AV新法とハメ撮り界隈


「ハメ撮り界隈」という言葉をご存じだろうか。主にX(旧Twitter)上に存在する独特なコミュニティである。インプゾンビ(インプレッション数稼ぎの投稿者)の増加に伴い、知らず知らずのうちにえっちな画像や動画を目にしている人も少なくないだろう。この界隈とは、セックス中の風景を動画で撮影し、それを投稿し合う人々が集う場所だ。

ここ数年で、この界隈の人口は急増している。その原因のひとつに挙げられるのが、2022年に施行された「AV新法」だ。この法律は、成人年齢の引き下げに伴い、アダルトビデオ(AV)出演強要の被害防止を目的として成立したもの。撮影時の契約書の取り交わしや内容説明の義務化、契約締結後1か月間の撮影禁止、撮影後4か月間の公開禁止、公開から1年間の契約解除可能期間など、厳しい規制が盛り込まれている。この新法による影響で、AV業界の制作スケジュールが滞り、人材不足も重なった結果、ハメ撮り界隈がAVの代替市場として台頭してきたのだろう。

かつてのハメ撮り界隈といえば、一人称視点の簡素な素人動画が主流だった。しかし、最近では定点カメラを駆使した映像や、複数人での撮影、さらにはプロ顔負けの企画物に挑戦するアカウントまで出現している。さらに、X(旧Twitter)の投稿を起点に、Fantiaなどの課金サイトに誘導し、長時間の動画を提供する仕組みも確立されている。出演している女性側もアカウントを設け、個々のキャラクターを発信している状況だ。本来は匿名のはずの「ハメられる側」が、いまやタレントとして登場しているのである。もはや「ハメ撮り界隈」というより、「ハメ撮り商業」と呼ぶべき段階に達していると言えよう。

AV新法の施行によって、AV制作会社における出演強要などの被害は減少したかもしれない。しかし一方で、業界の停滞が生じ、金銭を必要とする若い女性たちがハメ撮り商業の世界へ流れ込んでいるのではないだろうか。結局、大きな市場が小さな市場に移行しただけで、問題の根本的な解決には至っていない。そして何より、怖い思いをした被害者たちの痛みは、単一のものであり、場所がどこであれ変わらないのだ。

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