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AI時代の生き方は妊婦から学べ

人間にできてAIにできないことは何でしょうか。計算スピードの速さや記憶能力はAIに勝てなくても、人間にしかできないことが私はたくさんあると思っています。

今回、私が強調する人間にしかできないことは、人の心を動かすこと新たな可能性を見つけることだと思っています。

偶然手に取った本の内容に私は心を動かされました。AIが台頭する現代で人間が活躍する価値をこの観点で考えていきたいと思っています。

参考にした本は下記のものです。

新たなAI大国 その中心に「人」はいるのか?』(著:オラフ・グロス/マーク・ニッツバーグ/訳:長澤あかね)

がん診断支援システム

今や、AIはあらゆる分野で活用され、開発が進んでいます。今回、紹介されていたのが医療分野の「Watson for oncology」というがん治療支援システムです。IBMにより開発され、がん治療による過去のデータを分析し、現在治療する患者に過去のデータから計算された最適な治療法を提供するというものです。

このシステムは患者の医療記録、関連する医学的根拠からの情報を精査して、治療法を信頼度に基づいてランク付けし、必ず裏付けとなる根拠とともに表示します。いくつかの候補が根拠とともに明示されるので、医者は実際の診療とデータの根拠を照らし合わせて最適な治療法を選択できます。

Watson for oncology 公式ホームページ

IBMの製品というのもあってか、このシステムの検索結果も信用できるものとなっています。複数のがんの種類に対して83%の一致率を達成していることが話題となっています。テクノロジーの進歩はめまぐるしいですね。

リサーチペーパー「複数のがんの種類に対して83%の一致率を達成」(英語)

決断は背くこと

著者の妻は第一子を妊娠した際に乳がんだと診断されたそうです。ベルリンという大きな都市で最高レベルであったガン専門医には「妊娠中絶をし、化学治療を進めること。それ以外に助かる選択肢はない」と言われました。

しかし、筆者の妻はとても強い女性でした。彼女は中絶を拒み、子どもを産む選択をしました。結論から言えば、彼女はがんの診断を受けたうえで、その子供だけでなくもう一人(計二人)の子どもを出産し、診断を受けてから14年経つ今でもがんの症状は見られないと言います。

協力してくれる”人”と成功

彼女が強い決断をできたことには、まず家族や友人からの応援があったからだということが本で述べられています。妊娠といういいニュースががんという悪いニュースに打ち消されはしたものの、それが逆にありふれんばかりの応援となりました。

そして、別の小さな病院で専門医の治療を受けたことも転機でした。その医者は「何としてでも母体と子供を助けたい」という意思を強く持ち、ごく希少な例の出産できる化学療法を勧めてくれたそうです。これが結果として功を成し、第一子を妊娠して彼女も治療に成功しました。

周りの人を頼ること、またつらいときの声援がやはり人の心を動かすということに気づかされます。

もしがん治療支援システムが登場するとしたら

ちなみにこの話はまだWatson for Oncologyが医療現場で活用される前の話です。しかし、この技術に従って判断していたとして、果たして同じように母子ともに助けることができたのでしょうか。

私はNOだと感じます。なぜなら、母子を助けることができたのは信憑性のあるデータではなくそれを破る自分の強い気持ち周りの人からの熱い気持ちだからです。

未来を切り開くのは自分

このWatson for Oncologyが得意とすることは過去の結果から推測する未来の提供です。確かに、過去から学ぶべきことは数多くあり、有効でないとは思いません。

このシステムが担う役割は先ほどの話でいう最初のがん専門医ではないでしょうか。しかし筆者の妻は自分の意思で最初の療法を拒み、母子ともに助かる道を自分で切り開きました。どんなに信憑性のある可能性が示されても、データにとらわれず自分で可能性を見つけることは、誰もが簡単にできることではありません。

ここで大事なことは、新しい可能性を切り開く能力は人間にしか備わっていないということです。AIが得意な分野は過去のデータから分析された結果の予測です。つまり過去に事例がないものをAIが考慮することは不可能です。

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つまり、過去をなぞらえるだけではAIに取って代わられてしまうということです。そうならないためには、常に新しい選択肢を人間が作ることが必要となります。ひらめきなどの自分自身の感覚を信じることが大事となってきます。

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信頼に値するのは

それでは、2番目に診療を受けたがん専門医がこのシステムの通りの結果を示すだけだったとしたらどうでしょう。

確かに母子ともに助ける治療法が信憑性の高いシステムで裏付けられるなら、それに越したことはないのかもしれません。珍しい事例を調べるのにも、時間的なコストを抑えられると思います。

しかし、彼女を助けたのはただ治療法を見つけたというだけではなく、本当に夫婦に寄り添い、助けたいという熱い気持ちを持ってこそです。筆者の妻が信頼したのは母子ともに助かる治療法だけではなく、それを探したいと協力した医師の強い気持ちではないでしょうか。

結局のところ、人の心を動かすのは熱い気持ちを持った人でしょう。母子ともに必ず助かるという強い気持ちを持った母親が医師の心を動かし、その医師も強い気持ちをもって夫婦と接し、夫婦の心を動かしました。

実際、AIが人間の感情を理解するのは到底難しいです。それは、そもそも人間がなぜ感情を発生させるのかについてまだ謎が多いからです。また、感情が発生するのには個人の価値観が関係したり、経験が関係したりと複雑な因果関係が絡み合いますが、AIがそれを理解することはできません。

感情を理解し、感情を動かすこと。それは人間のみができる高度な技であり、忘れてはならないものです。

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活躍できる人とは

この話から、AIが台頭する世の中で活躍できるのはこの女性のような人物であると感じます。

すなわち、強い気持ちをもって過去を覆し未来を生きる力を持つ人なのではないでしょうか。

AIにできることとできないことをまとめてみると、以下のようになります。

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すなわち、この妊婦さんのように新しい道を切り開いていくこと、そして人の気持ちを動かすことこそが人間の価値ではないでしょうか。

AIsmiley AI・人工知能ができること、できないこと

AIとの向き合い方

このような強い人間にすぐになれたら苦労はしませんが、そうはいかないものだと思います。

新しい可能性を生み出すことの困難は人間でも例外ではないでしょう。特に日本人は伝統など過去を重んじる傾向にあるので、世界の人に比べて新しい可能性を生み出すことの難易度は高まるかもしれません。

大事なことは、AIの特徴を知り、適する場面でAIを活用することだと思います。AIで過去の成功や失敗を学び、そこから人間が複数の因果関係を判断して新しい可能性を生み出すことが理想です。

注意してほしいことが、AIの予測結果のみを信じすぎないことです。ある程度AIの信頼に距離を置くことが重要です。そうしなければ、ただ過去をなぞらえるだけになり新しい発見ができなくなってしまいます。

人と関われるのは人だけ

また、人の気持ちを読み取ったり表現することは人と関わることでしか身につくことができない能力です。

時には相性の合わない人や関わっていてつらい人もいるかもしれません。しかし、その時にどのように感じるか、それがまた自分の感情の理解につながり、相手の感情の理解の第一歩にもつながってきます。そして人間にしかできない複雑な因果関係の要素の一つとしていつかこの経験が無意識に活きてくることでしょう。

これも人と関わってみないと分からないことです。自分にしかない感情があり、それが相手へのいい刺激となったり、自分の発見となったり。はたまた人の心を動かす強いパワーになるのではないかと私は強く感じます。

人間の価値は「A(新たな可能性)・I(意志の強さ)」

ここまで見てきたように、人間の新たな可能性を切り開く力とと意志の強さや感情といった部分は、しばらくAIに取って代わられない分野だと言えます。

とはいえ、先ほど比較したように、大量のデータ処理や過去の分析はAIの方がはるかに上でしょう。

しばしばAIと人間が勝負される描写が多いですが、私はどちらが賢いかを比べる必要は全くないと思っています。重要なことは、AIができることをしっかりと理解したうえで活躍することです。ある程度の線引きをすることで人間とAIは共存し、人生を豊かにできるはずです。

今すぐできることは、考え続けることと自分の感情に素直でいることです。それがいずれ新たなひらめきにつながり、誰かの感情を強く理解し強く動かすことにつながると私は信じています。

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