おそろしけれど、我が作品を見せんと思う也
「ナルン・トーア物語」〜チェイカ〜
チェイカは、機体中央部に小型のジェットエンジンが装備されており、離陸時や加速時にその推進力が使われる。一流の風使いにしか乗りこなすことはできないその機体をたくみに操るファルは空を飛んでいた。機体は全長約1.5m、全幅約5m、手すりも含めた全高は約1mほどである。重量は12kg。機体中央部上面には逆U字型の手すりが2つ付いており、1本のベルトが2つの手すりを繋ぐように結ばれている。
ファルはその機体の破片を、エレンの恵まれた知恵とその優れた空間を読み解く能力で取り戻し、自ら機体を戻す作業を数時間行った後でエレンに別れを告げ空に浮かんだ。
彼の目的は何であったのか、それは誠実なるものでありながら人間の無知なる愚かさからも由来していた。
古代エルフの史学書を何らかの形で手にした彼は、真実のエルフの存在意義を知っていた。一目見たかったのだ。それが愚かなることは彼には分っていたが、知的好奇心には叶わなかった。
それでさえ愚かなることなのに、彼は恋という罪を犯してしまったのだ。彼はその方向感覚を司りながら己を醜いものだとみなして自責の念を負っていた。
彼は彼女から植えられた罪の意識を拭いながら走行せざる終えなかった。だが疑問が別にしてあった。それは史学書とは別に彼が参照していたエルフの聖書に書かれた「悪を知るものこそ罪なのである」という一文にあった。
「悪を知る者?」
彼は考えることを停止することができなかった。悪を知る者とはまさしく彼女自身なのではないかと。そして想定した。
「彼女、いや尊とうとしエレンこそ。伝説の神の血を宿し人なのではないのか」
エレンは罪と聖を共に背負った子なのではないかと、彼は仮説を立てていた。ならばエレンはなんて悲劇の結晶なのか。彼女こそ憐れむべき人ではないか。
そして彼は自責の念を再び起こした。
「僕はなんて愚かなことをしたのだろう」
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