ミュージカル「CROSS ROAD 〜悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ〜」観劇感想
こんにちは、雪乃です。ゴールデンウィーク、皆様いかがお過ごしでしょうか。
ゴールデンウィーク前半の4月29日はシアタークリエでミュージカル「CROSS ROAD 〜悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ〜」を観てきました。
実在した天才ヴァイオリニストであるニコロ・パガニーニの生涯を題材として描くミュージカル「CROSS ROAD」。
音楽の悪魔アムドゥスキアスと契約することで音楽の才能を手に入れたパガニーニの人生を辿りながら、1人の人間としての在り方を描き出す脚本。耳に残り、そして歌いたくなる楽曲の数々。登場人物の人物像をより立体的に見せる照明、回り盆を使った舞台転換は鮮やかでテンポも良く、何よりキャスト陣も実力派揃い。全てが素晴らしいミュージカルでした。
というわけでキャスト別感想です。
アムドゥスキアス(音楽の悪魔)/中川晃教さん
ステッキ捌きから指先の動き、独特な台詞回し、すべてが蠱惑的で麗しく恐ろしい悪魔でした。常に人間とは違う次元にいる独特の存在感からして、とにかく中川晃教さんにぴったりなお役でした。
「血の契約」ではパガニーニに契約を持ちかけるナンバーでありながら、私に向かって語りかけられているようでゾクゾクしました。
そして中川さんといえばやはり素晴らしいのが歌声。以前コンサートでJCSの「スーパースター」でソウルガールのパートも歌っていたのがすごく印象的だったのですが、今作のナンバーも豊かな高音がとても素敵でした……幸せ……。
人類全体を俯瞰するような立ち振る舞いと酒場のシーンで見せる愛嬌のギャップが最高すぎる〜!そして歌声で劇場を支配する様はまさしく音楽の悪魔。お衣装の着こなしも含めて、魂を奪われるような魅惑的なアムドゥスキアス様でした。
ニコロ・パガニーニ/相葉裕樹さん
自分に才能がないことに気がついてしまう才能があったがゆえに悪魔と契約を交わしてしまったヴァイオリニスト。1曲演奏するごとに命がすり減り、100万曲演奏したら死ぬ。演奏はすべてアムドゥスキアスに捧げなくてはならず、悪魔が命じた時以外は演奏してはならない。そんな契約に縛られることで孤独になっていくパガニーニの苦悩は苦しくも見応えがありました。ヴァイオリニストとしての名声を得たのちは尊大に振舞う一方、母テレーザを前にすると表情が子どもに戻るところがまたニコロ・パガニーニという人間の深みにつながっていて、だからこそ一層切なくもあり。執事のアルマンドに対して素直に見せる甘えがまた良い。
YouTubeで公開されているナンバー「アンコーラ」。最期を迎えるその時に、ヴァイオリンを抱きしめながら消え入りそうな声で歌われるリプライズがとにかく美しかった……。
思えば初めて相葉さんを舞台で拝見したのは今からちょうど10年前に上演された「ちぬの誓い」の松王丸役でした。それ以前から戦国鍋TVで「とにかく歌がめちゃくちゃ上手い人」という認識はしていましたが、この松王丸役が儚げですごく素敵で。
あれから10年。松王丸で見た、永遠の少年性を纏うような儚げで透明感のある立ち姿がパガニーニ役にとてもマッチしていて。その上で描かれる悪魔のヴァイオリニストの、1人の人間としての深い苦悩。1曲演奏するごとに死が近づき、最後の演奏を終えて永遠の眠りにつくまでの過程は苦しく人間味に溢れていました。
アーシャやアルマンド、ベルリオーズなど、彼が悪魔ではなく1人の人間であることを知っている人の姿が描かれたのが救いです。
アーシャ(ジプシーの娘)/有沙瞳さん
パガニーニのファンであり、パガニーニにヴァイオリンを教わることになるアーシャ。パガニーニにどんな態度をとられようと諦めずにぶつかっていく、溌溂とした明るさを持ったキャラクターです。心から自然と湧き上がってくるような軽やかで可憐な歌声とチャーミングなお芝居がとても魅力的で、彼女をすぐに好きになることができました。
太陽のような明るさで舞台全体を照らしていたアーシャ。彼女の明るさが少なからずパガニーニを照らしていたと信じられるのが救いです。
エリザ・ボナパルト(皇帝ナポレオンの妹)/元榮菜摘さん
パガニーニの音楽に魅了され、やがて彼自身を愛するようになったエリザ。「皇帝の妹」という身分ありきですり寄ってくる取り巻きにうんざりする彼女がパガニーニを愛したきっかけが「パガニーニが『エリザ』と名前で呼んでくれたから」なのが人間らしい。
パガニーニへの愛ゆえに彼の音楽を世界に広めようとした結果、パガニーニの命を縮めることになったと知ったエリザは、パガニーニから離れることを決意します。パガニーニを自由にするために、彼に背を向けてパガニーニの追放を命令するシーンで見せた、強いのに今にも壊れてしまいそうな立ち姿が印象的でした。歌声にも芯があり、ソロナンバー「離れれば離れるほどに愛」はエリザの強さと脆さがどちらも込められた名曲でした。
コスタ(パガニーニの師匠)・ベルリオーズ(作曲家)/坂元健児さん
パガニーニのヴァイオリンの師匠であるコスタは、パガニーニに「才能がないことに気がついてしまう才能」があると気づいてしまう人物。一方のベルリオーズは才能を持った実直な青年。パガニーニが悪魔ではなく1人の人間であることを知った、そのうちの1人がベルリオーズであってくれて良かった、と最後に思わせてくれるキャラクター造形でした。
コメディタッチなシーンも安定、かつ温かみのある歌声も変わらず素敵。今の日本のミュージカル界になくてはならない方です。
アルマンド(パガニーニの執事)/畠中洋さん
良い声!!!親子二代で推してるお声の持ち主の方です!!(母は「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」の悠あんちゃん役で畠中さんのファンになり、私は「塔の上のラプンツェル」のユージーンの声が大好き)
パガニーニの甘えや人間らしい部分を受け止める完璧な執事ぶりが、物語の始まりから幕が降りるまで愛に溢れていました。最後までパガニーニに寄り添い、その終わりを見届け、やがてアーシャと共にパガニーニの人生を振り返るアルマンドの姿こそが物語に一本の軸となっていたと思います。
テレーザ(パガニーニの母)/春野寿美礼さん
息子をどんなときでも誇りに思い、応援し続けるパガニーニの最愛の母。劇中で繰り返される「Casa Nostalgia」のメロディが強く印象に残ったのは、春野さんのすべてを包む美声あってこそ。
テレーザのシーンはどれも泣けるのですが、一番泣いたのが、歌ではなく台詞のみのシーン。パガニーニのコンサートに来たテレーザとアムドゥスキアスと隣り合って会話をするのですが、アムドゥスキアスすら勝つことのできないテレーザの強さを見ました。ミュージカルでありながら台詞だけのシーンであれほど号泣したのは初めてです。
ミュージカル「CROSS ROAD」、原作となった朗読劇を知らずに観に行ったのですがめちゃくちゃ良かったですね。どれくらい良かったかというと、観に行ったその日の夜に思わずチケットを追加したレベルです。ということであともう1回観るよ〜!!!
音楽の悪魔とヴァイオリニストが契約するという設定こそファンタジー的ではあるものの、パガニーニの弱さや脆さ、人間らしさや苦悩に焦点を当てた重厚な人間ドラマでした。かつ「人生の岐路に立たされた時、どんな選択をするか?」という普遍的なテーマが貫かれていたことでパガニーニと共に悲しみ苦しむことのできる物語でもありました。
パガニーニの生前は彼の命を縮めるものだった観客の「アンコーラ」が、彼の死後は彼の音楽を永遠に生かし続け、やがて劇場にいる「CROSS ROAD」を観ている観客の拍手と共鳴していく。そんな終わり方もまた美しかったです。
というわけで「CROSS ROAD」、素晴らしいミュージカルでした。出会えて幸せです!
本日もお付き合いいただきありがとうございました。