【論文レビュー】投球時のUCL損傷はシーズン前半に起こりやすい?
今日の記事は前回の記事で予告していた内容になります。
関連性もあると考えているものになりますので、興味のある方は前回の記事もどうぞ!
では今回紹介する論文になります。
Risk Stratification for Ulnar Collateral Ligament Injury in Major League Baseball Players: A Retrospective Study From 2007 to 2014
DeFroda SF, Kriz PK, Hall AM, Zurakowski D, Fadale PD. Risk Stratification for Ulnar Collateral Ligament Injury in Major League Baseball Players: A Retrospective Study From 2007 to 2014. Orthopaedic Journal of Sports Medicine. February 2016. doi:10.1177/2325967115627126
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/2325967115627126
2007~14年にかけてのMLB選手を対象としたUCL損傷のリスクを後ろ向き研究で調べた論文です。
後ろ向き研究って何?という人は下記の説明文を読んでもらえればだいぶわかるかと思います。
https://pharma-navi.bayer.jp/bayaspirin/imasara/medical-statistics/no1/a2
簡単に言うと過去の症例とその時に記録していた様々なデータを洗い出してみて、何が原因となってUCL損傷が起こっているのかあぶりだしてみようという感じです。
では、実際に何があぶりだされたのか見ていきたいと思います。
研究結果
この研究の結果、レギュラーシーズンを前半(4~6月)と後半(7~9月)に分けて比較したとき、UCL損傷130件中80件(約62%)がシーズン前半に起こっており、統計学的にも有意に損傷数が多かったことが明らかになりました。
また、UCL損傷群はコントロール(not損傷)群に比べて有意に球速が高かったことや、UCL損傷を起こした選手の56%がMLB選手になってから4シーズン以内という早い段階で損傷を起こしていたことがわかりました。
考察
この論文では仮説として、
①UCL損傷を起こした投手は受傷前にコントロール(非損傷)群に比べ、より高い球速で投球している。
②UCL損傷を起こした投手は、MLBキャリアのより早い段階でよりハード(球速の高さなど)に投球を行い、受傷している。
としており、本研究では特に仮説①の部分を裏付ける結果が明らかになりました。
これはバイオメカニクス的な研究でも多数裏付けがある通り、球速の高さがUCL損傷を引き起こす肘の負荷(トルク)を上昇させることがわかってきています。
また、本研究で最もユニークな結果として、シーズン前半にUCL損傷が多く起こっていたことがわかりました。
この論文の中ではこの結果の考察として、以下のような可能性を挙げています。
①UCL損傷はイニング数や登板回数の疲労よりもシーズン開始時のコンディションやロースター枠を獲得するための競争が影響している。
②シーズン序盤に部分断裂や不全断裂として明確になっていないUCL損傷が現れる(診断される)。
③オフシーズンの投球計画の厳しさ(ウインターリーグの参加など?)が問題になっている可能性。
④シーズン序盤に肘に痛みを抱えた場合、パフォーマンスや症状のさらなる悪化を恐れて予防的に早めにリタイアしている可能性。
しかし、これらはあまり裏付けもされておらず、少し論理の飛躍があるように感じました。
ここからは個人的な見解になりますが、シーズン序盤にUCL損傷の多い理由として、このnoteの初めにも紹介した研究報告であった、シーズン中のUCLの様態変化が関わっている可能性があるのではないか?と考えています。
この研究報告では、MLB投手はシーズン中にUCLが厚くなり、オフシーズンに薄くなっていたと報告されていました。
先ほど紹介しているnoteでは、このシーズン中のUCLの様態変化をストレス適応によるものではないかと仮説を立てています。
仮にこれが正しかった場合、本研究の考察とは真逆にオフシーズン中の投球数の少なさによってUCLが瘦せてしまい(元に戻る)、ストレス適応がまだ完了していないシーズン序盤に大きな負荷をかけることによって、UCL損傷が発生しやすくなっている可能性があります。
これを防ぐ方法としては、以下のような方法が考えられます。
①オフシーズンからオンシーズンの時期に急にストレスを掛け過ぎない(階段を踏むように球速や投球数、登板回数を増やしていく)。
②オフシーズンも適度に投球を行い、ストレスを掛けることでUCLが元に戻らない(瘦せ細らない)ようにする。
ただ、先ほども言った通り、これはあくまで私の仮説にすぎないので、今後何かしらの形で検証されない限りは、あくまで仮説止まりであることをご承知の上、現場の実践・指導などに生かしてくだい。
まとめ
MLBで2007~2014年にUCL損傷した投手のデータから以下のことが明らかになった。
①球速の速い投手の損傷が多い
②キャリアの若い段階での損傷が多い
③シーズン前半(4~7月)のUCL損傷が多い
上記にあてはまる投手はUCL損傷を起こしやすいことを踏まえたうえで、投手の育成や指導を行う事が重要。
※少しでも投球時に体に異常を感じたら、一度お近くのスポーツ整形外科等で診察してもらうことをお勧めします。
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