燃え上がれ、祝祭──カバディ観戦の面白さを語りたい
私のカバディ観戦は、日本カバディ協会の公式ホームページに掲載されるプログラムをチェックすることから始まる。Xのタイムラインに流れてきた瞬間、即座にリンクをタップ。はやる気持ちでファイルを開き、出場チームや登録選手、トーナメント表やタイムテーブルの確認。カバディの公式戦はコートを2面敷いての2試合同時進行も当たり前なので、重なっている試合があればどちらを現地で観るかを考える。
出場チームや登録選手のチェックも大切だ。特に今年の東日本大会はBuddhaと百足という強豪2チームが単独で出場しない。選手の動きが流動的というか、合同チームの出場も多いフレキシブルさが日本カバディの魅力のひとつである。強豪チームに所属する選手がそれまでとは異なるチームで出場することでどのような化学反応が大会にもたらされるか、当日が楽しみになる。
私が初めてカバディの公式戦を観たのは2021年の東日本大会だった。当時は無観客開催で観戦方法は配信のみ。まだ知識もあまりない中で観た東日本大会で、あるひとつの試合に目を奪われた。ジモディとWASEDA MONSTERSの試合だったと記憶している。
ジモディ──自由の森学園カバディ部は全国的にも稀有なチームだ。なにせ、リアルカバディの世界にはカバディ部のある高校が、私の知る限り自由の森学園しかない。自由の森学園は中高一貫校なので選手は全員中高生、中学生からカバディを始める選手もいるため、年齢的には若手だが選手としてのキャリアは長いプレーヤーが在籍している。
そんなジモディが、とにかくすごかった。年上の大学生チームに勝ったのだ。もはや目で追えないほど速い攻撃、部活としての強みを生かした高い守備力、そしてここぞというときの勝負強さ。攻守共に積極的で、とにかく観ていて面白い試合だった。
なお当時のジモディには後に百足や国際大会で活躍することになる志村選手や泉選手、百足を経てBabylon Breakersに移りBuddha撃破を成し遂げる寺内選手がおり、カバディ観戦にハマったのはこの3人の選手によるところが大きい。年上の選手からクリーンタッチを決め、守備で体格的に勝る選手を捕らえ、そしてローナを取る姿が眩しく、目に焼き付いた。
有観客試合が解禁されてからは会場に足を運んだのだが、そこでもやはり特に注目して観たのはジモディだった。YouTubeで観たあのプレーが生で観られる!という期待感を抱いて会場に向かい、そして決してその期待を裏切らない試合を見せてくれた。チャレンジカップでの優勝を目の当たりにできたときは本当に嬉しかった。
ジモディ、そして自由の森学園女子カバディ部であるコイワイ613もそうなのだが、共通する特徴として、試合が始まる前に必ず選手と観客が「チーム名を言って手拍子をする」という習慣がある。選手と応援する観客の一体感を高めるこの試合前の習慣を初めて会場で観たときに心を掴まれた。公式戦にホームやアウェーといった概念がない日本カバディ界にあって、完全に、会場がジモディの「ホーム」になったことを肌で感じた。
スポーツ観戦という場における「私たち」と「彼ら」の形成。一体感や感情の共鳴を生み出し、それは「勝負」と「祝祭」を同時に創出する。チームのプレーそのものの面白さ、そして会場で生み出される一体感。そういったものを体感した私に、スポーツの世界で初めて「贔屓のチーム」ができた。
さて、贔屓のチームができるとなると、スポーツ観戦はもはや楽しいばかりではいられなくなる。贔屓のチームが勝てば嬉しいが、負ければ悔しい。自分でプレーしたわけではないのに悔しいと思いながら会場を後にすることになる。楽しいばかりではいられない、だからこそスポーツの世界は面白いのだと知った。負けた試合の後は「次こそは」と思えるし、勝った試合の後は「次もきっと」と思って、また会場に足を運びたくなる。会場では贔屓のチームや選手の勝利を祈り、歓声を上げ、守備や攻撃が成功すれば拍手を送る。あの激しく燃え上がる祝祭の場にいるのは、もはや「私」ではない。「私たち」なのだ。
そして会場にいる選手も観客も、すべてがひとつの「私たち」になる試合がある。決勝戦だ。決勝戦では、どちらのチームのプレーが成功しても拍手が起きる。優勝チームがどこであれ、最後には割れんばかりの拍手が贈られる。あの瞬間の高揚感、日常では味わえない感動。明確に勝敗のある世界だからこそ味わえる、様々な感情がない交ぜになったスポーツ特有の空間。あの感覚が味わいたくて、何度でも会場に足を運ぶのだ。
また現地観戦の良さとして、守備側が攻撃手にプレッシャーを与えるための「声」がはっきり聞こえるという点も挙げたい。あの声こそカバディの持つ、理性を以て原始性をコントロールする、スポーツとしての特性が凝縮されている。明確な意図のもとに発される声でありながら、それはもはや咆哮とも言うべき迫力を持つ。ルールの改定によって現代スポーツとして洗練され、より起伏に富んだ試合が作られるような規則性を持たされた試合の中にあって、あの「声」には人間の本能が宿る。
プログラムそのものにルール解説のページがもうけられ、また選手のプロフィールも充実し、またそのプログラムを会場で買うこともできる。今年始まった関東カバディリーグでは試合前にチーム紹介のVTRが流れる。初めて公式戦を観てからおおよそ3年、目に見える範囲だけでも、日本カバディ界はかなりショーアップされたと感じる。それでも、根底にあるのは「狩り」という原始的な営みなのだ。
カバディの観戦には生配信という方法もある。日本カバディ協会の公式YouTubeチャンネルで配信されるのだが、コメントをすると実況席にいる選手が答えてくれる、という双方向的な観戦が可能なのが配信の強みだ。現地に行くことができない人でも気軽に観戦できるのでぜひ観て欲しい。
今年の東日本大会は8月3日と4日。会場は帝京大学板橋キャンパスのアリーナ。ひとりでも多くの人がカバディ観戦に心を向けてくれることを願っている。