2024年に観た舞台を振り返る
こんにちは、雪乃です。気がつけば今日は12月30日。ということで、今年観た演劇作品すべての感想を改めて書いていこうと思います。今年最後の感想記事なのでかなり正直に書いてます!ご了承の上お進みください。
ウィキッド
今年の観劇は不朽の名作「ウィキッド」で幕を開けました。実に10年ぶりとなる東京公演、全日程のチケットが光の速さで即完売ということからもいかにファンに愛されている作品か分かります。マジで母上が四季の会の会員で助かりました。
来年の春には日本でいよいよ映画版が公開される本作。なんせ10年ぶりの再演ということでキャストがガラッと変わっていましたが、四季を代表するベテラン・飯野おさみさんはさすがの安定感。グリンダ役・真瀬はるかさんのキュートかつ繊細なお芝居と抜群のコメディセンス、エルファバ役の小林美沙希さんの圧倒的歌唱力、数々のヒロイン経験に裏打ちされた若菜まりえさんのネッサローズの説得力。プリンシパルからアンサンブルまで、これぞ劇団四季、という作品への誇りと愛を存分に感じた再演でした。
イザボー
実はリアルタイムで感想を書いてなかった!!どうあがいても辛口感想になってしまうので、年末のこの時期まで寝かせていました。1年寝かせても辛口になることに変わりはないんだけれども。
上演からおよそ1年が経過しましたが、今思い返してもとっ散らかってたな、という印象です。作品はタイトルの通りフランス・ヴァロワ朝の王妃イザボー・ド・バヴィエールの激動の生涯を描くミュージカルなのですが、とにかくあらゆる要素が未整理のまま世に放たれてしまった作品でした。「イザボーと夫・シャルル6世の夫婦の物語」「イザボーと息子であるシャルル7世の親子の物語」「実の親でありながらシャルル7世に嫌われたイザボーと、義理の親子でありながらシャルル7世に慕われたヨランドの対比」「フランスを破滅させたイザボーとフランスを救ったジャンヌ・ダルクの対比」「イザボーをイザボーたらしめるものは何なのか」「イザボーにとっての本当の幸せは何なのか」等々、とにかく小テーマを手当たり次第に立ち上げて、かつそれらを交通整理しないまま作品を舞台上に上げてしまった結果、小テーマ同士が正面衝突を起こしており、最後まで作品全体の主題が見えてこなかった印象が否めなかったです。キャストが豪華で曲も良かっただけに残念だったな。
スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師
ミュージカル界の巨匠であるソンドハイムの手がけた稀代の怪作。美しいメロディが織り込まれながらどこか何かがずれているというか、ネジが外れているような感覚がずっとあり、かつその感覚がソンドハイムによって意図的に作られたものであることが2幕で分かる、巨匠の掌の上で踊らされる感覚がたまりませんでした。不条理と混沌を煮詰めたような作品であり、かつ最後にはまるで観客を突き放すように、スッと物語がハケていく。どこか観客に対して冷淡ですらあるのにまた観たくなる作品です。
若手キャストの躍進も素晴らしかったですが、一番引き込まれたのは大竹しのぶさんの演じたラヴェット夫人。ミュージカルでありながらミュージカルではない、歌でも台詞でもないのに、歌でも台詞でもある、そんな唯一無二の芝居に人間の一番おそろしく、不可解で、そして時におかしみも伴うような究極の人間味が透けて見えたような思いがしました。
この世界の片隅に
こうの史代先生による同名漫画のミュージカル版。どのキャストも素晴らしかったですが、特に主人公・すずの義理の姉である径子を演じた音月桂さんが非常に再現度が高かったです。声から作り込まれる平野綾さんの白木リンも原作から抜け出してきたようでした。
曲はどれも覚えやすく印象に残るものが多かったのですが、やはりミュージカルナンバーとは異なる文法で作られている質感があり、個人的には音楽が芝居から浮いているような感覚を覚えてしまって、全体的にしっくりこなかったです。楽曲そのものはコンセプトアルバムとして聞けば原作の解像度も高く美しい曲が多いのですが、いざ舞台の上に乗せると「ここでこうなる?」という感じ。
また台詞で言ったことをもう一度歌詞で歌うシーンに無駄を感じてしまったり(「自由の色」のシーン)、原作ではあえてぼかして描いているようなところを明確にしてしまっていたりと、ちょっと細かい部分が気になる作品ではありました。
CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~
今年めちゃくちゃハマった作品です。チケットを急遽追加して2回観ることができました。実在した天才ヴァイオリニストのニコロ・パガニーニが、その超人的な演奏技術を悪魔との契約によって手に入れていたとしたら?という、史実と虚構を織り交ぜたミュージカル。
天才ヴァイオリニストの生涯を軸にしつつ、主題は「人生の岐路に立ったとき、どのような選択をするか?」という普遍性のあるものだったこともありわかりやすくまとまっていました。パガニーニの母であるテレーザを「一本道の象徴」とすることで「十字路の象徴」である悪魔アムドゥスキアスと対比させ、対等な存在同士として対峙させる脚本も面白かったです。
アムドゥスキアス役の中川さんはとにかく歌も芝居も極上。酒場のシーンはアドリブだったのですが、悪魔感を崩さないままアムドゥスキアスのキャラクターに可愛げを持たせるところはもうひたすらに上手かった。パガニーニが人生最後の1曲を奏でるシーンは号泣しました。
ナビレラ─それでも蝶は舞う─
韓国ミュージカルの日本初演。才能はありながら燻っている若手バレエダンサーのイ・チェロクと、定年退職後にバレエを始めることを決意したシム・ドクチュルの、年齢を超えた友情や2人を取り巻く家族愛を描くミュージカルです。
原作も全巻読みましたが、原作の縦軸はそのままにうまくエピソードをピックアップし、1本の演劇作品として綺麗にまとめた印象です。特に原作でも核となっている「楽しいだけなら趣味、苦しくても続けてしまうのが夢」という主題を最後まで徹底させていました。現代のシーンと回想シーンを行き来する場面も分かりやすく、人間の心の痛みの機微を丁寧に描いていたのも印象的です。
特筆すべきはやはりチェロクを演じた三浦宏規さんの素晴らしさでしょう。バレエの技術の高さもさることながら、才能を持つチェロクのオーラと、まだ何者にもなりきれていない等身大の若者像を同居させる演技力、そしてのびやかな歌声。歌・ダンス・演技の3拍子揃った、まさしくミュージカルスターだと思います。
SISTER ACT
日本では「天使にラブ・ソングを…」というタイトルでお馴染みのミュージカルの来日公演。韓国ミュージカルを牽引するEMKが制作しています。
ディスコサウンドを取り入れた名曲の数々がとにかく楽しく、劇場全体で盛り上がりました。またメアリーロバートを演じたソフィー・キムさんによる「私が生きてこなかった人生」は圧巻!圧倒的な歌唱力、しなやかな透明感とソウルフルな力強さを併せ持つ美声が劇場を満たしたあの瞬間を生で体感することができて幸せでした。
モダン・ミリー
100年前のアメリカを舞台に、玉の輿を夢見てカンザスからニューヨークへ出てきた主人公ミリーが恋に仕事に奮闘する、ハッピーオーラ全開のブロードウェイ・ミュージカル。
全編に渡って明るくコメディタッチで描かれる笑いの絶えない脚本、オールドジャズの要素を取り入れた華やかな楽曲に躍動感溢れるダンスにこれでもかと王道を往くラブコメ展開と、とにかく正統派のミュージカルコメディでした。
「玉の輿を夢見る主人公」を「愛が一番大事」という普遍的なテーマに接続することで、ミリーが生きた時代の100年後を生きる観客にも確かに響く作品となっていました。また大物歌手マジーを演じた土居さんの歌声はいつ聞いても大好きです。土居裕子さんと一路真輝さんというとんでもなく豪華な2人による掛け合いはこの2人だからこそたどり着ける境地という感じで、とにかくめちゃめちゃ面白かったです。
ライムライト
チャップリンの同名映画の舞台版。ミュージカルではなく音楽劇と銘打たれているので、ミュージカルとは少し異なる音楽の使い方がなされている、あくまで芝居主体で進む舞台でした。
舞台全体が黄昏色に染まっているような作品でした。老喜劇役者カルヴェロの、沈みゆく太陽が放つ最後の光のような儚い眩しさと、太陽から空を譲り受け、一番星のように新たな生を得て躍動するヒロイン・テリーの輝き。クラシカルで落ち着いた大人の魅力を湛えた舞台でした。
上海花影
モノムジカの新作ミュージカル。香港返還に揺れる時代の上海の裏社会を舞台に、策謀と愛が絡み合う濃密な人間ドラマが展開されます。ワニズホールは小劇場特有の距離の近さに加え、劇場自体が閉じた空間を創出しているのですが、劇場そのものが「内」と「外」を軸に展開していくストーリーにマッチしていて、今作でも圧倒的な没入感を味わうことができました。複雑かつスリリングでありながら最後には主人公・暁雨の守りたいものは何だったのか?という点に収斂していくシナリオ、そして伏線回収の鮮やかさ、決してハッピーエンドでなくとも人の心の真実に着地してゆくラストはモノムジカの真骨頂ともいえる作品でした。
燃ゆる暗闇にて
韓国ミュージカルの日本初演。ナビレラに続き、私にとっては今年2作目の韓国ミュージカルです。スペインの劇作家バリェホの同名戯曲を原作に、転校生イグナシオの出現によって盲学校の生徒たちの価値観が揺さぶられていく様を描き出すロック・ミュージカル。
「王様戦隊キングオージャー」での活躍も記憶に新しい渡辺碧斗さんの主演作ということで行ってきましたが、どのキャストも素晴らしかったです。主人公カルロスと対峙する転校生イグナシオを演じた佐奈さん・坪倉さんも、歌唱力、演技力とも素晴らしく、見応えのあるミュージカルでした。
登場人物のほとんどが視覚障害を持っている設定ということもあり、照明をすべて落として盲学校の生徒たちの世界を観客が疑似体験したり、白杖の音が重要な役割を果たしていたりする演出が印象的だった本作。「何かを強く望むことで人は幸せになれるのか?」という普遍的なテーマを問いかけると同時に、この世界がいかに健常者の規格で作られているかについて考えるきっかけにもなる意欲作だったと思います。
SONG WRITERS
日本発、東宝によるオリジナルミュージカル。ミュージカルという媒体で書かれたミュージカルへのラブレターであり、至高の創作讃歌であり、いずれは劇場を出て現実へ戻らなければならない観客の背中を虚構の中からそっと押してくれる、そんな作品でした。ハッピーで前向きなエネルギーに満ち、笑えて、それでいて最後はなんだか泣けてしまう。現実と虚構を行き来しながら最後はストーリーも1本の縦軸に収束していき大団円を迎える、ミュージカルらしいミュージカルでした。「この世に100の悲しみがあっても101個目の幸せを書き足せばいい」という歌詞がまっすぐに届くのも魅力だと思います。
応天の門
10年以上読んでいる漫画「応天の門」が、宝塚歌劇団に続き明治座でも舞台化。アニメ風のオープニングが入っていたりと現代らしい演出もありつつ時代劇としての芯がしっかりとあり、ストレートプレイとしての正統派な演劇的魅力とエンタメ性を持ち合わせた舞台でした。原作からエピソードをいくつかピックアップしたオムニバス形式の舞台でしたが、クライマックスに道真の葛藤と成長を描き、いずれ政治家として表舞台に立つ道真のオリジンをしっかりと感じさせる脚本は原作ファンとしても大満足。場面転換もスムーズでとにかく無駄がなく、キャストの再現度も高かったです。
辺獄に花立つ
モノムジカの結成20周年記念公演です。昨年上演された「辺獄に花立つ」が、スケールアップして彩の国さいたま芸術劇場に降臨しました。初演の感動を引き継ぎながらも、劇場の規模が大きくなったことで新たな「辺獄に花立つ」の世界を見ることができました。
立花潮というひとりの詩人の生涯を追いながら、当時の女性の権利向上へ向けた運動、関東大震災など物語の舞台となっている時代の史実を絡め、確かにそこで息づく人々の生き様を描いています。
観劇時の感想でも書きましたが、テーマは「人間讃歌」。決して完璧ではない人間を描くからこそ人の持つ、魂の美しさが際立つ。20周年という節目にふさわしい好演でした。
天保十二年のシェイクスピア
人生初となる井上ひさし作品です。多様な登場人物が舞台上に現れては不条理な形で命を奪われていく、骨肉の争いとカオスに満ちた戯曲がなぜか最後には祝祭まで昇華される唯一無二の演劇体験でした。とにかく膨大な言葉の数々に飲み込まれているうちに、本編だけでそらく3時間は超えているであろう舞台が幕を下ろしていました。何が起きたの?
タイトルに「シェイクスピア」と入っていることもあり、シェイクスピア作品の要素を各所に散りばめながら物語が進んでいく本作。主人公・佐渡の三世次が清滝村の旅籠屋を手に入れてから掲げられる家紋は、三世次のモチーフとなっているリチャード3世が旗印にしていた白い猪。「薔薇王の葬列」で見た!と思わずテンションがありました。
これで今年観た作品の感想は全部書き終わりました!海外のミュージカルだけではなく、国産ミュージカルも観ることができて今年も楽しい1年でした。
来年は念願の「SIX」日本上陸や「屋根の上のヴァイオリン弾き」「キンキーブーツ」「フランケンシュタイン」「ボニー&クライド」の再演、また新作国産ミュージカル「昭和元禄落語心中」の誕生と、目の離せない作品が目白押し。来年のラインナップも楽しみです。
本日も、そして本年もお付き合いいただきありがとうございました。明日も更新予定ですが、ひとまず舞台の話題はここで一旦締めようと思います。皆様、来年も良い観劇ライフを!