96. 「日本らしさ」の罠
皆さんこんにちは。三浦優希です。
今回は、「日本らしさ」という言葉について僕の思う意見を表明したいと思います。それではよろしくお願いいたします。
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「日本らしさ」
「日本人らしさ」
「日本の武器」
「日本の良さ」
業界を問わず、この言葉をこれまで耳にした方はきっと多いかと思います。そしてこれらのワードは特に、競技スポーツの世界では頻繁に使われます。
「日本チームの良さを出して戦いたい。」
「日本らしさが出せない試合内容でした。」
とインタビューでこたえる選手を見たことがある人は少なくないでしょう。僕自身、過去にこういった回答をしてしまったこともおそらくあると思います。
でも。「日本らしさ」の正体ってなんでしょうか?この言葉たち、とってもあやふやだとは思いませんか?
日本らしさって何?
ぱっとこの言葉を聞いて思いつくものと言えば、
勤勉、マジメ、器用、努力家、礼儀正しい、スピードがある、感謝、忠誠心がある、細かい動きが得意、信頼する...
といったところでしょうか。(もっともっとあげられるかもしれませんが)
日本人の多くが、これらの要素は世界に誇るものであり、また世界で通用する武器だと思っているものです。
チームとしての「日本人らしさ」
実際、2015年のワールドカップで日本中を感動の渦に巻き込んだラグビー日本代表チームを指揮したエディー・ジョーンズ監督は、
昨年のラグビーW杯の後、私はたくさんの人から「日本人のラグビーチームでよく南アフリカなどの強豪チームに勝てましたね」と言われました。しかし、その質問自体が間違っています。彼らは、日本人だからこそ勝てたのです。
引用:エディー・ジョーンズの教え「成功したいなら、日本人らしさを活かせ」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50434)
と、こたえています。エディ―ジャパンは、「ジャパン・ウェイ」というテーマを掲げ、「日本人らしさ」を活かすことで体格差を補い、ラグビー世界強豪国から勝利をあげました。
日本代表は、日本独自の戦い方をするチームでなければなりません。これが「ジャパン・ウェイ」です。
「ジャパン・ウェイ」とは、要するに、「日本人らしさ」を活かすということです。まず、トレーニングのやり方。これは日本人らしい、生真面目で、100パーセントの努力を注ぐものです。
日本人の素晴らしさのひとつに、「勤勉さ」があります。これがあらゆる力の源と言っても過言ではありません。トレーニングは「ハードワーク」と呼ぶにふさわしいものですが、これを、時間を区切って一日3回行ないます。
引用:エディー・ジョーンズの教え「成功したいなら、日本人らしさを活かせ」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50434)
エディ―監督は、日本人の強みとして「信頼、忠誠心、努力」の3つのキーワードを基にチームを作り上げていきました。「ジャパン・ウェイ」とはまさしく、単なる外国のコピーではなく、エディージャパンが数々のリサーチを行ったうえで導きだした、日本チームが世界と対等に戦う上でカギとなる要素だったと思います。
成功の背景には、僕なんかが言葉では軽々と表現できないほどの選手・コーチ・スタッフ・関係者のハードワークが確実にあったはずですが、そこに更に「日本人らしさ」が加わることで、素晴らしい結果を手にすることが出来たのだと思います。
個人としての「日本らしさ」(ここからが本題)
今までは、ラグビー日本代表を例に出し、チームとしての「日本らしさ」についてお話をしてきました。
ここからは個人単位での「日本らしさ」について語りたいと思います。ここでは、日本人選手が海外にスポーツで挑戦するという前提のもと、お話を進めていきたいと思います。
これは僕の考えですが、海外に個人でチャレンジする選手は「日本人らしさを活かす」という考えは切り捨てた方が良いと思っています。この「日本人らしさ」という言葉や感覚にとらわれる必要は全くないと思っています。
なぜなら、「日本人だから」という理由だけで、ピッチ上、フィールド上、リンクの上での評価が上がることは基本ないからです。日本よりも競技レベルが高い海外リーグに挑戦する際は特にそうです。「スペイン人が日本のサッカーリーグに来た」時と、「日本人がスペインのサッカーリーグに行った」ときでは、周りからの期待値やそもそもの評価が圧倒的に違うはずです。
アイスホッケーの話を例に出します。
日本人アイスホッケー選手はよく「スピードがありスケートがとにかく速い」と言われます。日本人自体が、そこに対して自負しているところもあるかと思います。確かにそうかもしれませんが、リアルな話をすればアメリカにも同じくらい、いや、もっと速く滑れる選手がいくらでもいます。レベルが上がっていくにつれて「足が速い選手」の母数はどんどん増えていきます。いくら「日本人のよさ」であるスピードがあったとしても、それを上回る速さ+高いスキルレベルを持った選手がうじゃうじゃ出てくるわけです。
そういった状況になっても、まだ「俺には日本人の良さがあるから・・」と言っていられるでしょうか?それで周りにいるライバルに勝てるのでしょうか?
結局競技レベルが上がれば上がるほど、リーグ全体における選手一人ひとりの基礎スキルレベルといものはどんどん高くなるわけです。自分が今まで「誰にも負けない武器」だと思っていたものが、その舞台では「当たり前、最低限の能力」になってしまうケースは少なくないと思います。
試合に出るために必要なことはたった一つです。それはとてもシンプルで、「チーム・コーチが求めることを素早く理解し、それを高いレベルで再現する」ことです。これができれば確実に試合に出れます。逆に、試合に出れない選手というのは、何を求められているのかというものを理解できず自分がやりたいことだけをやっている選手、あるいは、やろうとしているけどそもそもそのレベルに達するスキルが身についていないかのどちらかです。
つまり、海外挑戦においては「日本人らしさ」というものはそもそもチームから求められていないということです。なくても良いものなんです。一度氷の上に立てば、その選手がどこの国の人間なのか、どこから来たのかというものは関係ありません。チームスポーツにおいてそもそもプレイヤーというのは、そのチームの掲げるビジョン、目指しているゴールを達成するために存在しているものであり、自分がやりたいことをするためだったり、自分の祖国の良さを出すためにチームにいるわけではありません。
僕がこれを言えるのは、所属している大学が多国籍チームだからです。アメリカ、カナダを除くと、日本、スウェーデン、フランス、ドイツ、スロバキア、ラトビアというように様々な国から選手が集まっています。この先もっと国籍は増えるかもしれません。そしてここにいるみんなは、このアメリカという地で上のステップに行くために、「アメリカで求められるホッケー」を体現しています。みんなそれぞれ、出身国のアイスホッケースタイルというものがあるとは思いますが、それよりもまずはこのチームでやるべきことを最優先しています。なぜなら、それをやらなければここにいる意味がなくなるからです。
僕が思うに、その国の良さを出せる選手というのは、高い水準でスキルレベルを兼ね備えている選手のみにできる特権だと思います。そもそもチームが求める標準レベルを体現できない選手が、自分がやりたいことをやっているようでは先はありません。これは僕が今まで実際に目の前で目にしてきたトッププレイヤーに共通していることですが、「上手い選手・活躍する選手」とよばれる人たちはみんな、コーチから言われていることを確実にきっちりこなします。それをこなしたうえで、他者が想像もできないようなクリエイティブなプレイをプラスアルファで生み出します。だから、活躍しています。そこが、エリートプレイヤーとノーマルプレイヤーの差です。
簡単に僕が言っていることをまとめると、
「世界で通用する」=「外国で活躍すること」
であり、それはつまり
その国で求められるものを体現する必要がある
よって
日本らしさは必要ない
というのが僕の考えです。
勘違いしてほしくないのが、僕がここで言っているのは「じゃあアイデンティティを全部捨てればいいじゃん」という意味ではありません。僕が伝えたいのは、「日本人らしさにとらわれすぎるな」ということです。
ピッチ上、ピッチ外での礼儀正しさ、相手を思いやる心、誰よりも努力できる、物事にまじめに取り組む・・
などなどこういった誇らしき要素を、無理やり「日本人らしさ」に当てはめるのではなくて、「自分個人の能力のひとつ」として考えればいいと思っています。
自らが生まれ育った国の文化や国民性に誇りを持ちつつも、そういった能力を「日本人だからできる」ではなくて「僕だからできる」という風に自分が身に着けた武器として考えていくというのもありだと僕は思います。
僕は日本人として生まれたことを心から誇りに思っているし、この国のことが大好きです。
ただ、ことアイスホッケーに関しては、挑戦を個人で続けていく以上、「日本人だから」という理由で優遇されることはまずありません。むしろ、それがネガティブに働くこともあるでしょう。
だからこそ、「日本らしさ」なんていうものに縛られるのではなく、自分が活躍し、この世界でのし上がっていくために必要な事柄をこなしていくのが重要になります。そういったことを繰り返していくうちに、「日本らしさ」というものは勝手に周りが付随させていくものではと思っています。
お国柄というものにとらわれず、自分の実力で他を圧倒すること。
日本らしさ、どこから来たかなんて関係ない。
今自分がいる場所で、圧倒的に抜きんでること。
まずはこれです。
僕ももっと頑張ります。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
三浦優希
P.S
今回の話は、現在FC今治アカデミー・メソッド U-15チームの監督をされている渡辺憲司さんとお話をする中で整理できた内容になります。この話をする中で、「多様性」というワードについても僕なりの解釈が生まれてきたのでまたいつかこのテーマでもnoteを書きます!
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