#3 介護ワークシェアの可能性
介護保険外のオーダーメイド介護サービス「イチロウ」(https://ichirou.co.jp/)を運営している株式会社LINKの水野です。
今回、プレシリーズAラウンドで1億円の資金調達を実施しました。
このタイミングで、サービス提供開始から2年6ヶ月の実績とインサイト、そこから見えた介護の未来について振り返り、4本のnoteにまとめました。
今回の4本の記事も下記から読めるので、他の記事もぜひご一読ください。
1. 介護保険外サービス 2年6ヶ月の歩み
2. 介護保険外サービスに徹して見えた世界
3. 介護ワークシェアの可能性(本記事)
4. 介護を変える真の介護DXとは
#2では「介護保険外サービスに徹して見えた世界」についてまとめました。
今回は、4本のうちの3本目として「介護ワークシェアの可能性」についてまとめていきます。
このnoteでの表現について
・介護保険適用内の訪問介護サービスを訪問介護と表現しております。
・イチロウが提供する介護保険適用外の訪問介護サービスを介護保険外サービスと表現しております。
本記事の要約
◉ イチロウが採用したシェアリングの仕組み
・他社とは違うビジネスモデルを採用
◉ シェアリングモデルがもたらす価値
・介護士の隙間時間は活用できる
・自分で選べる仕組みが重要
◉ シェアリングモデルでの実績
・登録パートナー数の推移と登録コスト
・マッチング倍率
◉ 安全性と品質はどうしているのか
・雇用契約を締結すると品質が担保されるという幻
・イチロウで導入した安全性・品質管理の仕組み
◉ シェアリングモデルは介護士不足を解消する魅力的な仕組み
イチロウが採用したシェアリングの仕組みとは
イチロウと介護士の方々の繋がりは、これまでの介護業界の常識にあるような雇用契約ではなく、業務委託契約という形でつながっています。
すなわち、どこの企業に雇用されていても登録することができ、緩いつながりを作っている部分に特徴があります。
その業務委託契約を結んだ介護士へイチロウのパートナー用アプリケーションを提供し、イチロウへ利用者から予約があると、パートナー用アプリケーションへお仕事情報を通知します。パートナーは、お仕事情報を確認し、興味のある仕事に対して応募することができる仕組みになっています。
私たちは、この業務委託契約で緩くつながり、本業の隙間の時間に興味のある仕事をしていただく仕組みをシェアリングモデルと呼んでいます。
一般的なシェアリングエコノミーやギグワークと考え方は似ています。
最近では、イチロウと同じようなシェアリングモデルを採用した新しい介護サービスが次々生まれています。
特徴としては、介護資格保有者に特化するかしないか、介護事業所へ派遣するか、自宅へ派遣するか等で特徴を持たせてサービスを提供されています。カイスケやUケア、クラウドケア、Sketterなどが有名なサービスです。
■ 他社とは違うビジネスモデルを採用
イチロウのビジネスモデルは、他のシェアリングモデルを採用しているサービスとは少し違う形態をとっています。
一般的なシェアリングサービスは「個人間取引を仲介するビジネスモデル」になっていることが多く、契約は個人間同士で行い、マッチングを仲介するビジネスモデルになっています。デメリットとしては、サービス中に問題が起こったとしても個人間の問題となってしまいます。
イチロウも、元々は「個人間取引を仲介するビジネスモデル」でしたが、2021年4月から「業務委託型のビジネスモデル」に切り替えています。要介護者やその家族から介護の依頼をイチロウが受け、イチロウに登録するケアパートナーへ業務を再委託する形です。
これにより、介護依頼者は意見を伝える先がイチロウ一本になり、介護士側はトラブル時にはイチロウが守ってくれるためリスクを抑えて働くことができるようになるなど、両者へのメリットがあります。
介護は身体的・精神的・プライバシー的にもリスクが伴う仕事です。個人間取引では、プラットフォーム運営者としての責任が果たせないと感じ、2021年4月から「業務委託のビジネスモデル」へ転換する方針を固めました。
シェアリングモデルがもたらす価値
次に、シェアリングモデルでサービスを運営してくる中で得たインサイトとして、ポジティブな部分について詳しく説明していきます。
■ 介護士の隙間時間は活用できる
近年、フリーランサーやギグワーカーなど新しい働き方が誕生しています。介護士にも、この考え方が当てはまる可能性があると思い始めたシェアリングの仕組みでしたが、想像以上に遊休時間が多く存在することに気づきました。
登録ケアパートナーとの面談時に「なぜイチロウで働こうと思ったのですか」と質問をすると、よく「シフトでは週5日も働きたくはない。毎週固定の勤務を増やしたくない」という答えが返ってきます。
介護事業所では、基本的に毎週◯曜日の◯時〜◯時と固定されたシフトで働くことを求められるため、「週5日は辛いから週2日のシフトにする」という、働く時間はあるが敢えて働かないようにしている現象が起きていました。
もっと具体的にすると、正社員ではなくパートやアルバイトの介護士に隙間時間が存在していました。
イチロウが提案する働きたい時に働けるシェアリングモデルのような、シフトに縛られない新しい働き方を提案することで、パートやアルバイトとして働く介護士の隙間時間を活用できる仮説が成り立つことが証明できました。
実は介護業界はパートやアルバイトなどの非正規雇用が多い業界です。施設やデイサービスで働く介護士の約40%、訪問介護員に至っては約75%が非正規で働く人たちです。介護とシェアリングモデルは相性の良い仕組みだということがわかりました。
実際にイチロウで働く介護士の95%以上が副業・ダブルワークで働く介護士です。介護事業所でシフトに沿った仕事をしながら、休みの日にイチロウで働いています。
パートやアルバイト介護士の隙間時間の活用は、介護士不足という社会課題の解決につながる良い仕組みだと思います。
■ 自分で仕事を選べる仕組みが重要
介護業界はパートやアルバイト介護士が多く、イチロウはうまく隙間時間を活用しているという話をしてきました。
しかし、ただ単純に隙間時間を活用しましょうと言っても、介護士の方々はイチロウへ登録してくれません。
イチロウでは、介護士の潜在的な「与えられたシフトで働くことへのプレッシャー」の解消が重要だと思っています。
介護士は潜在的に「自分で仕事を選びたい」と思っています。
介護事業所からシフトを与えられるのではなく、自分で仕事を選択して働きたいと思っています。
介護事業所はどこも人手不足で、シフトを作る作業は一苦労です。シフトを作成するマネジャー職の人は、パートやアルバイトの人にできるだけ多くシフトに入ってほしいと思っているため、「◯◯さん、もうあと1日入れないかな?もうあと1時間働けないかな?」というお願いします。(私も毎月シフト作成に苦労していました・・・)
介護士は優しい方が多く、入りたくないシフトでも頼まれれば入ってしまいます。私たちは、こんな与えられ続け求められる働き方に疲れてしまっているのではないかと思っています。
イチロウでは、アプリへ届くお仕事の中から、働きたいお仕事へ応募し働くことができます。この仕組みにより、シフトを与えられるのではなく、自分で選択して働くという体験を提供しています。
シェアリングモデルにおいては、登録する介護士の方々自分で選択して働く仕組みが必要不可欠だと思っています。
シェアリングモデルでの実績
ここまで、シェアリングモデルがもたらす価値について説明しました。
ここからは、シェアリングモデルを採用して出した実績について説明します。
■ 登録パートナー数の推移と登録コスト
実際にイチロウで働く介護士が、どのように増えていったのか数値で説明します。(実際の数字は事業運営上控えさせていただきますが数百人規模です)
右肩上がりに登録ケアパートナー数が増えていますが、実際に1人のケアパートナーの登録にかかっているコストは約1000円です。
雇用と登録では前提が違うものの、一般的に介護士1人を採用するのにかかるコストが、50万円前後と言われるため、いかにイチロウがコストをかけずに登録していただいているかがわかります。
■ マッチング倍率
マッチング倍率とは、1件のお仕事に対するマッチング倍率です。(2021年1月〜9月)この倍率が高ければ高いほど、プラットフォーム上に供給側の介護士が多いといえます。
数値は単発系のスポット業務と、定期系のレギュラー業務に分けています。
・スポット業務のマッチング倍率:3.5人
・レギュラー業務のマッチング倍率:1.9人
スポット業務に関しては、1案件に対して3.5人が応募してくださり、レギュラー業務に関しては、1案件に対して1.9人が応募してくれている結果となっています。
次に、1案件に対して興味を持ってくれたPV数です。(2021年1月〜9月)
PV数とは、仕事の概要を見て興味を持っていただき、詳細な情報を確認までしてくれたパートナーの数のことです。
・スポット業務への平均PV数:10.9人
・レギュラー業務への平均PV数:7.7人
これは、とても重要な数値です。
イチロウでは、この数値だけでなく応募から登録、登録からアクティブ化まで様々な数値を管理しています。数値をもとに、ケアパートナーがイチロウでたくさんの仕事を引き受けていただき、利用者へクオリティの高いケアが行われるよう日々数値の改善を行なっています。
安全性と品質はどうしているのか
シェアリングモデルで懸念される安全性や品質管理についての考え方とアクションについて説明します。
■ 雇用契約を締結すると品質が担保されるという幻
介護保険制度には、人員基準というルールがあります。これは、サービスの品質を保つために必要な人員を配置するよう設定されているルールです。
人員基準として認められる人員とは、「雇用契約を締結している人」のことを言うため、介護保険制度上では雇用契約を締結することが必須となります。
シェアリングモデルを採用していると「雇用契約ではなく業務委託契約だが、安全性は大丈夫ですか?」と質問されることがあります。しかし、雇用契約と業務委託契約の違いで安全性に差がでるのでしょうか。雇用していれば安心・業務委託だと不安なのでしょうか。
安全性や品質とは契約の種類に依存するものではなく、運営側にこれを担保するための仕組みが構築されているかだと思っています。
■ イチロウで導入した安全性・品質管理の仕組み
私たちは介護士を自宅等へ派遣する際に懸念される要素は主に以下の4つに集約されると思っています。
1. 派遣される介護士は危険な人物ではないか?
2. 求めた介護を提供できる介護士が来てくれるのか?
3. 相性の合う介護士が来てくれるのか?
4. 信頼できる人が来てくれるのか?
4つの懸念点について、イチロウが構築した仕組みを紹介します。
まとめると以下のような取り組みを実施しています。
1. 派遣される介護士は危険な人物ではないか?
・オンラインでの1対1の面談
・顔写真の提出
・身元の確認 *バックチェックサービス導入予定
・職務経歴の確認
・資格証コピーの提出
2. 求めた介護を提供できる介護士が来てくれるか?
・希望サービス内容とADLから割り出す11項目の介護難易度の算出
・介護士の11項目5段階の介護スキルのチェック
・介護スキルと介護難易度を照合するマッチングアルゴリズム
3. 相性の合う介護士が来てくれるのか?
・独自に開発した適性検査(CSPI)による性格診断
1. 性格
2. コミュニケーション能力
3. 思考性
4. ストレス耐性
4. 信頼できる人が来てくれるのか?
・利用者評価の蓄積
・担当CS評価の蓄積
イチロウでは、安全性と品質管理を重要視しています。
命に関わる現場を管理する立場であるからこそ、安全性と品質管理を徹底して取り組んでいます。
ここまで考えて考え抜き作り込んだ仕組みであれば、業務委託に基づくシェアリングモデルの方が、雇用契約モデルを凌ぐ仕組みになっていると思っています。
合わせて、イチロウではこの仕組みをオンライン上で管理・運用することが可能となっています。
シェアリングモデルは介護士不足を解消する魅力的な仕組み
ここまで、シェアリングモデルの仕組みや価値、懸念事項について書いていきました。
全体を通して言えることは、シェアリングモデルが提供する働き方は、介護業界にはマッチしやすく魅力的な仕組みであるということです。
しかし、自由度の高い働き方である一方で、働く介護士やサービ品質の管理を怠ると、大きな事故や高齢者への不利益へ繋がります。
私たちは安全性や品質等の「サービスのクオリティ」を一番高いプライオリティに据えてシェアリングモデルの仕組みを構築してきました。
クオリティへのコミットを疎かにしたシェアリングモデルは、別の社会課題を生み出すことにつながるため、運営者の倫理観やオペレーションの裏側を支えるシステムが必要不可欠であると言えます。
次回の#4では、イチロウで得たインサイトを踏まえ、「介護を変える真の介護DXとは」について書きたいと思います。
最後に、イチロウでは介護保険外サービスの発展のために、本記事をベースとした取材依頼や志を共にする仲間を募集しています。
少しでも関心がある方は、どしどしご連絡いただけると嬉しいです。
【会社概要】
会社名:株式会社LINK(https://link-cocokara.jp/)
代表取締役:水野友喜(みずのゆうき)
資本金:33,799,354円
本社:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2丁目2-17 トランスワークス青山
事業概要:オーダーメイド介護サービス「イチロウ」の運営
介護現場で10年以上経験した代表取締役の水野友喜が2017年に創業。
「年間10万人の介護離職の課題」「介護士の低所得・人材不足の課題」など、介護の社会問題をインターネットの力を活用したデジタル視点で解決することを目指し、介護業界のDXに取り組んでいます。
【本件に関する報道関係者からのお問合せ先】
広報担当:水野友喜
電話:052-325-8385 メールアドレス:corp@ichirou.co.jp
【採用のお問合せ先】
採用担当:中澤美樹
電話:052-325-8385 メールアドレス:corp@ichirou.co.jp
最後までご精読いただきありがとうございました。