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ショートストーリー 猫の集会
僕のお気に入りの場所、リビングの出窓で向かいの公園を見つめていたときだ。
「ねえ虎太郎、明日満月の夜、公園で集会があるよ。一度おいでよ」窓のしたから声がした。ノラネコ鈴子だ。
猫の集会、人間は知っているのだろうか?月の綺麗な夜、地域の猫がぞろぞろ集まる。何をするでもない、何を語るのでもない、ただ2.3時間、月を眺めて黄昏れるだけである。
僕は家猫なので外に出ることは難しい。でも僕の家から公園は近いので、窓から集会を5回も眺めた。僕は行きたい! ! 逢いたい子がいるのだ。
僕は決心した。僕が家から出たら、ばーちゃんは悲しむだろう。でも、ほんのすこしのじかん、外出するだけさ。
翌日の昼過ぎ、隣の奥さんが回覧板を持ってきたとき、僕はするりと玄関をすり抜けた。ばーちゃんは叫んだ。ごめん、明日には戻るから。
昼過ぎから夕暮れになるまで、僕は裏山の竹林の中に隠れた。ここにもばーちゃんが「虎ー、とらー」と探しに来たが、僕は上手く隠れた。
夜の8時過ぎに、僕は公園に着いた。20匹近い地域の猫たちがたむろしていた。みんな見覚えのある猫たちだ。鈴子も来て居る。
あの子は来ているだろうか? 「あ、いる!」
その子は、僕と同じ毛色、僕と同じ目の色、妹に違いないと直感した。
その子と会えたのだ!
僕はずっと独りだった。生後二ヶ月くらいの幼い頃、ばーちゃん家のガレージで震えていたそうだ。「こんなに大きくなって」と、その後何度もばーちゃんは、僕の頭を撫でながら言った。
僕の記憶は細かい点だ。その点が線になるかもしれない、ぽっかり空いた穴が埋まるかもしれない。あの子はすぐそばにいる。
「ねえ、君。僕が誰か分かる?」「お兄ちゃんでしょ」即答だった。
母も兄弟も生まれたところも分からなかった僕の心に、温かい何かがやって来た。温かい涙もあふれた。
あとがき
随分前テレビで、幼い頃に戦争孤児になられたかたが語ってられました。 「戦後、僕の心の中には大きな空洞がある。自分のルーツが分からない。両親も兄弟も分からないから、自分はどこでどううまれたか分からない。知りたい思いをずっとずっと何十年も抱えている」と。 戦争は悲しすぎる。