タスクのない毎日を過ごす

ニュージーランドに来て、ちょうど一週間が経った。

この一週間のうち(正確には最初の3、4日のうち)にいろんなことがあった。

・3ヶ月ぶりにクライストチャーチで彼と再会した。3ヶ月ぶりに恋人に会うというのに、3日風呂に入っていない、髪も髭も伸ばしっぱなしの状態で現れた。服は2週間洗っていないらしく、ちょっと臭かった。宿に着くなりシャワーを浴びせ、ようやく「久しぶり!」のハグをできた。

・クライストチャーチの空港に降り立ったあとその場で適当にネットで見つけて泊まった宿が居心地が良かったので、翌日も延泊しようとしたが、「今日は空きがない」と言われた。「この後どうする?」と彼に聞いたら、「さっき立ち寄った美術館で、謎の言葉を発する顔型の作品(言葉で書くと意味がわからなすぎる、想像してください)が最初に発した言葉が『Rush!』だったので、もしかしたら次の目的地に急いだ方がいいのかもしれない」と大真面目な顔で答えたので、ブレナムというワインの生産が盛んな場所へ移動することにした。

・「Rush!」を信じて移動することを決めたのが昼頃だったので、そこから4時間弱運転しないと到着しない次の目的地には、19時前ごろに到着。目星をつけていたバッパー(BackPacker)のオフィスには誰もおらず、「そうじゃん、こっちの人は夕方以降仕事しないじゃん…」という初歩的なミスに気づいた。とりあえず近くの他のホステルやバッパーを探したけど、全然見つからず「終わった」と思った。

・「とりあえず落ち着いて飯でも食うか」と何故かこの状態で落ち着いた。日本食レストランで親子丼と天ぷらそばとビールを頼んだ。

・ギリギリAirbnbで見つけた宿(cityから車で30分)から返事が来たので、宿泊できることになった。危ない、セーフ。別に我らのコンディションとこの国の現在の気候(真夏)的には外で野宿でも全然良いんだけど、この国は野宿に厳しい。2日前、車中泊でその辺のビーチに寝ていた彼は、警察に起こされ罰金を取られかけた。4万の罰金を車中泊で取られるぐらいなら、4万の宿に泊まりたい。

・翌日、午前10時ごろを目がけて先述のバッパーに行った。オフィスに人がいなかったが、書いてある電話番号に連絡したら、すぐに来てくれた。
でも、「この宿はfullだよ!pickingの仕事もwaiting listに40人以上いるし、no chanceだよ!!君たち、too lateだよ!!」と宿のおばさんに言われた。またもや、終わった・・と思った。(毎度行き当たりばったりがすぎる)

・でも、本当に本当にこの宿のおばさん(Anja)が優しくて、「うーーーん、、なんか君たちのためにhelpできることあるかな、let me think、、、」と思案した後、「オッケー、とりあえず寝るところは、普段貸し出してない部屋だけど、特別に提供してあげる!」「あと、トマト農園の仕事がもしかしたらあるかもしれない!トマト農園は超暑いししんどいけど、そこのオーナーは優しくて、たまにアイスをくれたりする!行ってみな!」と住所を教えてくれた。アイスだけで真夏のビニールハウスを乗り切れる気はしないが、仕事は欲しいのでとりあえず行ってみる。

・トマト農園に行ったら、ピッキングの仕事ではなく、トマトを箱に入れて運ぶ仕事のようだった。「日本で何の仕事をしてたの?」と聞かれて、咄嗟に「会社員」と答えてしまったら、「あ〜、じゃあ難しいと思うワ!」と言われた。確かに、めっちゃ腰にきそうな仕事だった。でも、もうちょいパッションを見せながら経歴にも多少の嘘をつけば良かった。多分、ワーホリが過去一番レベルで増えているこの状況で、ファームジョブをゲットしたいジャパニーズ女が「会社員やってた」じゃ、誰も雇ってくれないと思う。

・「トマトは無理だけど、チェリーの仕事が空いているかも。行ってみて」と言われ、そのままチェリーファームに移動すると、堅物おじいがいた。チェリーの収穫の時期はちょうど終わったので、今は何もなっていない木が並んでいて、剪定の仕事ならあるみたい。5分くらい堅物おじいが剪定の仕事を見せてくれて、「どう?できる?」と聞かれ、「うん!やりたい!」と答えたら、「オッケー、じゃあ明日7時にここに来て!」と言われた。「明日から働けるの!?!?でかい!!!」と、二人で浮かれた。

・浮かれたまま宿に帰ってAnjaにお礼を言い、その場で1週間分の宿代を支払った。先述の通り「Fullだよ!」と言われてメインの宿泊棟には泊まれなかったが、週に+10ドル(今のレートだと900円くらい)を払ったら隣の家(普段は提供してないらしい)に宿泊させてくれるとのことで、ここを家とすることに決めた。実際、バッパーで2段ベット4人部屋とかより、2人だけのツインの部屋の方が超ありがたいので、それを+10ドル/週で手に入れられたのは嬉しい。むしろこっちの方が良かった。ラッキー!

・浮かれ状態は続き、「7-15時の仕事なら、夜に週2-3でレストランとかで働けばダブルワークでめっちゃ儲かるかもね!」「ほぼ家みたいな宿手に入れて、家賃も6万くらいだし、超順調じゃん!!」などと話しながら、”景気づけ”でワインをめちゃくちゃ飲んだ。最初ちょっとセーブ気味に飲んでたけど、途中でドイツ人二人組に話しかけられて盛り上がったのと、何か彼らすごい親日家で日本を褒められたのが嬉しくて、気づいたらめっちゃ飲んでた。超気分良かった。

・そして、次の日、初出勤。いつもはギリギリ遅刻癖しかない私も早めに起きて準備して、久々の体力仕事だし、と気合い入れてランチも用意。やる気満々で向かった。朝職場に行くと、3日前から働いているというチェコ人の青年が同僚としていた。私が2.3日前にニュージーランドに降り立ったことを伝えると、「Wow! straight to work!」と言われ、「でしょ〜〜〜?(ドヤ顔)」と答えた。

・クビを宣告されたのは、仕事が始まって多分2-3時間くらい。早かった。straight to get fired。
最初は、彼に「彼女は背が小さくて届かない場所が多すぎるし、剪定の仕事は難しいと思う。鼻の調子も悪そうだけど、ブレナムはアレルギーの人にとっては辛い場所だから、もはやこの場所を出た方が良いかもしれない。君一人だったら雇えるけど、どうする?」と話していたらしい。私はちょっと遠くで仕事をしていたけど、たまに拾える単語と話しているリズム感とかで「ああ、クビ宣告ぽいな」と何となく勘付いてた。

・私は日本の仕事を終えてから、ほぼ休むことなく様々な手続きと引越しを超スピードで行い、すぐにこちらに来たので、「まあちょっとくらい休んだ方が良いよな」「まだ有休消化中だし」などと言い聞かせ、彼一人で働くことを提案した。1日で私は無職になった。

そんなこんなで、私は10年ぶりくらいのニートを過ごしている。この宿のオーナーAnjaと宿泊者たちはとっても優しくて、最速失業者となった私にいろんな提案をしてくれるし、力になってくれようとする。まじで優しい。Anjaは早くもブレナムの母。昨日ここに来たインド人は、3年くらい同じワイン農園で出稼ぎしてるらしく、(インドはワーホリビザを取れないらしく、ワークビザで9ヶ月NZ、3ヶ月母国みたいな生活を続けてるらしい。今シーズン初日が昨日だったもよう)「僕はボスとも仲良いし、明日君が働けないか聞いてみてあげる」と言ってくれた。「なんて優しいの、本当にありがとう、、」と伝えたら、「だって、君は今年僕がこっちに来て初めて会った人だからね!」と言ってグータッチしてくれた。熱くてスウィートな男。サイコーー

で、ここからが書きたかったこと。10年ぶりのニートに焦ることはあるんだけど、今私は”タスクのない毎日”を過ごしていて、とても気持ちがいい。
日本での仕事柄、「完全に終わり!」という感覚が訪れることはなかった。1つの仕事が終わっても別の仕事は動いているし、1つ終わったらまた次が始まる。案件が落ち着いている時にやらなければいけない別タスクもあるし、Slackで保存しておいた「いつか読みたい記事や資料」を読める日はなかなか来なかった。常に「何かに追われている」感覚があり、暇になると「この時間にやらなければいけないことは何だっけ」と無意識に探していた。
それは、仕事以外でもそうだったかもしれない。やりたいこと、会いたい人、未来のためにやっておきたいこと、そもそも毎日汚れている部屋、、、土日の時間でも常にタスクは山積みだった。(タスクを放っておいて会いたい人に会ったり、飲みたいときに飲んだりしている事実も含めて、タスクがなくなることはなかった)

今も、まだ初心者ニートなので、暇になると「あれ、出国前に片付けられてないことあったな」とか、「今ニートのうちにやっておくことって何だっけ」とか考えてしまうのだけど、とりあえずシャワーを浴びて、洗濯して、ランニングして、ご飯をゆっくり作って、本を読んで、、、みたいなことをするだけで良いこの時間が、最高に幸せなのである。
何より、そういう時間が余る毎日の中で、自分が何にアンテナを立てて、何に心が動くのかを知れるのが嬉しい。

物価の高いこの国で、お得な買い物をして美味しい料理が作れたら嬉しいし、散歩をしていて素敵なパン屋さんを見つけるのも嬉しい。ランニング中に振り返ったら山脈が見えて「うわあ、全然違う国に住んでいるんだ」って感じるのも楽しい。

私と違って仕事はあるものの、15時には終わるので同じく時間がある彼は、よく英語のニュース記事を読んでいる。彼は、暗記力があまりなく、要領が良い方でもないので「勉強ができる」タイプとは程遠い(というか学校の勉強ベースでいうならば、おばか)なのだが、知的好奇心が旺盛で、私の知らないことをたくさん知っている。英語の勉強も兼ねてニュースを読んでいるらしいが、「死んだ蛛を操る菌が見つかったらしい!」とか、「地中海の真下で新しい素粒子が見つかったらしい!」とか、独特なチョイスの気になったニュースを教えてくれる。再会してすぐの時には、「インド人てめちゃくちゃカレーを食べるのに歯が白いじゃん?俺、気づいちゃったけど、多分歯磨き粉が相当良いやつなんだと思うんだよね。それで試しにインド人がいっぱいいるお店に行ってみたんだけど、歯ブラシグッズがいっぱいあったの。あれ、奴らが隠してるけど相当良いものだと思う。俺はあれを仕入れて日本で歯ブラシ王になるんだ!決めた!!」と言っていた。彼の頭の中には毎日面白いニュースたちが現れて、それを聞くのも楽しい。

休みの日はカフェに行ってから図書館に行くのが定番なのだけれど、今日は図書館に向かう道の小川で、鴨の生活について想像して話し合っていた。
日本にいる時から、忙しい日々の中でも彼のユーモアに触れては楽しい気分になっていたのだけれど、このニート生活の中ではそんな会話ややり取りの時間が増えて、これも嬉しい産物だったりする。

この貴重なニート時間(だと信じたい、さすがにそう遠くない未来に仕事はしたい)で感じることを大切にしていきたい。
最速失業者として少しの焦りは感じながらも、一方で、とても充実したニュージー生活の始まりなのでした。


おわり。

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