【論文レビュー】投球によるUCL損傷の危険因子
はじめまして!とある大学院で投球傷害の研究をしているユキノリと申します。ここでは自分が読んでいる論文のレビューなどを行い、それが野球をしている誰かの役に少しでも立てばと思い書き始めました。早速ですが論文を紹介していきたいと思います。
Risk factors for ulnar collateral ligament injury in professional and amateur baseball players a systematic review with meta-analysis https://www.jshoulderelbow.org/article/S1058-2746(18)30613-X/fulltext
投球傷害でも特にUCL損傷(トミージョン手術の原因として有名な)を研究したいと思っていた私が大学院に入って初めて読み込んでレビューをした論文になります。
この論文はメタアナリシス(システマティックレビュー)と呼ばれる、現在世の中にある論文をあるテーマに沿って全て抽出し、それを比較検討したものになります。この論文はもちろん、投球時のUCL損傷の研究ですね。
これはDuke大学のReimanらが2018年にまとめた論文です。この論文では13の論文が抽出され、その論文の内容をエビデンス(根拠)の強さ順に並べています。また、相反した研究結果もあり、それも明記しています。まとめた結果をTable2に示してありましたので翻訳したものが下のpdfデータになります。
エビデンスが弱いものに関しては、現時点ではあまり参考になりませんので頭の片隅に置いておく程度にとどめていただくのが良いと思います。この論文で最も強調しているのが、「非投球側の肩の内旋可動域が大きかった選手がUCL損傷を起こしやすかった。」という点です。
これに関しては、個人的にも衝撃だったとともに今もどう解釈してよいか悩んでいますが、非投球側の可動域であることから元々UCL損傷を起こしやすい素養を持った選手がいるというのが、私の現時点での解釈です。
では、非投球側の肩の内旋可動域が大きくなる素養とは何か?
これに関しては、中等度のエビデンスにもある上腕骨後捻角の影響が考えられます。
上腕骨後捻角とは上腕骨が捻られている角度で、人間が進化の過程で四足歩行から二足歩行になった時に自然と起こったと考えられています(ゆえに股関節では逆に前捻角というものがあります)。また、投球への適応で投球側の上腕骨後捻角が増大するという報告がたくさんあります。
つまり、もともと後捻角の少ない人はそれだけ投球時に肘に掛かる負担が大きいと考えられます。
また、肩の内旋可動域に関しては肩の関節(肩甲上腕関節)だけでなく、肩甲帯全体の可動域が関わっているため、これらの影響も無視できないと考えています。肩だけでなく胸回り全ての柔軟性が大事だと言われている所以ですね。
そのほか、球速に関しては全体的に速いことがUCL損傷のリスクとなっています。やはり速い球速はそれだけ肘にもダメージを与える結果となるのかもしれません。そういった意味で話題の大船渡高校の佐々木君の登板回避は大英断だったと考えています。
以上のように、やはり人には個性というものがあり怪我を起こしやすい人がいるのが現実です。故に球数などに関しても「誰々は何百球投げられたのに、あいつはなんでそれだけの球数で怪我するんだ?」みたいなことは軽率に言ってはいけないのです。
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