかマニアックな趣味があって、仲間と共有するのが難しいのだけれど、なかでもHR/HMについては語り合える知人がいません。
そもそもHR/HMって何?
ハードロックとヘビーメタルをひとつにした記号です。略しているだけだけれど記号だと思っていいです。HRとHMの違いとか定義まで話し始めると面倒なことになるので、とにかく続きを読んでください。
いつHR/HMを好きになったか考えると、兄が友だちから借りてきたレインボーのライブビデオを見たのが最初だったはず。すでにロックは聞いていてラジオのエアチェックに夢中だった時期。
野暮ったいルックスのおじさんたちなのに、クラシカルなメロディ、ドラマティックな展開、後で知る言葉だけれど「様式美」に、一発で夢中になりました。
曲は「I Surrender」だったんじゃないかな。いま聴いても名曲だと思います。とくに0'57"くらいのところで♪ アイ・サレンダァ〜とギターソロに繋がっていくところ最高。
レインボーを夢中になって聞いているうちに、バンドの歴史の中でボーカルが三人も変わっていることを知ります。バンドのメンバーチェンジは、HR/HMの広い海で迷わないための大切な知識のひとつ。プロデューサーで音楽性がガラッと変わることもあるけれど、○○期というふうにどのボーカルの時期かでバンドの歴史を潜って考えることも多いから。
えっ、ボーカルが中心じゃないの? と驚き、音楽的なイニシアチブはリッチー・ブラックモアだと知って、ギターヒーローというHR/HMの華みたいな存在を意識するようになります。ボーカルやキーボードが中心のバンドもあるけれどギターが圧倒的に多い。
高校のときは写真部だったので、軽音楽部にギターめちゃくちゃ巧い同級生がいて、ときどき演奏風景を撮影しにいき、ギターの生音ってカッコいいなと思ってました。
その頃に好きだったのがマイケル・シェンカー。初期のアルバムの暗さもよかったけれど、いちばん印象に残っているのはこれ。
このジャケット写真で叩きつけて折ってるギター、私物でちゃんと使ってるものだからね。普通はよく似た安いギターを使います。ステージで叩きつけて壊すときだって、直前にアンプ裏に下がって取り替えるから「あれ、ギターが変わったぞ」とわかるくらい。どんなに情熱的に見えてもそこは冷静なもの。でもシェンカーはそうじゃない。
本当のところ何を考えているのかよくわからないのに、奏でるメロディは天才的なのが「神」と呼ばれる所以。
HR/HMにおけるリフの重要さを教えてくれたのもシェンカー。この時代の音楽のイントロの強さがそのまま曲に表れてますね。
サブスクなんてない時代だから、FMラジオでHR/HMの曲がかかる番組を多く聞くようになり、そこから流れてきて、一発で恋に落ちた曲がふたつ。
で、初めて買ったLP(アルバム)が、この曲が収められたゲイリー・ムーアの「大いなる野望」。
ここに挙げた二曲だけを比べてもヨーロッパのほうが好みだった気がするし、それまで好きだったレインボーやマイケル・シェンカーじゃなくて、どうしてゲイリー・ムーアを買ったのか不思議。
でも多分、曲の構成が完全に構築されていなくて「魂をぶつけて叫ぶような」理不尽な魅力に惹かれたのだと思います。このアルバムを聴き込んだら、この世界のことがもっとよくわかるようになるかもしれない、とか。高校生に特有の背伸びもあったのかな。
これA面はかなりポップで短い曲が多いのに、ラジオでどうしてこの曲を選んだのか、いま考えてもわからないです。けれども田舎に住んでいる高校生の未来をちょっと変えるくらいの出会いになりました。
いよいよベスト8
このペースで書いていくと「失われたときを求めて」みたいになってしまうので、少し急ぎます。高校を卒業してから15年くらいまではHR/HMを夢中になって聴いていたので、そこで出会った好きな曲ベスト8を。
あるときからすっぱり聞かなくなってしまって、ときどきその失われた時期にすごい名盤あったりして・・・と検索してみるけれど、HR/HMはピークを過ぎて衰退した音楽ジャンルだとされているようですね。
いま専門誌を見ても、まだ僕が知っている人が表紙やってるから、時が止まった音楽と言っていいのかも。
逆に考えれば、短い時期だったけれど、情熱とか、演奏テクニックへの追求とか、社会への不満とか、いろんなものがギュウっと凝縮された奇跡でした。
80'sと呼ばれる80年代ポップスと並んで、僕の世代の音楽。
ではベスト8を。
過去の名曲として、歴史を遡って聴いたものではこれがやっぱり究極。ツェッペリンのほうが音楽的にはすごいような気もするけれど、一途さというのか、これだぜっていう説得力があります。
観客を見ても、時代の空気が感じられるし、それぞれの演奏レベルが異常に高く、どうやったらこんな複雑な曲が作れて、演奏できたのか、初めて聴いたとき信じられなかった。いろんな曲をコラージュして作ったような。
メンバー募集とか見てバンドやってる人と知り合って、挨拶がわりに普段はどんな曲やってるんですかって聞いたとき、「チャイルド・イン・タイムとか・・・」と言われたら黙るしかない。
HR/HM知らない人でも、Xの「紅」は知っているはず。コントのネタになるくらい有名だから。
当時のXは「メタリカとハロウィンを足したような音楽を目指している」とインタビューで答えていたくらいで、メタリカの影響はすごく大きかったはず。ギターソロの前のハモリ最高。ロックで最高の瞬間のひとつ。静と動の鮮烈なコントラストこそがメタリカの特徴。
悪事に手を染めながら政治の世界で上り詰めていくアメリカのドラマがあって、メタリカのライブを見ていてこの曲が演奏されているとき電話がかかってきて、自分がヤバいことになっているのを知らされます。その場面を見ていて、こんな絶頂の瞬間にも電話に出なきゃいけないなら偉くならなくていいや、と思いました。
最近だと「ストレンジャー・シングス」で使われて話題になりましたね。ちょっとずつアップデートされているけれど、結成当時のコンセプトのまま、こんなに長く第一線で活躍し続けているバンド、他のジャンルでも珍しいのでは。
隠れメタラー・・・、かつてはそっち系の音楽に夢中になった時期があって、でもそこから離れてしまった人がいるとしましょう。ブーツも革ジャンもなしで外見から全くわからない。
まだ魂のどこかに情熱の炎が消えていないか、それを確かめる踏み絵のような曲です。このイントロを聴いて心が踊らなかったら、もうHR/HMの話はできないな。みんなのアンセム。
街にカボチャが並ぶ時期になると、必ず思うのは「マイケル・キスクは今でもちゃんと歌っているかな」ということ。絶頂期にバンドを辞めて、それぞれのキャリアが中途半端な形で萎んでいってしまいました。
ハロウイーンのこのアルバムは伝説的な存在。流れがあってドラマティックで、全ての曲のクオリティが高く、ものすごい名盤です。
1アーティスト1曲じゃなかったら、ベスト8はみんなこの人になっても不思議ないくらい好きだった、イングヴェイ・マルムスティーン。とくにソロになって最初の三枚は擦り切れるくらい聴きました。海賊盤もものすごい数を買った。
これは85年の日本公演だと思うけれど、前の曲「I'll see the light tonight」がちょっとだけ入っていて、ということはライブの二曲目です。そこで演奏する曲のギターソロが、クラシックみたいなキーボードとのユニゾン。あまりに異質。
分散和音と呼ばれる、和音をバラして順に弾いていくメロディはギターでは最も難しいフレーズなのに、音の粒が揃っていてしかもリズムはちゃんとロック。
たくさんのフォロアーが登場しては消えていって、残ったのはこの人だけだった理由がわかります。取ってつけたようなものではなく、曲のなかで輝くクラシカルなメロディを自然に作れた。しかもそれを歪みまくったロックギターの音色で奏でることができるなんて。
もっと速く弾くギタリストも、もっと難解なフレーズを奏でるギタリストもいるけれど、ここまで「ギターと仲良し」なのはインギーだけだと思います。
最初に書いた、同級生たちが演奏していた思い出の一曲。
音楽を趣味として聴くようになってから死んじゃって悲しかったアーティストはたくさんいます。デヴィッド・ボウイ、マイケル・ジャクソン、ジョン・レノン、プリンス・・・、HR/HMならこの人がいちばん。
この曲は発売当時から衝撃的だったけれど、エディがものすごくリズム感のいいギタリストで、しかも音色が最高で、ヴァン・ヘイレンというバンドがいかにすごかったかを実感できるようになったのは少し後になってから。
余談ですが「バック・トゥ・ザ・フューチャー」にヴァン・ヘイレンの名前が出てくるシーンがあって、すごくいいエピソードがあるので調べてみてください。
女性ボーカルが歌う切ないメロディは大好物。HR/HMとは親戚みたいなプログレでルネッサンスという素晴らしいバンドがあって、アニー・ハズラムの歌声が最高です。ポーティスヘッドも大好き。マッシブアタックとやったエリザベス・フレイジャーも最高だった。
もしエンヤがヘビーメタルのバンドに入ってくれたらな。作曲がシガーロスで、ボーカルがエンヤで、演奏がドリームシアターだったらいいな。
HR/HMの魅力のひとつに、ライブならではのアレンジもあるから、この曲だけライブバージョンでカッコいい映像を選びました。壮大さと、緊張と緩和、ためていたエモーションが解放される瞬間こそ、HR/HMの魅力。
転調と変拍子はHR/HMでは高得点を狙える規定演技みたいなもので、それも見事に楽曲に取り入れてます。
HR/HMの血を引いた現代のロックバンドを考えたとき、最初に思いつきました。
スリップノットやコーン、リンプビスキットなどよりも、彼らのファーストアルバムを聴いたときのほうがずっと衝撃はありました。
MUSEとかMogwaiも最高だけれど、ボーカルのトーンが懐かしさを感じて。
生で見たことがないけれど、活動停止する直前のライブなんかHR/HMのいちばんよかった時期のバンドみたい。パンク、ゴス、にジャンルされるはずだけれど、ドラマティックで情熱的で、曲の展開が凝っていて、演奏がエモーショナル。
マイケミを聴いていると、音楽をカテゴライズすることの無意味さを感じるのと同時に、でも一方で純血種としてのディープパープルみたいなバンドの崇高さについて思います。
惜しくもラインクインはしなかった、日本のHR/HMから三曲を。
ギタリストの橘高さんの存在もあって、この時期の筋肉少女帯は70年代から80年代のHMをオマージュした曲が多く、アルバム全て好きでしたが、とくにエンディングのギターソロがかっこいいこれを。
音が悪くて聞き取りづらいかもしれないですが、戦え、何を、人生を、という長い繰り返しになったときのコード進行が切なくて美しく、ギターソロに渡す瞬間だけ「人生を戦え〜」と言って、そのままチョーキングに繋がるところ大好き。
尾崎豊さんも高校時代にはデビューしていたけれど、僕らのアンセムは「十七歳の地図」ではなくこっち。
大人になってから立川に仕事で行って、早く着きすぎてマクドナルドに入って順番を待っていたら、有線からこの曲が流れてきて「遠いところに来たなぁ」と思いました。そういう曲。
このギタリストの石原"シャラ"壮一郎さんは、非常に多くの人たちからリスペクトされていて、歌うようにメロディを奏でるところがいいです。ものすごくテクニカルで真似できないっていうフレーズじゃないのに、なかなか同じようには弾けません。そもそも真似することに意味がない魅力があって。
日本のメタルを語るのに、ラウドネスもバウワウも入れなくて良いのか不安になるものの、ベタの魅力を感じるのに最高なので。
HMの曲の魅力を「痒いところをギリギリまで焦らして、もう我慢できないってところで掻いてくれるような音楽」と喩えた人がいて、まさにこういうこと。
デーモン閣下の歌のうまさも素晴らしく、ジョン・ウェットンを尊敬しているとインタビューで答えていたので、「スターレス」のオマージュかもしれないですね。
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