机バーン!!ってドラマだけのお話じゃなかったのね。まさか自分がソレやるとはね。

以前、仕事で付き合いのあったN出版社側の上長にぶち切れて机をバーーーンって両手で叩いて会議室を出たことがあります。女性のキャリアに特化した広告特集を担当していた頃の話になります。(←外注ライターが失踪して私が想像で原稿書いたのと同じ媒体。)

いつもの担当はかなりやり手なダンディS氏。(※その後N出版を退職し、某有名ちょい悪おっさん雑誌Gの編集長を経て、現在は大手A出版で某媒体の編集長として腕を振るっている方です。)

ある日その広告特集で、大手企業の管理職の女性を取材することになりました。でも、その日はS氏が別件の取材で同席できないと言うのです。まあS氏いなくても大丈夫だよね。つーか、いない方が自由だ! なんて言いながら入社数ヶ月の新人の後輩を連れて取材に向かいました。その後輩は一流私大文学部卒の書物オタク女子。以前から彼女の着目点や落としどころ、言葉の選び方にはキラリと光るセンスと面白さがあったので「記事を書かせたら絶対伸びるわ」と思っていたのです。その日は、そんな彼女を記者デビューをさせようと思って連れて行ったわけです。

そしたらなぜか現場には、S氏の上司のM氏が現場にいました。このM氏、責任担当者であるにも関わらず現場にほぼ来ないんですが、なぜか来ていました。

M氏「今日さー、やる事ないからちょっと来てみたんだー」

「ふうん」て感じでしたね。と言うのも、以前からM氏に対しては不信感を抱いておりまして。普段取材に顔なんて出さないのに、芸能人や文化人の取材だと絶対来るし、有名レストラン取材とかも絶対来るし、フランスとか北海道出張とかにもわざわざ絶対来るし、名刺にはなぜか「ワインソムリエ」という肩書きも入っているし。※社内では「M」と呼び捨て、あるいは「ソムリエ」と呼ばれていました。

でその日は取材対象者の女性が美人さんで有名だったわけです。この瞬間、私の中でM氏は ”ソムリエでミーハーな男” から ”ソムリエでミーハーなエロい男” に昇格しました。

取材が始まり、後輩はド緊張しつつ、たまに混乱しつつも、頑張って取材を完遂しました。もちろん私もフォローを入れるので聞くべきことはきっちり押さえ、私的に取材は無事終わったのです。

しかし、取材対象者と笑顔でサヨナラした後、M氏がニヤニヤしながら一言発しました(黙っててもにやついてる顔)。

「本当に大丈夫?今の取材見てたら不安しかないなあ(ニヤニヤ)」

と言いました。私は内心「ミーハーソムリエ、ニヤニヤニヤニヤすんな」と思いましたが、大人ですしバカを相手にするのは自分の時間をドブに捨てるようなものなのでクールに「大丈夫です。では失礼しますぅ」と言って帰ろうとしました。が、畳み掛けるようにさらに一言。

「だって素人じゃん、取材の仕方が(ニヤニヤ)」

はっはっは。何を言ってるんだこのソムリエ。今日が後輩の初取材だっつったろ覚えてねえのか? こいつには人材を育てるという広い心はないのか? それとも血液が赤ワインで出来てるから万年酩酊状態か?と呆れました。

「さっきもお伝えしましたけど今日初取材ですからねー。でも項目はすべて取材できましたのでご安心ください」

それでも引き下がりません。

「その子、降ろしてくんない?任せられないよ。引き続き鬼龍院さんでやってよ。それとも君、辞めるの?引き継ぎ?(ニヤニヤ)」

後輩が涙を目に溜めていました。それを見て頭に血が上がった私が出た行動が、M氏の机の前まで行って両手を全力で振り下ろした ”机バーーーーーン” です。

「完っっっっ璧に仕上げてお出ししますからご安心を。失礼しゃっす。」

と言い放ちついでにドアもバーーーーンってやって会議室を出ました。

本当は「普段ロクに顔も出さないし作業にも一切関与してないくせに何えらそーに言ってんだバカ!お前に報告するとややこしくなるからダンマリ決め込んでっけどコッチはもっともっとあり得ないくらいピンチパンチポンチなひっどい現場何度も何度も乗り越えてきてんだよ!人選したヤツが逮捕されたり想像で原稿書いたりとかな(涙)!フランス出張なんか行かなくていいから日常のしみじみした取材に顔出して見ろや! ク・ソ・ム・リ・エ !!」と言いたかった。でも我慢した。

そしてエレベーターでは後輩はオロオロして号泣謝罪してくるし、ビルを出ても私は興奮覚めやらずガニ股歩きだし、端から見たら相当な危険人物だったと思われます。

とりあえず、そんなこんなで後輩は次の現場があったのでそこでバイバイし、私はあらぶる気持ちをおさめるために青山界隈を散歩しつつオフィスに戻ろうとしました。そして歩いている内にだんだん、

「私、やばいことしちゃったんじゃね?」

という気持ちがふつふつと……。いわゆる死亡フラグです。これはどうにかなかったことにできないかな? 証拠隠滅を図るためM氏に土下座でもしてこようかな? とも思いましたが、無駄にプライドが許さず踵を返すことができずにそのままオフィスに戻りました。

青ざめた顔のままデスクに座り途方にくれていました。耳が遠くなっていましたね。みんなの雑談も聞こえてこない。

「もうクビになっても仕方ない。大きなレギュラーを飛ばしてしまった。社長に報告しなければ」

と覚悟を決めて社長に報告しました。

私「社長、実は私、クビになりそうなことをやっちゃったんですけど……」

社長「えーー! なになにー!? Sとヤっちゃったー!?」

この期に及んでも社長は安定のエロネタです。

私「いえ、そうじゃなくて……。でもヤッたと言えばヤッてしまったというか……。しかもSではなくMと……。つまりMにぶち切れてしまいました。」

と伝え、机バーーーーーンをやってしまった事の顛末を報告しました。

社長「ええええ!? なにそれ!! Mのクセにムカつくなあ!! 」

私「え? そっち?」

社長「机バーーーンじゃなくて股間バーーーンってやってくればよかったのに!!」

と。……驚きましたね。さすがの社長も今回ばかりは私を怒ると思ったのに。あんな大型レギュラー飛んだらかなりの損害なのに。と、きょとんとしている私に、

社長「でも鬼龍院、俺、Mに謝ってもいい? お前のやったことは間違ってないし、もちろん心の中では謝ってないよ。でも俺、お金欲しいからさ〜(ニコッ)」

と。私は泣きましたね。緊張の糸が切れたのと、社長のエロくてふざけたその懐の深さに。イケメンだったら惚れてたなあ……。

で、その後社長がM氏に電話して朗らかに謝罪し、一大事にならずそのまま仕事も継続することになりました。そしてその後、いつもの担当S氏にも「こないだMさんとこんなことがありまして、私、机バーーーンして帰っちゃって。ほんとすみませんでした」と謝りました。そしたらS氏が「大丈夫だよ。だって僕、あの人カウントしてないから(笑)」と大らかな返しをくれたのを覚えています。

今の私ならきっと「ですよね〜、不安しか無いですよね〜! ほんますんまそん!」てな感じで笑いに走る事もできますが、当時の私は無駄にプライドが高かったので出来ませんでした。

でもそれも、今となっては良い想い出。本当に皆様あっての私です。

その後、何かあるごとに社長と私の間で

社長「おーーい女子達ぃ〜、クライアントに頭に来たりエロい事されそうになったら鬼龍院みたいに股間バーーーンってやって帰ってきていいからなぁー(笑)」

私「してねえし」

というユーモラスなやりとりがしばらく行われましたとさ。(完)

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