異能でない人にとっては 「アベレージの高い普通」力が成功の鍵
(2018年4月3日)
味方のファーストタッチの位置を見て、その選手のスキルを考慮しながらどんなセカンドタッチのオプションがあるかを想定して、自分のアクションを決めるーーー
さらにそこに敵の力量も含めて考慮し、その瞬間に何が自分のチームにとって最適な選択なのかを導き出す。自分がその選手からボールを受けるのか、あるいは他の選手に出させて次のプレーでボールを受けるのか、それともーーー。
フィールド上では、ボールが動くごとに状況は刻一刻と変化していくため、その状況に適した選択を決定することが常に求められる。味方の力量、相手の力量、そしてそこに自分の力量も考慮し、その状況に最も適した選択を導き出さなければならない。
ボールを持っている選手が大きくフォーカスされやすく、価値が高くなりがちだが、サッカーの試合において、個人がボールに触れない時間は約88分。
一方、ボールに触れている時間は2〜3分程度。
ポジションやゲーム展開によってその差は異なるが、ボールに触れていない時間にピッチで全員が何をするかが、ボールを持っている選手のプレーの幅や質の大半を決定すると言えると思う。
ただ、そういったことを理解し、認識している人はあまり多くないのかもしれない。だから、ボールに触れていない時間に活躍する選手は注目されづらい。科学的データにおいても、ボールを中心とした数値が使われることがほとんどで、実際、ボールに触れていない時の動きをデータ化したものを見たことがない(あるのかもしれないが……)。
認知、情報処理、そして予測
「Footballista」に「認知」におけるわかりやすい記事 があったので紹介したい。
認知A(状況の認識)→情報処理A(認識した情報の分析)→情報処理B(状況の解決を予測してのアクションプランを用意)→決定(用意したプランの中から最も状況に適した身体行為を使った解決方法を選択)→実行(解決に向けて体を実際に使ったプレー)→認知B(そのプレーを行った結果を反省する)→認知Aに戻る
試合においては、ボールが動くごとにこの一定の作業を繰り返し行っている。それも、オートマティックに。
実行だけ見ると本当に一瞬のできごとのように見えるが、それを細かくひもといてみると、実はこれだけのプロセスをたどっている。ただ、認知Bにおいては試合中にゆっくり分析している時間的余裕はないので、ここでは試合が終わったあとにやるものとして考える。
私が認知Aから情報処理Aの段階で考慮しているのは、ボール保持者のボディラングエッジ(姿勢、目線、身体の向きなど)と、味方と相手の位置。これらの情報をほぼ同時に処理しながら次にどうなるかを予測し、自分のアクションを決定し、実行に移している。
この「予測」という作業は非常に重要で、予測が相手よりも早ければ、いくら足の速さやフィジカル的能力が劣っていても、相手より優位に立つことは十分に可能となるし、その相手の優位性を無効化することが可能になる。
さらにもう一つ重要なのが、情報処理Bのプランを自分以外の状況に応じて、目的に応じて瞬時に変化させられるかどうか。状況が変わればその次のプレーに求められる目的も変化し、優先順位が変化する。それは、ファーストタッチのボールを置く場所一つ、身体の向き一つで、次のプレーへの最適解が大きく変化するということである。
自分が快適にプレーするためではなく、自分のアクションによってチームという組織を機能させられるかが重要な評価ポイントの一つだと私は考えていて、その実行を90分やり続けることにフォーカスすることが、チームスポーツを戦う上では重要なキーファクターだと考える。
普通というオリジナル
そして最後に最も重要なのが、認知Bの作業。
何が最適で、何が失敗だったのかを論理的に考え言語化し分析することで、失敗の理由、成功の理由を明確にし、ミスを減らすことを可能にし、精度を高めることを可能にする。認知する内容も、自分の内側と外側と両側面からのアプローチが必要。
あとはそれを繰り返し意識して練習で落とし込んで、試合に臨む。
時間がかかる問題(身体的な変化を求められる課題)もあれば、すぐに改善できる問題もある。試合で成果を出しながらさらなる向上を求めて変化し続けることは容易ではないが、そうやって蓄積された脳内(体内)データは、未来において必ず役立つものとなる。
私には“異能な才能”はなかったので、海外を生き抜くためには可能な限り“アベレージの高い普通”を目指すことが必要だった。そのデータの蓄積が普通というオリジナルを作り、それが周囲との差異を生み出すことを可能にした。飛び抜けた能力のない私が海外を生き抜いてこられた理由は、少なからずここにあると感じている。
ただ、今は自分が置かれている状況を純粋に楽しんでいる。純粋に楽しみ、夢中になることで、より意欲と向上心が湧いてくる。
成長の秘訣はここにある。