とある少女の話

   ひとりぼっちの少女は、物語を作るのが
 好きでした。
 自分が作り出した物語の中で、たくさんの
 世界を旅するのです。
 物語の人物たちは、ひとりだった少女の唯一の  ともだちでした。
 少女はいつも、「ひとりになりたくない」と
願っていました。
 そして、「広い世界を見たい」とも
願っていました。

 物語の人物たちは、自分とは違いどこへでも
行ける。
 少女は、物語の人物を通して広い世界を
夢見ていました。

 ほんとうに物語の人物になれたら、広い世界を
見れるのに。
 広い世界を旅できるのに。

 どこへも行く事の出来ないこの足では、
そんな夢は叶いません。

 だから少女は、物語を作るのが好きなのです。

 ある時少女は、一匹の白い猫に出会いました。
 その猫は、黄色い目と青い目のオッドアイで、
とても綺麗な白い猫でした。

 彼女はおそるおそる、白猫に手を伸ばします。
 すると白猫は、少女の手に擦り寄り、
甘えてくるのです。

 その日から、少女はひとりでは
なくなりました。
 狭い部屋の窓から、白猫が会いに
来てくれるから。

 「あなたも…ひとりだったの?」
 少女の問いに答えるように、白猫は短く
 「にゃ」といいました。

 「わたしが猫だったら、あなたと
お話できるのに」
 いつしか少女は、「ひとりになりたくない」
とは願わなくなり、「猫になりたい」と
願うようになりました。

 猫になれば、白猫と共に広い世界を
旅できるかもしれないと思ったからです。
 物語の人物ではなく、現実に存在する唯一の
ともだち。
 ともだちになった白猫と旅ができれば、
どんなに楽しいことだろう。

 白猫は、少女に毎日会いに来てくれました。
 野良猫にしては綺麗すぎる見た目。
 かといって、飼い猫にしては自由すぎる。
 白猫は不思議な存在でした。

 しかし少女の願いは叶うはずもありません。
 猫と人の寿命は、たしかに違います。
 けれど、少女は猫よりも長くは
生きられないのです。

 日に日に、少女は弱っていきました。
 少女を心配するように、白猫はお見舞いの
木の実や花を持ってきてくれます。
 「ありがとう…。あなたは優しいね」
 なんとか伸ばした手に、いつものように 
擦り寄ってきてくれる白猫。
 「あなたと一緒にいられなくなるのは、
 嫌だよ…」
 涙と共に零れる、少女の悲痛な思い。

 白猫は次々溢れてくる少女の涙を、一生懸命
舐めとってくれます。
 大好きなともだちに看取られ、
少女は泣きながら永い眠りにつきました。

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