ミュージカル「フィスト・オブ・ノーススター 北斗の拳」観劇感想⑤
こんにちは、雪乃です。ミュージカル「フィスト・オブ・ノーススター 北斗の拳」、東京公演千秋楽に行って参りました。そんなわけで感想文です。前回の感想はこちらから。↓
実はもともと、千秋楽は行く予定ではなかったんです。本来の予定では12月18日がmy楽だったのですが、その18日の観劇を終えたとき、このまま帰ったら後悔する気がしました。そして気がつけばリピーターチケットのカウンターへ。そのまま千秋楽のチケットを購入しました。
途中で急遽チケットを追加した公演はこの「フィスト・オブ・ノーススター」が初めて。改めて、すごい作品と出会えたと思います。
そして初めてのことがもうひとつ。実は私、ミュージカルを12年ほど観ているのですが、千秋楽を観たのはこれが初です。前楽は「マリー・アントワネット」で体験したのですが、マジの千秋楽は人生初。しかし人生初の千秋楽がこの「フィスト・オブ・ノーススター」で良かったと思います。
今回は2階席から観ました。1階席で観た際は人間の生き様と死に様に着目できたのですが、2階席ではひとつの時代の目撃者となれたように思います。
あとアクションシーンは、私は2階席から見る方が好みですね。人間の肉体の動きを全体的に俯瞰で見た方が、アクションで感じるスピード感が増すように思いました。
そして音。今年のレミゼを2階席で観たときも思ったのですが、聞くならやはり2階。よりオーケストラの輪郭がはっきりと聞こえましたし、何よりコーラスに包まれる感じがすごく好きです。
思い返せば今まで観た作品の中で最もオケが印象に残った「ジキル&ハイド」も2階席で観ていたので、今後の生オケの作品は2階を狙うのも良いな、と思いました。
取り急ぎキャスト別感想から。千秋楽のキャストはこちら。
ケンシロウ役・大貫さん。まず何よりも、この作品の主演をシングルキャストで務めたのが凄すぎます。何者?千秋楽でも圧倒的にキレのあるアクションにダンス、そしてさらに深みを増した歌とセリフ。大貫さん以外のケンシロウが考えられないほど素晴らしかったです。
今日は原作の文庫版第1巻を持参して行きました。ゆえに開演前は原作を読んで過ごしたんですが、足の角度や上がり方が本当に漫画そのままだったな、と。舞台全体の色彩が暗めながら重すぎず、漫画のカラーページのような趣があったこともあって、作画までもが最高にケンシロウでした。
シン。今回は上田シンです。観られないと思っていた上田シン、チケットを急遽追加したので拝見することができました。
こちらのシンもめちゃくちゃ良かったです。歌は上手いしセリフの声はイケボで天を貫くし踊れるし。「揺るぎなき信念」や「拳王の進軍」で踊るシンが見られるのですが、完全に「KING」でした。一度で良いのでKING様オンステージを2時間ぐらいの尺で観たいです。
一挙一動が野心に溢れていて、彼もまた世紀末を生き抜いてきた拳士なのだと思わせてくれるシンでした。
植原シンも拝見したのですが、常にどこか気高さをまとったような植原シンと比べると、上田シンは少し硬質で、そしてより少年漫画的な要素があるシン。ユリアへの愛を抱きながらも野心と欲を抱いたシンでした。
しかし硬質さがあったからこそ、「ただ愛のために」で見せるシンの姿が胸に迫りました。ユリアの名前を叫ぶときの、鎧が剥がれ落ちたような脆さがすごく印象的。
そしてやはり書いておきたいのが、ラオウに反旗を翻してから散ってゆくまでのシン。ここの流れは、植原シンだと気高さをまとっているがゆえに魂をむき出しにして戦う姿に、痛みを伴った矜持と、愛することを知った人間の原始的ながらも圧倒的な強さを感じました。
一方、今回拝見した上田シンのこのシーン。上田シンは全体的に野心を感じさせていたからこそ、このシーンで見せた人間らしさが印象的でした。ユリアへの愛と、その愛ゆえに背負う苛烈な哀しみ。シンを構成する要素を「キャラクター」にしすぎることなく、シンのパーソナリティとして凝縮した描写力が圧巻でした。
トキ。今回は加藤トキです。加藤トキも、チケットを使いしたことで拝見できました。追加して良かった〜〜!!!
加藤さんは過去に「1789」のロナン役と「レディ・ベス」のロビン役で拝見していました。そこで抱いていたのは、普通の人間をヒーローとして存在させたときの輝きがものすごい方だな、という印象。
そして今回のトキ。強かった。病に侵されてもなお揺るがない、拳士としての立ち姿がすごくカッコいいトキでした。彼もまた世紀末を生きるために戦い続ける人間であると実感させるトキだったように感じます。
小野田トキは常に「ラオウの弟」であることを感じさせつつ拳士として残された生を生きていたのに対し、加藤トキはひたすらに今を生き抜く、ラオウにとっての「強敵(とも)」。ラオウが「おれには強敵(とも)と呼べる男はトキしかいなかった…」という原作のラオウのセリフを思い出しました。
そんなトキだからこそ、ラオウと戦ったあとに消え入りそうな声で歌う「兄弟の誓い」のリプライズで泣きました。
ユリア。今回はMay’nユリアです。
私がチケットを追加したのは、とにかくMay’nさんの「氷と炎」を、もう一度だけでいいから聞きたかったから。何がなんでも生で浴びたかった「氷と炎」、本っっっっ当に最高でした。この「氷と炎」という名曲が生まれ、さらにこの曲がにMay’nさんの歌声で歌われたというだけでもう観にきた甲斐があったというもの。ユリアの持つ品格やたおやかさと、「氷と炎」というビッグナンバーを歌い上げる強さがまったく矛盾せず、時代を創ることのできる存在としてのユリア。素晴らしいヒロインの誕生の目撃者となれたことは一生忘れません。
「氷と炎」以外にも、ケンシロウと2人で生きていくことを誓うナンバー「愛のテーマ」や「死兆星の下で」、トウと2人で歌う「この命が砕けようと」も大好き。別のお役でも拝見したいです。
ラオウ。今回は宮尾ラオウです。世紀末覇者感にますます磨きがかかっていて、圧倒的な強さを持った拳王でした。
今回印象に残ったのが、終盤でユリアの秘孔を突く直前のシーン。あのときのラオウの背中と手には、確かに悲しみがありました。そして同時に、ユリアを抱きしめるような愛し方も、もしかしたら心のどこかでしたかったのではないかと私は解釈しました。ラオウが愛と哀しみを知った瞬間が明確に分かって震えました。
宮尾ラオウ、カーテンコールではなんとターンをしてくださったのですが、バレエダンサーの方だけあってめちゃくちゃ美しかったです。こういうのが見られるのも千秋楽ならではでした。
レイ。今回は上原レイです。前回拝見した際は孤高の拳士のイメージが強かったのですが、今回はよりマミヤと、そしてケンシロウとの関係性が感じられるレイでした。完全に牙一族編が見えましたね(幻覚)。なんならユダもいませんでした?(全部幻覚)
カサンドラで歌われるナンバー「抗いようもなく」。レイがケンシロウと仲間になる過程をこのナンバーで全部やってます。すごい。この凝縮の仕方はもはやミュージカルでしかできません。上原レイと松原マミヤ、お二方とも藝大出身なのでめちゃくちゃ贅沢なデュエットでした。
あとレイの「シャオッ!」の声、どこから出てるんですかね……?伊礼レイも上原レイも、この声のアニメの再現度が高くて驚きました。
ジュウザ。今回は伊礼ジュウザです。前回拝見したとき以上に自由でした。もはや登場しただけで拍手が起きるジュウザ。千秋楽と絡めたアドリブもたくさんやってくださって嬉しかったです。ジュウザのアドリブで急に「千秋楽」を実感して、全然泣くシーンじゃないのに普通に泣きました。
「ヴィーナスの森」はやっぱり最高に楽しいナンバー。全観客をひとつにできるジュウザ、尋常じゃないくらいモテるのがよく分かります。ヴィーナスたちのダンスも、艶と躍動感がますます進化していました。
ジュウザは「ヴィーナスの森」で見せる刹那の享楽に生きる姿と、南斗最後の将のために命をかける姿のコントラストが印象的。しかしそこにギャップを生み出すのではなく、ジュウザなりの愛と哀しみをベースとして響かせていたことで、改めてジュウザの人生がはっきりと見えた気がします。
リン。今回は近藤リンです。純粋で嘘のない芝居が、リンの心の叫びに一層の説得力を持たせていました。
名曲「最後の真実」も圧巻。このリンに、これから先の未来を生きる民衆を導いてほしいと心の底から思いました。
ラストシーンで、ケンシロウを思わず追いかけようとしたバットを引き止めるシーン。原作では
だ…だめ!バット!!
だ…だめ 絶対に追わないって約束したでしょう
お願い ふたりだけにさせてあげて
ふたりだけで静かに…
というセリフがあるのですが、舞台版にこのセリフはありません。しかしリンの背中に言葉で表現するのと同じくらいの説得力を感じられたし、何よりこの先の、バットと共に在る未来を感じさせてくれました。
山崎リンを踏まえた上でもう一度近藤リンを拝見したのですが、どちらのリンもすごく好きです。山崎リンは若いながらも第2部で民衆を導く彼女の宿命や、その身に流れる天帝ルイと同じDNAを感じさせるリン。今のリンのすぐそばに成長した姿が見えるようでした。
一方の近藤リンは、すごくリアルタイム性の高いリン。今を等身大の、年相応の少女として生きていました。年相応だからこそ、まだ見ぬ未来を導いてほしいと思わせる未知のエネルギーに満ちていたと思います。
バット。あともう一度だけで良いから観たいと願ってチケットを追加したバット、千秋楽も素晴らしかったです。舞台上を1人で満たすことのできる圧倒的な存在感。「暴力バンザイ」のシーンでは、彼もまた奪われ得る存在であることが際立っていて、だからこそ描かれるバットの成長ぶりが素晴らしかったです。「心の翼」のリプライズで聞くことのできる伸びやかな歌声も圧巻でした。
ラストシーンではリンと2人で舞台の中央に立ちますが、あの瞬間にもはや第2部の幕開けを感じましたね(幻覚)。
マミヤ。時代を担っていけるだけの頼もしさを感じさせる声や立ち姿がもうたまりません。あまりにもカッコ良すぎて某バリケードの上で赤い旗を振っていた気もするし、なんなら某バスティーユの武器庫に乗り込んでいた気さえしてきます。原作やアニメにある「ザ・少年漫画のヒロイン」的な面の出力は抑えめですが、それでもどこかに原作のエッセンスを感じさせてくれるマミヤでした。
リュウケン。リュウケンは1幕冒頭で早々に退場するので、のちに登場するリュウケンはほとんどがラオウの記憶の中の存在。しかし「ラオウから見たリュウケン」の解像度の高さゆえに、ラオウの孤独がより掘り下げられていました。あと声がやっぱり大好き。もう毎日リュウケンの歌声で目覚めたいです。
トウ/トヨ。トウの中にある恋心や愛、ユリアへの想い。すべてが凛と、しかし人間らしく造形されていたトウでした。「この命が砕けようと」は、描かれてほしいトウがきちんと描かれていて安心感のあるナンバーです。トヨはまったくカラーの違うお役で、3回拝見しても同じキャストに見えないのがすごすぎました。
キャスト別感想はこんな感じです。
改めて、本当に良い作品でした。そして素晴らしい作品だからこそ、原作にあった中で削られてしまった部分までもを見たいと心の底から思えます。シュウとレジスタンスが歌うナンバーがあったらどんなメロディだったのか。サウザーの「こんなに悲しいのなら苦しいのなら…………愛などいらぬ!!」という慟哭に旋律が与えられたら、それはどんなものだったのか。ユダがいたら絶対えらいことになってただろうな、とか。オープニングにジャギがいたら、どんな歌詞で彼が表現されていたのかな、とか。リュウガが舞台上でもいたらシンの描き方はまた違ったものになったんじゃないか、とか。何パターンもの、ifの「フィスト・オブ・ノーススター」を考えてしまいます。上演時間5時間バージョンの「フィスト・オブ・ノーススター」もそれはそれで観たいです(脚本・作詞をご担当された高橋先生のTwitter参照)。まあそれがあったところでサウザーがいるとは限らないんですけど……。でも私もワイルドホーンに推しの実質キャラソンみたいな曲作ってほしかった……。ミュージカルきっかけでアニメと原作を履修したらサウザーに狂ってしまったので誰か助けてください。
そして原作を読むにつけ思うのが、文庫版にして第1部だけで8冊強はある物語を1本の芝居にまとめたすごさ。クリエイター陣の手腕を感じます。
舞台版がまとまった理由、なんだかんだ言って功労者はオリジナルキャラクターのダグルでしょう。ユダとジャギの所業を一手に引き受け、なんならカサンドラの獄長ウイグルのポジションまで兼ねてましたから。ユダとジャギからしたらたまったものではないでしょうが。ただ、ジャギは「世紀末ザコ伝説」の方には出てたみたいなので、ある意味プラマイゼロと言える気がしないでもないです。
ユダに関しては、たぶん彼が一番ミュージカルに出たいタイプだろうな~と思います。あとレイが本当に良かったので、ユダとの関係性も含めて見てみたかったですね。……もうこれ「南斗 DE 5MEN」舞台でやりません?少なくともレイには日本ミュージカル界最高峰の声帯が実装されましたし、シンに関してはバリバリに歌って踊れますし……(「拳王の進軍」のシンがダンスうますぎて公式がアイドルパロをやってくれたんじゃないかと思ったなんて言えない)。
千秋楽に上げる感想がこんな感じで終わって良いのかわかりませんが、謎の発言をしはじめたので今回はここで一旦切ります。感想文はあと1回くらいは続くと思うので、お付き合いいただけましたら幸いです。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。