ゲノミクス×機械学習×オートメーション Zymergen #AI銘柄の目論見書vol.3
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目論見書分析シリーズについて
本シリーズは、起業家向けに海外DeepTech/AIスタートアップの上場目論見書を日本語で簡単にまとめるものになります。事業仮説を立てる際のご参考になれば幸いです。
1~2週間に1回更新予定です。しばらくはアメリカ、中国交互にまとめていきたいと思います。
(*本記事の画像はZymergen Form S-1またはZymergen HPからの引用です。それ以外の場合は各画像の下にそれぞれ記載しています。crunchbaseのリンクはこちら)
Zymergenについて
2013年1月1日に設立。従来化学工場で生産されていた様々な物質を、遺伝子を組み替えた微生物により生産する事業を展開しています。AIを活用した独自のバイオ技術と研究開発のオートメーション化により、低価格、短期間での開発・生産を目指しています。
創業者
PEで経験を積んだビジネスのプロ、元Amyrisの生物学、微生物工学における自動化の専門家からなるバランスの取れた素晴らしいチームであると思います。
Josh Hoffman(CEO, Co-Founder and Director )
2014年9月〜 CEO
2013年4月〜 取締役
2009年1月〜2013年4月 PEのNorcob Capital Management LLCのパートナー
2005年2月〜2008年12月 Rothschildのマーチャント・バンキング部門MD
イェール大学にて国際関係学修士号及びMPPMを取得カリフォルニア大学バークレー校学士号を取得。
カリフォルニア大学バークレー校で学士号を取得
Zach Serber, Ph.D.(Chief Science Officer, Co-Founder and Director )
2020年12月〜 取締役に再就任
2014年9月〜 最高科学責任者
2013年4月〜 2017年5月取締役
生体分子の発見と微生物工学の分野で17の査読付き出版物と複数の特許を保有。以前はAmyris, Inc.の生物学担当ディレクターを務めた。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校にて生物物理学の博士号を取得。 英国エジンバラ大学にて神経科学の理学修士号を取得
コロンビア大学にて生物物理学の学士号を取得
Jed Dean, Ph.D.(Co-Founder, VP of Operations and Engineering)
2014年9月〜 オペレーション・エンジニアリング担当副社長
2017年5月〜2020年12月 取締役
2008年3月〜2013年5月 Amyris, Inc.
2007年11月〜2008年3月 Stanford Genome Technology Center
微生物工学の自動化に関する数多くの特許を発明。ライフサイエンスの技術および自動化を開発に従事した経験を持つ。
スタンフォード大学で生化学の博士号を取得
パデュー大学で分子生物学の学士号を取得
クライアント
化学メーカーを中心に、国防高等研究計画局(DARPA)といった公的機関もクライアントとしています。
プロダクト
下記3領域にて事業を展開しています。
①エレクトロニクス
折りたたみの液晶画面に使用可能なポリイミドフィルムのシリーズ「Hyaline」を既に開発を完了しており、クライアントの製品認定プロセス終了後、販売開始の予定になっています。
②コンシューマーケア
天然素材由来の虫除け(2023年の発売を目指す)、UVカットの日焼け止めなどを開発中です。
③農業
肥料、農薬をパートナー企業と共同開発しています。
製品パイプライン
エレクトロニクス分野3種類、コンシューマーケア分野4種類、農業分野3種類の計10種類のプロダクトを現在開発しています。2022年に1つ、2023年に2つの新製品を発売することを目標としています。
開発・生産システム
ステップ1.製品設計
素材に必要な性能を、実現できる分子を特定する
ステップ2.微生物の作成
遺伝子組み換えにより目的の分子を生む微生物を作成する
ステップ3.生産拡大
微生物の最適化、生産プロセス全体の最適化を行う
ステップ1は約1〜2年、コストは約500万ドル
ステップ2は約1年、コストは約500万ドル
ステップ3は約3年、コストは約4,000万ドル
合計約5年と5,000万ドルと見積もられている。
これは従来の化学工業の半分の期間であり、費用も10分の1程度とされています。
生産工程の全体像
S-1掲載画像筆者訳
ステップ1:製品設計
1-1.生体分子の大規模なカタログ作成
生体分子のカタログは、目的とする分子(構造)と、それを生成するための酵素反応(経路)で構成されています。Zymergenは、現在約75,000(下記a,b)の生体分子のデータベースと、それらを活用するための独自システムを保有しています。データベースは公開データと独自のデータを組み合わせたもので、常にデータが蓄積され拡大しています。
独自データベース
a.構造と経路の両方を最初から正確に把握している生体分子:約1万個
b.構造は把握しているが経路が完全ではない生体分子:約6.5万個
(ステップ2にて経路を完成させることが可能)
c.構造を計算したものの完全な経路がわからない生体分子:8万個以上
d.経路は完成しているものの構造がわからない複雑な生体分子:100万個
1-2.膨大な生体分子のカタログから候補となる分子を検索
上記のデータは、データベースに格納され、「ZYNC」(下図)と呼ばれるGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)を介してアクセスされます。ZYNCは、化学者や材料科学者が、ブーリアンロジックを使用して分子群の中から化学的な部分構造や特性を検索することができる機能を備えています。
1-3.最も有望な候補分子の絞り込み
求められる特性を得るために、最大数百種類の配合をテストする。その際、機械学習モデルに基づき、目的の特性を付与する可能性が最も高い生体分子を優先順位付けし、効率的にテストを行う。このモデルは時間の経過とともに精度が向上することが見込まれる。
1-4.自動化された性能試験
選択した生体分子を製品に組み込み、実験を通じ性能を評価します。実験データはフィードバックされ、モデルと予測の質を向上させます。
ステップ2: 微生物の作成
2-1.in silico経路設計
(in silico:コンピュータを使ってゲノム情報や遺伝子産物の機能解析を行うバイオインフォマティクスのこと)
ZYNCを用いて各分子の経路(生体分子を作る酵素の一連の反応)を探索します。ZYNCは、経路の選択肢を提案し、経路ごとにスコアを算出します。酵素遺伝子情報が欠損している場合は、データベースを検索し、欠損している化学変化を触媒することが実験的に示されている酵素と近い酵素を提案します。
2-2.多くのバリエーションを構築し、最適な経路を選ぶ
in sillicoにより算出された初期の経路は、複数存在する経路のうちの1つに過ぎず、バリアント(同じ遺伝子の変種)含めどれが最も効果的であるかを予測することは困難です。Automated Pathway Explorer (APE)システムを利用し、多様な推奨候補経路を算出し、ロボティックオートメーション化された実験を何度も繰り返します。
2-3.適切なホストを選ぶ
生体分子を生産する微生物の最大1,000種類のバリエーションを構築し、最適な宿主微生物をロボティックオートメーション化された実験により特定します。Zymergenは、グラム陽性菌15種、グラム陰性菌6種、酵母4種、糸状菌4種など、すべての主要なクラスの微生物に対するエンジニアリングの経験を有しています。
2-4.酵素と経路の初期最適化
ホスト微生物と、候補となる経路の検証後、酵素の触媒性能を改善し商業的な基準(量産可能性、生産コスト)を満たすことができるようにします。
ステップ3: 生産拡大
アカデミアで最も頻繁に研究されているホスト微生物であっても、遺伝子の20%から35%の機能は明らかになっていません。工業的に重要なホスト微生物に至っては、遺伝子の機能の大部分が未だに明らかになっていません。そこで、Zymergenはゲノムのすべての部分を体系的に総当たりで編集し、実験します。
3-1.大規模なライブラリの生成
機械学習システム(Strain Brain)が、検討すべきゲノム編集選択肢を提案します。
3-2. 推奨ライブラリの構築
in sillicoの設計(上記3-1)では限界があり、実際に微生物を作成し、テストをする必要がります。ゲノム上の数百から数千の遺伝子の位置を調べるには非常にコストがかかるため、実験をオートメーション化し、大規模な作業を効率化するためのカスタムソフトウェアツールを独自開発しました。
3-3.微生物の改良をアセスメント
新しい微生物の製造と品質安定後、性能実験を行います。Zymergenのテストプラットフォームは非常に精密であり、小規模な実験により、微生物を量産した際の性能を予測することができます。(逆にこれができないとカタログスペックと量産した際のスペックのズレが非常に大きくなります)
この後、クライアントによる製品認定プロセス(通常6~18ヶ月)を経て製品が販売されます。
開発インフラ
S-1掲載画像筆者訳(一部簡易化)
Zymergenのバイオファクタリング・プラットフォームは、共通のインフラをベースにしたエンドtoエンドのソリューションになっています。プラットフォームは、製品の設計、微生物の作成、生産の拡大といった個別のアプリケーションのセットとして構築されています。そしてこれらのアプリケーションは、共通のインフラ上に構築されています。
UMDB
UMDB(Unified Metagenomics Database )は、2億以上の遺伝子を持つDNAのデジタルおよび物理的なコレクションであり、当社が2017年に買収したRadiant Genomics, Inc.のメタゲノム機能を拡張したものである。このデータベースは、一般に公開されている酵素情報だけでなく、Radiant社が最初に発見し、現在は当社が発見した酵素の両方を組み込んだ、豊富な酵素のレポジトリである。この種のものとしては最大級のコレクションであり、事業の進捗に伴い継続的に増加すると考えられる。機能情報を持たない酵素については、配列の類似性、ゲノム内の隣接遺伝子の同一性、その他の情報を用いて、酵素の機能の可能性を予測する。UMDBからの情報は、ZYNCで検索可能な分子の予測や、APE(上図参照)が経路を設計する際のデータソースとして活用されている。
RACとACS
RAC(Reconfigurable Automation Cart)システムは、ラボオートメーションの最先端システムである。RACはプロセスの品質、ターンアラウンドタイム、コストを改善する。RACは数時間で再構成できるため、高稼働率のオペレーションが可能になり、システムの拡張も容易で、新しい微生物や分子、機器にも対応可能。この再構成性により、科学者とオートメーションエンジニアは、設備投資や長い開発リードタイムなしに、新しいプロセス開発をシームレスに共同で行うことができる。
例えば2020年には、カメラやセンサー、RACのデジタル再構成機能を利用し、新しいラボ・プロトコルをRACシステム上にわずか6週間で実装した。(従来の方法では、これらの機器の統合には通常6ヶ月かかると言われている)RACを使用することで、プロセスのスループットが2倍になり、プロトコルに必要な労力が大幅に削減された。
ACS(Automation Control Software)はRACのためのカスタムソフトウェア・オーケストレーション層。ACSは、作業のスケジュールをダイナミックに最適化し、実行中のプロセスを継続的に監視、プロセスの開始やデータの取得のためにConstellation(ZymergenのMES(製造実行システム))と接続する。ACSのリキッドハンドリング(ピペットなどで検体や試料となる液体を決められた量出すこと)ミドルウェアは、科学者によるリキッドハンドリングプロトコルの迅速な定義のサポートや、チップやプレートなどの自動化された機器から消耗品に関するものまで幅広いサポートを行う。ACSのリキッドハンドリングミドルウェアは、スケジューリング等の柔軟性を高めるだけでなく、サプライチェーンの切り替え時間を数週間から数時間に短縮し、2020年のようにバイオテクノロジーのサプライチェーンにストレスがかかった場合でも、組織の回復力を高めることができる。自動化されたレコメンドシステムと予測モデルの精度は、稼働の度に絶えず向上し、バイオファクタリング・プラットフォームを強化している。
LIMS
ZymergenのLIMS(Laboratory Information Management System)はクラウドスケールのデータベースで、2014年から運用と拡張を行っている。LIMSは、ラボで生成された実験デザイン、機器の実行パラメータ、関連する環境条件とそのデータを取り込む。数年にわたり強化されてきたデータリポジトリにより、遺伝子型(genotype)と表現型(phenotype)の相関関係やラボプロセスのメタデータなど、非常に豊富なデータセットを用いた分析や機械学習システムの学習が可能となった。この独自のデータモート(競合が追いつけないポイント)は、日々、拡大している。
収益モデル
売上
売り上げ項目は以下の通りです
-製品売り上げ
-研究開発サービス
-共同研究開発
Zymergenの共同研究契約には、以下の中から1つまたは複数の契約が含まれています。
-実施される研究開発サービスに対する報酬
-契約に定められたマイルストーン達成時に受け取るマイルストーン報酬
-分子の商業化時のレベニューシェアまたはロイヤルティ報酬
(住友化学の場合は、上記以外に研究開発費を均等に負担。製品化した後の契約の握りについては不明)
知的財産
共同研究契約に以下のような条件のいずれかを盛り込まれています。
-新しい知的財産の共同所有
-Zymergenまたは共同研究者への知的財産の譲渡
-Zymergenまたは共同研究者への知的財産の独占的/非独占的ライセンス
-開発品のZymergenによる単独使用に関する制限(競合禁止や先買権など)
マーケット
Zymergenが参入しうるレガシーな業界が20あると考えています(下図参照)。それらの市場規模は少なくとも1兆2,000億ドルであり、最初に取り組む3つの産業(エレクトロニクス、コンシューマーケア、農業)の市場機会は約1,500億ドルであると推定しています。
Zymergenのビジネスは非常に多くの市場を対象とすることができるため非常に厳格なクライテリアを持って参入する市場を選択しています。
進出する市場の絞り込み方
①バイオベースの素材が差別化に繋がり優位性をもたらす分野
②魅力的なマージンが得られると思われる高価値分野
(隣接した領域で、過去の研究が活用できる分野への展開も含む)
③新製品を効率的に市場に投入できる産業(Zymergenのアプローチによりタイムラインの短縮が可能な場合、またはパートナーシップの活用により競合と比べ低コストで開発できる場合)
現時点で上記に当てはまり、取り組んでいるのはエレクトロニクス、コンシューマーケア、農業の3分野としています。
成長戦略
パートナー戦略
開発においてはパートナー企業との共同研究契約を締結し、開発費の共同負担、パートナー企業から市場ニーズについて情報提供を受けるなど、開発コストやマーケットフィットのリスクを最小化しています。
業務提携・M&A
Zymergenは生産工程全体のオートメーション化に注力し、最大の難関であった構造探索、経路探索技術は他社と連携またはM&Aにより獲得しました。
2016年3月 タンパク質設計技術を持つArzedaと業務提携
2018年1月 メタゲノム解析を手がけるRadiant Genomicsを買収
2020年3月 標的分子を検出するバイオセンサーに強みを持つEnEvolv社を買収
Launch Acceleration
Zymergenが通常提供する、酵素により(発酵により)生産された成分・製品を発売することは、製造コストを削減し、クライアントの満足度を高めるZymergenの重要な戦略要素です。一方、場合によっては(早期に市場を取りたい場合など)設計段階で特定した分子を用いて、発酵ではない方法で製造された製品を発売(ステップ2、ステップ3を踏まず、微生物を使用しない)することもあります。Zymergenはこの戦略を「Launch Acceleration」と呼んでおり、場合によっては、12〜24ヵ月早くローンチできることもあります。しかし、コストが高く利益を圧迫するため、Launch Accelerationで生産された分子や成分を12〜24ヵ月以内に通常の方法での製造に置き換えることができると考えられる場合にのみ、Launch Accelerationを使用することとしています。
財務と株価等
2020年は、総収入の約46%が北米(すべて米国)、約36%がアジア(すべて日本)、約18%が欧州からの収入となりました。
売上上位顧客
上位4顧客から売上げの78%を得ています。
(Ex. PLより概算し、2020にCustomer Aから 約$2Mの収入)
PL
現時点ではほとんどが研究開発、共同研究による売上のみですが、製品販売後は製品のレベニューシェアやロイヤリティ料が加わります。(単位:千米ドル)
株価推移
Speedaより筆者作成
上場時主要株主
過去資金調達
crunchbase より筆者作成
2021年4月22日SPACによりナスダック上場、約5億ドルを調達
($484,840,000ドルを15,640,000株×$31.00により募集)
2021年5月21日現在$35.08/株 時価総額$3,436M)
参考記事
以上Zymergenでした。
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