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冬タイヤとおじさん

タイヤ屋さんにきている。
ここ5年私たちの冬の安全を一手に担ってくれた冬タイヤをこのタイミングで買い替え、脱着してもらうつもりで事前に予約していた。
さかのぼれば今年の春。
うららかな陽気の訪れとともに冬タイヤを外したその日、『この冬タイヤは今回が限界ですね、次の冬には買い替えを検討された方がよろしいかと』と、タイヤ屋のお兄さんからお達しを受けた。
私の実家は山の上でゴリゴリに凍る道を通らないとたどり着けないところにあるから、冬の時期は特に、読んで字のごとくタイヤは命なのだ。
夫は元々、リスクマネジメントの鬼のような人だから、買い替えには前のめりでGOサインを出していた。つまり、さまざまな要素が買い替えのタイミングを諸手を上げて賛成してくれていることになる。

そうは言っても、溝のすり減り具合やタイヤの固さなどは、素人の私にはさっぱりわからない。
自宅の倉庫から冬タイヤを、ふんぬ!×4本分、車の荷台に積み込みながら、首を傾げた。
これらは果たして本当にもうお役御免なのだろうか?
私にタイヤに関する知識がないばかりに、春先のお兄さんの言葉を丸呑みせざるを得なかったが、彼の言葉を信じるか信じないかは、もう少し検討の余地があるのではないか。
そもそも冬タイヤの値段は高い。
今年度、私は仕事を少しセーブした都合で、昨年度の収入の3分の2になった。正直、支出がかさむ月はドキドキする。それなのに税金は高い。
ドキドキせずに給料日前もしくは、ローン等各種引き落とし前を過ごすには。なるべく節約しなくてはならない。
だからといって、命と同義の冬タイヤ4本分をケチるのもまた違うと思うが、当の冬タイヤがまだご健在、現役バリバリだとしたら?

そんな淡い疑念を抱いて走らせた車を、タイヤ屋さんの駐車場におもむろに停め、入店してすぐさま、お店のおじさんに持ち込んだ冬タイヤの溝チェックをしてもらった。念のため、念のため。

おじさんの出した答えは驚くべきものだった。
『気をつけてもう1年はきますか?氷は危ないけど雪なら大丈夫。朝早くだとヤバイけど10時くらいに出かける感じならもう1年いけるよ。もったいないもんね』
私には即答しかねる難しい問いかけだった。
10時に出かける?雪なら大丈夫?
そして商売人にあるまじき、もったいないワードの出現に戸惑う私。
すかさず首をぶんぶん振って気がつく。
いや、こんなに親身になって溝チェックをしてくれるこのお方は商売人ではない。そう、職人なのだ。
そこまで確信して、仕事納めに勤しんでいるであろう夫に電話で相談。←ただただ迷惑
揺らいでいる胸の内と職人の意見を伝えた。

そこで返ってきた返答はこれまたシンプルだった。
『気をつけて乗る時点でスタッドレスの意味ないから、新しいもの購入でよろしく』
ブレない。淀みないこと川の如し、揺るがないこと山の如し。
夫のリスクマネジメントの高みを感じ、そっと頷く私。

電話を切り、おじさんに『購入します』と告げ、新しい冬タイヤを迎え入れることになった我が家の車。
おじさんは自分の助言がスルーされたことなど気に留めるそぶりをみじんもみせず、笑顔で快く作業に入った。
今回、私が得た教訓は【聞いてみなくちゃ分からない、しかし聞いてみても判断が難しいこともある】そういうことだ。
入店から着脱完了までしめて40分の早業。はっや!この記事を書き終わらないうちに出来上がり。(ただ文章書くの遅いだけ)
これでこの冬は安泰だ。
いや、それでも雪道ではいかなる時も気をつけなくてはならないということを夫には申し添えたいと思う。
そんな思いとともに謹んで深謝申し上げ店を後にしたのだった。

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