生まれて初めて、スポーツの試合を観て泣いた

 生まれて初めて、スポーツの試合を観て泣いた。

 第17回東日本カバディ選手権、男子決勝戦。勝ち上がって来たのはAKSとBabylon Breakers。Babylon Breakersは東日本大会で優勝経験を持ち、対するAKSも公式戦決勝の常連チーム。共に強豪として知られる2チームだった。
 やや押されていたかに見えたBabylon Breakersが追い上げ、同点につける。そして迎えた最終局面。攻撃はAKS、守備はBabylon Breakers。しかもAKSは、絶対に点を動かさなければ失点となるDo or Die レイド。まさしく究極の状況下で、どちらが勝ってもおかしくなかった。このターンを制したチームが、今年の東日本大会の王者となる。

 私は観客席で、Babylon Breakersを応援していた。祈るような気持ちでコートを見つめ、点が入るたびに力の限り拍手をした。優勝して欲しい。ただそれだけだった。会場が揺れるたびに、1点が入るたびに、心臓が跳ね上がった。

 果たして、勝利を掴んだのはAKSだった。強靱なBabylon Breakersの守備を突破したAKSの最後の帰陣。自陣へ向けて伸ばされた指先が美しくて、力強くて。指先や爪先のわずか数センチが勝敗を分けるスポーツである、とてもカバディらしい決着だった。

 勝負が決まった瞬間、客席で泣き崩れた。両チーム共に、誰が欠けても成り立たなかったであろう、チームのメンバーひとりひとりの高い技術。それらが完璧に噛み合った、寸分の狂いなく組み立てられた連携。最後までどちらが勝つかわからない展開。本当に素晴らしい試合だった。試合の素晴らしさに感動した、そういう涙でもあったんだと思う。

 でもそれ以上に、苦しかった。ただ好きなチームに勝って欲しかった。それだけだった。

 Babylon Breakersを知ったのは2年前の東日本大会。Babylon Breakersはその大会が公式戦初出場だった。もともと別のチームで活躍していた選手が参加していて、試合を観る前から気になっているチームではあった。
 カバディは大会プログラムに、各チームが書いた自分のチームの紹介文が必ず掲載されている。真面目だったり面白方面に振り切っているチームもあったりとチームごとの特色が現れていて毎回それを読むのを楽しみにしているのだが、Babylon Breakersの紹介文が目に留まった。

初めまして!
新チームBabylon Breakers(バビロン ブレイカーズ)です!
「いつもあそこが優勝するよね…」
その雰囲気をぶっ壊したいっ!!
優勝目指して頑張ります!!

そう書かれていた。

 驚いたのは、その言葉通りに本当に初出場の東日本大会で優勝したことだ。しかも当時日本カバディ界で「絶対王者」だった強豪・Buddhaを倒しての優勝。Buddhaは私が初めて生でカバディを観た大会でも圧倒的なオーラを放っていて、「このチームが負けるところが想像できない」と思えるほどのチームだったのだ。
 チーム名の「Babylon Breakers」が、王者を倒すという意味を込めて名付けられたものだという。その名に違わず、本当に、王者を倒した。
 Babylon Breakersの初陣での優勝は劇的で鮮烈で、その勝利が目に焼き付いて、忘れられなくて、それがきっかけでこのチームを応援するようになった。公式戦に、それに関東カバディリーグが始まったこともあって、それから何度も試合を観た。試合の流れを作り出す圧巻の攻撃も、冷静な対応力と粘り強さを兼ね備えた守備も、得点差を覆せる総合力の高さも、チーム全体の熱さも、全部が大好きなチームになった。

 それから2年が経った、今年の東日本大会。泣いた。手の震えが止まらなかった。今までで一番、全身で観戦した試合だった。感動と苦しさと、それ以上に、涙が止まらなくなるほど応援ができるチームに出会えたことへの感謝で胸がいっぱいになって、感情があふれて止まらなくなった。あの日会場で流した涙は、そういうものだった。

 スポーツ観戦を重ねるということは、自分の中に、自分だけの物語を織っていくことだと思う。試合を観ている「今、この一瞬」を横糸に、試合にまるわる記憶の蓄積を縦糸にして、物語を少しずつ織っていく。好きなチームや選手ができると、織られた物語が、そのチームや選手の色に染まっていく。世界には数え切れないほどの種目があって、それぞれの種目に、チームに、選手に、ファンがいる。そのひとりひとりがそれぞれの物語を今も織っているのだと思うと、果てしない気持ちになるし、なんだか、この世界が愛おしく感じる。

 この人に、このチームに勝って欲しい。そんな感情を抱いた瞬間から、スポーツ観戦は趣味から夢になる。誰かの夢が自分の夢になる。自分の夢を誰かに託す。趣味ではなく夢にしてしまった瞬間からスポーツ観戦は楽しいだけではなくなってしまうけれど、それでもスポーツを観ることでしか得られない感情がある。それを実感した東日本大会だった。

 スポーツを「みる」ことを始めて良かった。カバディと出会えて良かった。Babylon Breakersというチームを応援して良かった。これからも自分にできる範囲で、応援を続けていきたい。