【小説】星舞う今日は

 君との出会いは高校で、初めてのデートは、プラネタリウムだった。君はポニーテールに、学校に来るときはつけていないシュシュをつけていた。紺色の布地に金色のラメが散っていて、星空みたいだと僕が言ったら、今日はプラネタリウムに行くからだよと彼女は君が返す。そういう選び方もあるんだと僕が感心したら、君はちょっと呆れたように、僕にこう言った。
「それ、本当にデートに行くつもりで着てきたの?」
グレーのパーカーにジーンズという僕の出で立ちを、君は指さしていた。確かに僕の装いは、デートに行くようには見えなかった。
 幼いころから通い詰めたはずのプラネタリウムは、どこか落ち着かなかった。視界の端にちらりと君の横顔が映った。星の光を散らしたような瞳が印象的で、最初に会話をしたときの君の顔と重なって見えた。
 二年生の選択授業で取った地学で、僕と君は、一緒の班になった。もはや開き癖のついてしまった僕の教科書を、君がまじまじと覗き込んだのを覚えている。開き癖の付いたそのページに書かれた章タイトルは、「宇宙のすがた」だった。章の最初に掲載されている天の川の写真が好きで、よく見ていたからだ。
 宇宙、好きなの? グループワークの終わり際に、君が僕にそう尋ねた。僕がそうだよと答えれば、君は、
「私ね、昔オーストラリアにいたの。そこで見た星、綺麗だったなあ」
だから、私も星好きかも。君はそう付け加えた。
 その年の文化祭の前日、準備が長引き、帰るのが遅くなった。十月で、日も短くなって、とても晴れた日で。二つの校舎の三階を繋ぐ渡り廊下からは月と星が綺麗に見えて、君は僕にひとつ質問をした。
「どうして、星が好きなの」
「どうしてって……。上手く説明できないけど、生きてるって思えるからかな」
「生きてる?」
「恒星は、皆燃えているから。その光を眺めていると、僕も同じように生きてるって実感が湧くんだ」
「ふうん」
君は僕の顔をちらりと見やって、それから、
「その感覚、なんとなく解かるかも」
「ありがとう」
「中三のとき、塾の帰りに星見るの好きだったんだ。いつもね、勉強の終わりに生き返るって感じがしてた」
だから、同じかもしれないね。君の言葉はそう続いた。「私たち」と最後に聞こえた気がした。
 それがきっかけになって、交際が始まった。高校三年生の夏、君は、サイダーゼリーを作ってくれた。作っている間はリフレッシュできるんだと言っていた。水色のゼリーに、アラザンが散らされていて、天の川みたいで綺麗でしょと君は笑った。
 受験が終わって、二人とも大学生になったら、一緒に星空を見に旅行に行こうね。そう約束した。いつか君が見たオーストラリアの夜空も見たいと、そう願った。
 星空の次はオーロラが見たいと君が言った。なら新婚旅行はカナダかフィンランドかアラスカかノルウェーか。旅行会社のパンフレットを両手いっぱいに抱えた君の眼は、あの頃と変わらず、星が瞬いているようで。それはまるで、瓶詰めにした宇宙のようだった。

 ツイッターにあげた短編です。診断メーカーの「三題噺お題作成」をやったら「シュシュ」「プラネタリウム」「サイダー」が出てきたので書きました。