「バ美肉おじさん」を納得するのに必要だった、たったひとつの言葉
VRデバイスを買って以来様々な体験や学びがあったが、どうしてもわからないものが一つだけあった。「バーチャル美少女受肉おじさん」、通称「バ美肉おじさん」だ。
いわゆる「バーチャルYouTuber」は、演者がバーチャルキャラクターに扮して(生身を出さずに)YouTuberになるというコンセプト。この"バーチャルキャラクターに扮する"という部分にVRデバイス(Oculus RiftやVive)を使うことで、演者の身体や視覚をトレースしている。
演者とバーチャルキャラクターの性別は一致しているのが基本だ。
しかし「バ美肉おじさん」は性別が不一致。男性の演者が美少女キャラクターを演じるというもの。
ボイスレコーダーや発声トレーニングにより女声を出すこともあるが、男声のままで演じる場合も多い。その活動の模様はバーチャルYouTuberとしての動画配信や、バーチャル空間を介したチャットアプリ『VRChat』などで確認することができる。
……という理解はしている、が納得できてはいない。
美少女を演じるのはまだわかる。私自身もゲーム『モンスターハンター』シリーズを遊ぶ時などは迷わずプレイヤーキャラに女性を選択している。何十、何百時間と見続けるならごついおっさんより美少女の方が嬉しいからだ。
ただそこにはキャラクターへの感情移入は存在しない。
なぜ男性がバーチャル空間で女性を演じるのか、なぜ女性とわかっていてチヤホヤする人たちがいるのか。ここがわからないモヤモヤをこれまで抱えてきた。
そこに光を当てたのが、1月8日放送のEテレ『ねほりんぱほりん』だ。『ねほりんぱほりん』はモグラのぬいぐるみに扮した山里亮太をYOUを聞き手に、訳ありの一般人から話を引き出すトーク番組。この日の放送のテーマが「バ美肉おじさん」だった。
これまでで最も聞き馴染みのないテーマをどのような切り口で扱うのか?
気になって視聴したところ、「バ美肉おじさん」をはじめて聞くような視聴者にもわかるようとてもかみくだいた内容だった。この番組の説明を聞いて、ようやく私自身も納得できた。
というのも、番組に登場したバ美肉おじさんたち、中でもねむさんの言葉が強烈だったのだ。
ねむさん「人形浄瑠璃でも、人形のうしろに黒子のおじさんが見えてる。でも、見てる人が『いや、そこにおじさんいるじゃん』っていうのは野暮。
バ美肉も、みんなで美少女がいることにしようっていう共通認識をつくることでかわいいに参加できる」
「人形浄瑠璃」
この一言が全てを納得させてくれた。後ろに黒子がいるけどそれはそれ、見えないことにしよう。表に立っている美しい人形が全てじゃないか、ということだ。
故・冨田勲氏もかつて初音ミクに対してこう言っていた。
「日本では古来、文楽や人形浄瑠璃、からくり人形など人がこしらえたものに、操る人の魂を込めて表現してきた。その電子版」
「バ美肉おじさん」は人形浄瑠璃にも、初音ミクにも共通する概念だと知ることで、ようやく腑に落ちた。
「バ美肉おじさん」への理解が広まり、VRデバイスが普及すれば当たり前の概念になって、いつかはもっと平和な世界を実現するきっかけづくりになる、のかもしれない。
ねむさん「みんなが美少女になって、かわいいって言い合う世の中になったら世界を平和にできるのかなって。
首脳陣がもし美少女キャラだったら、話す内容もすごい変わると思うし、国どうしももっと仲よくできるかもしれないですよね」