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178. 今後のアイスホッケーとの向き合い方について

みなさん、こんにちは。三浦優希です。

今回は、僕にとって、とても大切な話をさせていただきたいと思います。

少し長くなってしまうかもしれませんが、どうか最後まで読んでいただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

これまで持ち続けてきた、NHLに行くという夢について

さて何から書くべきか、と迷っていたのですが、遠回りしても仕方ないので、ストレートに結論から書きます。

これまで僕は、夢を聞かれるたびに「NHLに行き、日本代表を長野大会以来の五輪に導くこと」と言い続けてきました。

しかし、現実的に、NHLに行くという夢は、叶えることが厳しいと思います。

「厳しいと思います」なんて一言で書くと、あっさり諦めたように聞こえるかもしれませんが、この事実を受け入れることも、この文章を入力することも、本当に簡単ではありませんでした。

なぜなら、20年以上、自分を信じて追い続けて来た夢であり、全てをかけて海外挑戦をしてきた最大の目標に対して、「叶わない」と自分で認めることになるからです。

正直、これまで生きてきた人生において、これだけ認めたくない事実と向き合うことはこれが初めての経験で、自分でもどうすれば良いかわからない、というのが最初の気持ちでした。

なぜこのような気持ちに至ることになったのか、書いていきます。

突きつけられた現実

まず、なぜ今になって自分の夢を諦めるような発言をするのかについてですが、それはプロになってからの過去4年間で、現実を改めて突きつけられたからです。

そもそも僕は20歳でアメリカに来た身で、NHLドラフトもされていません。大学4年間でも目覚ましい活躍を残せたわけではなく、言ってしまえば滑り込みでECHL(北米3部)でのキャリアをスタートさせた形です。

その頃から、とにかく、世界トップ選手との差を少しでも埋められるよう、頑張ってきました。

しかし、現実はそう甘くありません。

現在、ECHLで4年目のシーズンを迎えていますが、これまで一度も、シーズン中にAHL(2部)にコールアップをされたことがありません。

それも、「結果を残しているのに呼ばれない」といったことではなく、シンプルに上に呼ばれるほどの実績を残せていないのが現状です。

決して悪いスタッツではありませんが、上のリーグに呼ばれるほど飛び抜けて良いものではありません。

また、現在僕は28歳で、いつの間にかチームでも最年長に近い年齢となりました。

もちろん、年齢だけが理由ではないですが、毎年、ECHLには若く有望な選手が入ってきます。NHL傘下ということもあり、ドラフトされている選手、大学やジュニアリーグで結果を残しAHL契約をした選手などが、育成の観点からECHLに送られ、このリーグでプレイ時間を確保するというのはよくあることです。

そんな選手が多くいる中で、28歳という決して若くない年齢の僕が、優先度的に下がっていくことは、当然のことです。

何より、NHLドラフトされていたり、AHL契約をしている選手でさえ、実際のAHLチームに定着できず、ECHLのみでしかプレイできない選手も多くいます。過去のチームメイトでも、たくさんいました。

あんまり言うべきかどうか分からないですが、リアルを伝えるためにこちらに書くと、ECHLで年間40ゴールや100ポイント近く決める選手でも、AHLに残らなかったり、ヨーロッパに拠点を移すケースもあります。

もちろんその判断には給料の面など様々な背景があるかとは思いますが、ECHLで大活躍している選手が、NHLのルートに全員乗るかというと、そうではないのが現実です。(一方で、これまでECHLからは700人近くのNHL選手が誕生しているのも事実です)

それだけ選手が溢れている中で、ECHLでダントツの成果を残せていない28歳の僕が、上に呼ばれる可能性が低くなるのは、明らかです。

また、さらに現実を突きつけられた出来事があります。それは、今シーズンの頭に、初めてAHLチームのトレーニングキャンプ(シーズン開幕前のトライアウト期間)に呼ばれた時のことです。

自分としては、まずは目標としていた2部の舞台に足を踏み入れることができた、とても嬉しい瞬間ではありました。

しかし、結果的には、キャンプ開始から3日-4日ですぐにチームからリリースされ、所属チームに送り返されました。

元々AHLチームの人数が少なかったため、補充要因として自分が呼ばれたことは分かっていましたが、それでも、わずか数日間の滞在でリリースされたことは、自分の客観的評価を理解するには十分な出来事だったと思います。

これらの要因から、これまで無理やり自分に言い聞かせてきた「NHLに行く」という目標を口にすることに、抵抗が出てくるようになりました。

自分にも周りにも、嘘をつきたくない

これまで「NHLに行きたい、NHLに行く」と、常に言い続けてきたわけですが、現実問題、これから自分がNHLに行ける確率は、ほぼゼロに近いです。

ほぼゼロ、という言い方なのは、自分が現役を続けている限り、0パーセントにはならないからです。もうすこし細かく言えば「NHLは自分の力でいける世界ではなく、もしいけるとしたらとんでもないラッキーや棚ぼた的な要因に期待するしかない」という理解です。たとえば怪我人が大量に出るとか、そういった形です。

この現実をもちろん認めたくないし、諦めたくないです。普段こんなことを口にすることはないし、これまでも自分を信じ続けてきました。

ただ、あまりにも現実からかけ離れた目標は、もはや単なる理想で、「諦めない」という姿勢だけでリアルから目を背け続け、自分のなりたい姿だけを語り続けるのは、僕の考える本質からはズレていると思っています。

選手として、人間として、限られた時間を有効に使うためにも、地に足をつけ、自分自身の選手としての立ち位置や価値を把握することは、とても大切だと思います。

何より「NHLを目指す」と口にするのは、自分にも周りに対しても、偽っているように感じるようになったことが一番大きいです。

「夢はなんですか、目標はなんですか」と問われた時に「NHLに行くことです」というのは、本気でチャレンジを続けてきた身だからこそ、「そんなの見栄を張ってるだけじゃん」と心の中で強く思うようになりました。

少し残酷だと思うのは、スタッツは毎年右肩上がりになっていたり、今年はキャプテンに任命されたり、AHL(2部)のトレーニングキャンプに呼ばれたりと、ぱっと見では夢に向かって近づいているように見えるかもしれないことです。

周りの人からしたら「諦めるのはまだ早い」とか「順調に進んでるのに」と思われる方もいるかもしれません。「お前の夢への気持ちはそんなもんなのか」と思う方もいるかもしれません。そのお気持ちは、十分理解できます。

でも、現実は違います。

言うならば、僕が進んでいるのは、あくまで「ECHL内における存在感」であって、「NHLに進むためのステップ」としては、進むスピードがあまりにも遅すぎます。むしろ、プロデビューした頃からほとんど進んでいないと言っても過言ではありません。

プロになってから4年間本気で毎日チャレンジし、この舞台で戦い続けたからこそ、わかることがあります。壁はとても分厚いです。

もしかしたら、今後2部のAHLに呼ばれることはあるかもしれません。もちろんその機会があればつかみたいし、今でも目標としています。でもNHLは話が別です。僕と同じような思いを持っている選手がAHLにも数え切れないくらいいることでしょう。

上に行くことは本当に難しいです。

でも逆に言えば、この場で戦い続けることで降りてくるチャンスもあります。残念なのは、先ほども話したように、NHLを目指すことにおいては、「もしかしたら急に上に呼ばれるかも」と、何かしらの外的要因に期待するくらいしか自分にはできないということです。

自分の力だけで、ロースター入りをすることは、ほぼ不可能に近いです。それを簡単に理解させてくれるくらい、自分の実力を感じさせられる場面がこれまで多くありました。

20年以上も追ってきた夢を諦めるのは、本当につらいことです。最初は、妻にも言えませんでした。

先ほど触れたように、上に行きたい気持ちは1ミリも変わりません。誰しも高いレベルでプレイしたいに決まっています。でも、現実と乖離しすぎている夢は、もはや夢ではなく、幻想に過ぎないのではないかと感じるようになりました。

これは、現場に立ち続けてきたからこそ、理解できたことだと思います。最初から無理だと思っていたわけではありません。

夢を持ち続けることは、本当に大切なことだと思います。実際にそれが原動力になることがたくさんあります。僕も自分の夢に突き動かされてきた一人です。

ただ、これまで海外挑戦を続けてきた身として、自分の実力を客観的に知る機会もたくさんあり、また、これまで挑戦の過程をみなさんにも発信をしてきたからこそ、このまま「いつかNHLに行きます」と言い続けながらただただ年齢を重ねていくのは、どんどん自分を偽り続けているだけだろう、と感じるようになりました。

だからこそ、ここではっきりみなさんにも伝えようと思い立った次第です。

アイスホッケーに向き合う気持ちは変わらない

ここまで読んできていただいた人の中には、「もうホッケーやる気ないの?」と感じられる方もいるかもしれないので一応説明しておきます。

そんなことは全くありません。アイスホッケーに向き合う気持ちは変わらないし、なんならむしろ日に日に強くなっていると思います。

毎日、上手くなりたいと思い続けているし、成長したいと願う気持ちも変わりません。

僕はこれまでと変わらず、真摯にホッケーと向き合っていきます。

また、NHLは難しいかもしれないですが、選手としてのもう一つの大きな目標である「日本代表を長野大会以来のオリンピック出場に導く」という気持ちも変わりません。

ここで皆さんに伝えたかったことは、現実を見て、地に足をつけ、アイスホッケーと向き合っていく、ということです。

これまで本当に多くの方々に応援してもらってきました。NHLに行くという目標を信じて、さまざまなご支援やご声援をいただいてきました。

そういった方々に対しては、とにかく申し訳ない気持ちでいっぱいです。

でもそれ以上に、この本音を隠して「これからもNHLに行くという僕の夢を応援してください」とは、どうしても言えませんでした。

自分の使命は一体なんなのか

ここ数ヶ月間(なんなら数年間)、自分が持ち続けてきた夢と再度向き合う中で、考え続けてきたことがあります。

それは、自分の使命とは一体なんなのか、ということです。アイスホッケー選手として、海外チャレンジャーとして、これまで挑戦を続けさせてもらってきた自分が、全うするべき使命について、ずっと考えていました。

そんな中で、浮かび上がってきた答えが2つあります。

まず一つは、現所属チームのIowa Heartlandersを常勝チームにすることです。

選手の移り変わりが世界的に見ても極端に激しいこのECHLというリーグで、4年間同じlowa Heartlandersというチームでプレイし続けられていることは、本当にレアな経験だと思います。

また、今年初めてチームキャプテンに任命していただいたことや、自分がチーム創立時からの唯一のメンバーであることも、何かの縁を感じています。

最初は、まさか4年間も同じチームに残ることになるとは思いもしませんでしたが、最も信頼できるコーチと出会えたことや、一からチームが作られていく過程を、内側から見続けられていることは、何事にも変え難い価値のある出来事だと思います。

そして、lowaはこれまで、「弱小チーム」と思われ続けています。実際、リーグに参入してから最初の3年間は、カンファレンス内で毎年最下位で終わっていました。

どのチームからも、これまではリスペクトを得られていなかったと思います。

だからこそ、これらの背景を踏まえ「Iowa Heartlandersを常勝チームにすること」こそ、アイスホッケー選手としての自分の使命ではないかと思っています。

実際に今年、4年目を迎えたチームは、過去最高の戦績を残しています。もちろんまだまだシーズン半ばですが、悲願のプレイオフ進出も現実的な話になってきました。

新たな歴史を作るシーズンにしたい、と思っています。

そして2つ目の使命は、この舞台で戦う日本人として、北米挑戦のリアルを伝え続けていくこと、だと思っています。

最近、どんどん若い日本人選手が海外挑戦をはじめています。日本アイスホッケー界にとっても、この動きは素晴らしいことだと思います。

NHLを目指す若き日本人選手が多くいる中で、ほとんどの選手にとって登竜門となるのがこのECHLです。

今後、NHLドラフトされる選手が出てきたり、NHL契約、AHL契約をする選手がきっと出てくると思います(たくさん出てきて欲しいです)。

そうなった時に、どこかのタイミングにおいて、ECHLでプレイする、という時間が高確率で発生すると思います。

もちろん、ずば抜けた実力を持っていたらECHLは縁のない話になると思いますが、いきなりNHLロースター入りをするような選手はほとんどおらず、それを目指すにはまずはAHLに定着する必要があります。

でも、これも決して簡単ではありません。AHLは、「リアルNHL予備軍」です。ここで爆発的な結果を残している選手がNHLに呼ばれるわけなので、AHLでちょこちょこ出れるとか、少し活躍できる程度では、NHLコールアップを勝ち取ることは難しいです。

これまで本当にたくさんの選手を見てきましたが、絶対にNHLに行くだろうと思っていた選手が、AHL止まり、下手したらECHLが主戦場、となるケースも多く目にしてきました。

当たり前ですが、世界中から超優秀な選手が毎年集まり続ける中で、20数名しかないチーム内のロースタースポットに残り続けるのは、本当に本当に大変なことなのです。

だからこそ、ECHLを軽々超える選手が現れるべきだし、AHLで出続けることが当たり前の選手が多く生まれなければいけません。

北米でのプロキャリアを目指すのであれば、どの選手も、ECHLでは当たり前に結果を残し、まずはAHL (2部)に定着することが不可欠になります。

「日本人でもECHLでは当たり前にプレイできる」ことを、自らが証明し続けていき、それと同時に、ECHLでプレイすることのリアル、競争のハードさ、選手層の厚さなどをしっかりと次世代に伝えていくことが、自分に与えられた仕事かな、と考えています。

このリーグは本当に、さまざまな点で興味深いことがたくさんです。

以上、Iowaを勝たせること、ECHLでプレイすることや北米挑戦のリアルを伝え続けることの2点が、自分の使命だと思っています。

今後について

ここまで長々と書いてきましたが、最後に今後について少し触れたいと思います。

まず、アイスホッケー選手としての現役生活ですが、まだまだこれからも続けていく予定です。

未来のことはわからないのではっきりと言及はできませんが、基本的には現所属チームのIowaでプレイをしていくことが長くなるのでは、と思っています。(繰り返しますが、何が起きるかは分かりません。)

少し前までは、ヨーロッパの各国でプレイしたい思いも持っていたし、10代でプレイしていたチェコにもいつかプロ選手として戻りたい、という気持ちもありました。でも今はもう、自分が今後、ヨーロッパに行くことはほぼないと思います。

自分のホッケー人生は、アメリカで完結させるものだと思って、日々生活しています。(もちろんチャンスがあるのなら、生まれ育った日本でもプレイしてみたい気持ちはありますが)

いずれにしても、選手として成長することを目指し続けることは変わりません。自分が行けるところまで、上を目指すことも変わりはしません。

何より自分はアイスホッケーが大好きだし、チームが勝利を手に入れた瞬間のあの高揚感は、生きている中でも本当に素晴らしい瞬間の一つだと、いつも思っています。

限られたアイスホッケー選手としての時間を最高のものにするために、今回の文章を書きました。少しずつ次のステップに向けての準備も進めていかなければいけません。

今後、自分がどのようなアイスホッケー人生を送ることになるのか、どのような終わりを迎えるのかは分かりませんが、とにかく、一日一日を大切に、目の前の自己成長にフォーカスし、自分の使命を考え続けながら、これからもチャレンジを続けて行きたいと思います。

引き続き、どうぞよろしくお願い致します。

今回も最後で読んでいただき本当にありがとうございました。

三浦優希


追記:
大変ありがたいことに、このお話を発表させていただきたいと思っていたタイミングで、各メディアの方々にも取材をしていただく機会がありました。

取材の中でも、このnoteで書いたようなことを、はっきりとお伝えさせていただいています。

記事は今後増えていくかと思いますが、現状すでに公開されている記事をこちらにまとめさせていただきます。ぜひ、これらも合わせてお読みいただけますと幸いです。


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