【小説】宙色をあなたに
彼女のプラチナブロンドの髪に、大輪の花を象った髪飾りをつけてやった。白く透明なそれは、時折内側から燃えているような光が煌めくことがある。
「ね、回ってみてよ」
僕がそう言えば、彼女は「わかったわ」と言って、一周その場でくるりと回った。スカートの裾が広がって、それは柔らかな円を描く。真っ白なドレスは僕の自信作で、胸元もスカートも細かい光の粒を散らした。光沢のある生地そのものに細かい光を織り込むのには苦労したが、彼女の笑顔が観られるなら安いものだ。
「今日も素敵なドレス。ありがとう」
そう言って微笑む彼女は、きっとこの宇宙でいっとう美しい。
ペチコートも思いっきり重ねた膝丈のドレスが、彼女にはよく似合う。靴だって、このドレスと合わせるために作ったものだ。白いパンプスの爪先には、彼女の胸元を飾る宝石と同じ形の小さな星形の装飾をつけている。
ここは巨大な船の中にある彼女の衣裳部屋。僕が今まで作ったドレスをまとうトルソーたちが、僕たち二人の周りをぐるりと取り囲む。
大きな窓の向こう側に広がる、深い藍色の空。縫いつけられた細かなビーズのように空を飾る星々に彼女は目を留めて、「ねえ」と僕に背を向けたまま言った。
「今度は、この空の色でドレスを作って」
次はロングドレスがいいわ。そう彼女は付け加えた。振り返って僕をその場に縫い留めるみたいに見つめる彼女の瞳。なんて綺麗なんだろう。
彼女は僕に歩み寄って、そして細い指先が僕の顔に触れる。でも僕は彼女の体温を知らない。僕は普段、顔をすべて覆ってしまうほどの仮面をつけているし、彼女は僕の手に売れてくれることは決してないから。
「このドレス、星をもっと増やして頂戴な」
これでは地味よ、と彼女。僕はシンプルな方が彼女に似合うと思ったのだけれど、彼女は違うようだ。
「わかったよ」
それならもっと、星を壊してこなくちゃ。彼女のお気に召す星を見繕って、壊して、星屑を細かく砕いて加工して。彼女のドレスに縫い付けられた装飾の数々も、髪飾りも、アクセサリーも、すべてそういうふうにして作られている。彼女の衣装係である、この僕の手によって。
さあ、そうと決まればまた外に出よう。星屑を手に入れて、あの白いドレスの手直しをして。それが終わったら、彼女がリクエストした深い藍色のドレスのデザインを考えよう。
彼女との関係は、女王様と衣装係。彼女は他の星との戦争で自分の星を失った哀しい女王様。絶対に口には出さないけれど、僕を作ったのなら、きっとそれなりに寂しかったんだと思う。だから、僕は彼女の側にいる。彼女にとびきりにドレスを着てもらうために。
僕が手のひらを星に向けた瞬間に、僕の手からは一筋の光線が放たれた。刹那、体全体に伝わる衝撃と熱。僕自身がどろどろに溶け切ってしまうような熱風を体に浴びた。また一つ、僕は星を壊したんだ。
僕の手には、煌めく星屑が握られている。壊した星の残骸は、僕が知らない熱がこもる。僕が永遠に知ることのできない「命」とかいうものを、この瞬間だけは手にしたような気分になる。手の中の星屑はすぐに熱を失ってしまって、すぐに透明で硬い石みたいになる。僕の脳裏に一瞬だけ「死」という言葉がよぎった。僕が知らない、「命」とよく似た単語。何を思ったか彼女がかつて教えてくれた言葉。
宇宙の欠片を握りしめて、僕は顔を上げた。明日もまた、彼女のためにドレスを作ろう。