厚化粧か整形か、答えはまだ出ない

素顔がブスだ。なんてったって目元が絶望的だ。奥二重の希望がまったく見られない完全なる一重に、半分にしたスーパーボールくらいの分厚い脂肪のような塊が乗っかっている。すっぴんで病院に行けばまず医師に「目がすごく腫れてるね~」と喉の腫れよりもまぶたの腫れを気にされる。いや、これ素です。さらに眉が救いようがない。このハゲー!で一世を風靡した某元議員は眉毛がつり上がっているのがいけないなど化粧まで批判される惨憺たる始末だったが、あれには心の底から同情するレベルで私の眉毛は彼女のそれに近い。眉山の位置が高く、へこんでいる故に動かせないのだ。さらに始末が悪いことに、この残念な眉毛と悲惨な目元の距離は遠く、眉山から目の下まで5センチ位は余裕である。必然、顔の印象はその大きな腫れた目であり、私はこの顔にほとほと嫌気を指しながら付き合ってきた。子どもの頃にかわいいと言われたことは一度もないし、学生時代に友達はナンパされても私はただの邪魔なブスだった。そういうものだと思って生きてきたし、だからこそ自立出来るように生きていかないと救いようがないだろうなと漠然と思ってきた。

ところがだ。試行錯誤で失敗を重ねながら化粧を勉強していくうちに、就職活動をする頃くらいにはコレ!という化粧方法が見つかった。目を開けた時に見える程度に目の上に茶色のアイラインをひいて、目尻も同じ太さで囲む。そして茶色のアイシャドウをアイラインに重ねて塗りグラデーションにする。たったこれだけだが、私の目の印象は格段に変わった。まぶたの面積が広い故にまつげの生え際からアイラインまではかなりの距離があるため目をつぶるとアイラインの幅が広く怖いのだが、それでも何もしないよりは圧倒的にマシになった。唇はぶ厚いので、目をこれくらい濃くしても全体的にはバランスが取れる。エビちゃんブームのおかげで囲み目が流行っていた時で、ヨレないリキッドアイライナーも出始めていた。この化粧をするようになってから、周囲の評価がうなぎもピンと直立する位上がった。化粧でこれだけ試行錯誤してるんだから、髪型とかファッションとか体型も同レベルで試行錯誤を重ね、同じくコレというものが固まった時期だった。するとあら不思議。この頃に知り合った人みなから美人と言われ、街を歩けば国内外構わずナンパされる。海外に行けば、今までで出会った中国人の中で一番美人と言われる。ちなみに私は日本人だ。学生時代の親しくない同級生からは「整形した?」と言われる。すげー失礼な質問だな。友人らはブスだったことを一様に暗黙の了解で記憶から消し去ったことにしてくれ、最初から美人だったように接してくれる。逆ブルータスお前もかだ。

ここまでとは。ブスとして20年以上生きてきたのに、急に美人に格上げされた。美人として生きるのはなんと楽しくなんて気持ちの良いものか。町中が私の味方だ。私は化粧をした自分の顔がすっかり好きになってしまい、夜は化粧を落とすのも嫌で化粧をしたまま寝ることも多々あった。ベッドでもすっぴんになんかなりたくない。この顔として生きていきたい。おだてた猿が宇宙に飛び立ちそうなくらい調子こいた。相席スタートの山崎ケイちゃんを凌駕するいい女ぶりだ。めちゃくそにモテた。なんて美しい私!なんてセクシーな私!!

が。35を過ぎ、世間ではナチュラルメークでなければ焼き討ちに遭いそうな位濃いメイクの立場が危ぶまれるようになってきた頃から、「ちょっとそろそろこのメイクきつくね?」と思うようになってきた。私は唇は厚いのでリップは塗らないし、頬骨が出ているのでチークもしない。濃いのは目元だけだが、それでも顔の印象の多くを占める目元の濃さは、「いやあのおばさんのメイクの濃さ、イタイでしょ」と失笑を買いそうな気がびんびんしている。そういえば最近ショップの店員からすっかり声をかけられなくなったけどまさかこの古い格好がイタくて時代遅れな奴なんか最新のファッションわかるわけがないと思われている?と被害妄想が順調に炸裂している。鏡に映るのはただの化粧の濃いおばさんだ。気分は船越英一郎に追い詰められた崖の上の容疑者だ。「お前そもそもブスだろ?いい加減その仮面を取ったらどうだ?」と穏やかにじっとりねっとり諭される。ぐぬぬ、もはやここまでか。

しかし自分を極限までにうぬぼれさせ美人の夢を見せてくれたメイクを手放す勇気はない。手放したところで元のブスが露呈するだけで、それならイタイおばさんの方が良い。研ナオコを見てみろあんなに潔いじゃないかと己に説くが、別に研ナオコになりたいわけでもない。堂々巡りだ。そこで案として上がったのが、「もうそろそろ整形しちゃう?」だ。高須クリニックやら湘南美容外科やら一通りのクリニックを検討してみる。だが世の中は一重から二重にする術はあっても、はれぼったい瞼をすっきりする術はないし、眉毛の位置は一生変わらない。試しに一度カウンセリングに行ったら、「あーあんたの瞼は脂肪じゃなくて皮膚なんだよねー脂肪吸引は意味ないし、二重にしたくないなら眉毛の下切るしかないかなーでも眉毛薄いから跡見えちゃうよね」と一刀両断。あの美容の権化高須クリニックの医師すらさじを投げる。一体私はこの先どこに向かえばいいの?っつーかそんなに私の顔トリッキーなのかよふざけんなよ先祖いいかげんにしろ遺伝子工学と四次元に悪態をつきながら、私はまた今日も濃いメイクをする。美人の賞味期限が切れそうな現実には、未だ向き合えないでいる。



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