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初めてのコーヒー
私が初めて口にした、コーヒーの味。妙にはっきり覚えているのです。
それは、小学6年生の時でしたから53年も前の事になります。
それまで、我家にはコーヒーというものは存在しませんでした。私が6年生になったばかりに、祖母が他界しました。それまでの朝食は和食で、朝にパンを食べる、ということはありませんでした。母は、祖母に気をつかっていたのでしょう。祖母が亡くなってから、少しづつ朝食にトーストと牛乳というメニューが入ってきました。
その時に初めて、私はコーヒーというものに出会あったのです。
出会いこそしましたが
「子供が、コーヒーなんか飲んだら、アホになる」。
と親に言われ、味わうことは出来ませんでした。
その頃の私は『してはいけない』ということを、する性格ではなかったので、出会ってからも、しばらく飲むことはありませんでした。
そんなある日のことです。なにがあったのかは、思い出せませんが、その時は確かに泣いていたのです。学校からの帰り道、息をいっぱい吸い込み、あふれてくる涙を、おさえていました。気弱で、アカンたれで、いつも一人ぼっちの私は、しょっちゅう、泣いていました。
誰にいじめられる訳でもないのに、泣いていたのです。泣きながら、トボトボと家に帰り着きました。いつもの事なのに、その日は、変化が欲しかったのかもしれません。「アホになっても、ええわ」と思い、親が留守だった事も手伝って、コーヒーというものを、のんでみようと思い付きました。
砂糖も牛乳も加減の分からないまま、作ったコーヒー。
涙で水びたしの体に、コーヒーを流し込みました。
体中が、チャップン、チャップン、と音をたてました。
私は直感的に「この飲み物は、悲しさを倍増させる」と思いました。
盗み飲みの後ろめたさもあったのでしょう。
「美味しぃ、ないわ。大人のもんや」と自分の中で充分納得したのでした。
これが、私の、初めて出会ったコーヒーの味です。
いま、大人の私は、悲しさを忘れるためのコーヒーを美味しく戴いています。